【白銀の砦序章】 むかしむかし、あるところにまっしろなうつくしいおしろがありました。 おしろにはかしこくゆうかんなおうさまと、やさしいおきさきさまがすんでおり、くにのみんなにとてもすかれていました。 そしてふたりのあいだには、おうさまのぎんのかみとおきさきさまのむらさきのひとみをうけついだ、かわいらしいおひめさまがうまれました。 おひめさまはたいせつにそだてられてすくすくとせいちょうし、15ねんのとしつきがながれました。 そのころにはおひめさまはくにいちばんのうつくしさとうたわれ、まわりのくにからたくさんのおうじがけっこんのもうしこみにやってくるようになりました。 しかしおひめさまは、すがたばかりほめるおうじたちがどうしてもすきになれませんでした。 ほんとうにじぶんがすきになったひとでなければ、けっこんはいやだとなきました。 ついにはだれにもあいたくないと、じぶんのからにとじこもってしまうようになったのです。 ただ、おしろのにわのかたすみにある、ちいさなバラえんだけがおひめさまのこころのよりどころでした。 そんなあるひのあさ、おひめさまがいつものようにバラえんにむかうと、そこにひとりのわかものがたおれていました。 わかもののふくはぼろぼろにやぶけ、からだのあちこちにひどいけがをしていました。 おひめさまはあわててめしつかいをよび、わかものをへやにはこばせました。 そしておひめさまはわかものがめをさますまで、つきっきりでかんびょうしたのです。 めをさましたわかものは、おひめさまにこころからおれいをいいました。 せいけつなふくをきてみなりをととのえると、わかものはとてもうつくしいすがたをしていました。 すこしげんきになると、おひめさまにいろいろなくにのおはなしをしてくれました。 ながいあいだひとりでたびをしてきたのだとわかものはいいました。 だれよりもあたまがよく、なんどもおひめさまをわらわせました。 こんなふうにたのしくおはなしができたおとこのひとは、おひめさまにとってはじめてでした。 そしてわかもののけががかんぜんになおるころには、ふたりはおたがいにあいしあうようになったのです。 わかものはこのくにのうまれではなく、みよりがありませんでした。 はじめははんたいしていたおうさまたちも、おひめさまのねっしんなせっとくにこころをうごかされ、さいごにはふたりのけっこんをみとめてくれました。 わかものはおひめさまのむことしておしろにむかえいれられることになりました。 わかもののちしきのおかげで、くにはますますさかえました。 おひめさまとわかものはしあわせにくらし、やがておひめさまによくにたかわいらしいおんなのこがうまれました…………… 女の、白い腕を深紅の液体が伝う。 ぽたり。 ぽたり。 それらは冷たい石床に零れ落ち、水溜りを作った。 ───ねぇ。 ───あなたには分からないでしょう? ───ふふふ。 |