冷たく澄んだ空気。
ガラス窓から差し込む、眩しい陽光。
階段の下ではばっちゃんの作るコーンスープが美味しそうな香りを漂わせ。
庭ではデンが大柄な友人──久しぶりに帰ってきた幼馴染みの一人と楽しげに駆け回っている。
────さあ、朝が来た。
「こらエド! いいかげん起きろ────!!」
あたしは現在の我が家の居候、エドの眠っている部屋に意気揚々と乗り込むと声を張り上げた。
今日はリゼンブールで年に1度のお祭りがある日。
2日前に半壊していた機械鎧の整備を終わらせ(それもあたしの努力と腕の賜物だ)、
いつものようにさっさと旅立とうとするエド達を引き止めたのは全てこの為。
…ほんと、滅多に帰って来ないんだから。
案の定エドは渋い顔をしていたけど、こういうイベントがある時くらいゆっくりしたっていいと思う。
結局のところ、お祭りは単なる口実なのかもしれない。
それでもやっぱり、今年は皆で一緒にお祭りを楽しめると思うと嬉しくて。
小さい頃に3人で屋台を回った時の事を思い出して懐かしさで胸がいっぱいになる。
「早く起きなさい!! 何時だと思ってんのよ!!」
「………んー………」
…にしても。
(どうしてコイツはこんなに寝起きが悪いのよ!!)
どうせ昨夜も遅くまで錬金術の本を読んでいたのだろう。
エドは相変わらずネコのように毛布に包まったまま、一向にベッドから出る気配がない。
さっきの生返事にしたって、半分以上夢の世界に足を突っ込んでる感じだ。
そしてすー…ぴー…と気持ち良さそうな寝息が部屋に響く。
「………それはあたしに対する挑戦?」
たぶん、今あたしのこめかみには青筋が浮かんでいる。
あたしはひとつ大きく息を吐くと、ずんずんとエドの眠るベッドの傍らに近寄った。
そして。
「でやっ!!」
掛け声もろとも、毛布を引っぺがし────
……………………。
このヤロ、最初から警戒していたのか。
強引に引っ張った毛布は豆男にしっかりと握り込まれ、ぴくりともしない。
しかも本人はまだまだ寝る気モード。
「ふっ……そっちがその気ならやったろーじゃないの」
もともと、負けっぱなしで我慢できる性分じゃない。
こうなったら意地だ。
何がなんでも引き剥がすべく、あたしはベッドの端に片膝をついて更に毛布を引っ張り────
ドサッ。
突然、力の抵抗を失って視界が回った。
違う。視界だけじゃない。
あたしの背中にあるのは、何故かベッドのシーツ。
目に映るのは古ぼけた木造の天井。
そして、あたしの身体に覆い被さるようにして乗っているやけに重い物体は………
「エエエエエド!?」
声が、思いっきり裏返る。
だって。どうして。なんだってこんな事に。
ていうかあたし今、コイツに引っ張られなかった!?
この体勢は何!?
頬にエドの柔らかな髪が触れ、エドの匂いがあたしの鼻先をくすぐる。
顔は限界まで火照り、もはやパニック寸前だ。
「……や…だ……っ!」
反射的に口をついて出た言葉。
エドは嫌いじゃない。
だけどあたし達は、ただの幼馴染みで。まだ何も言ってなくて。
こんなの、何か間違ってる。
相反する気持ちで心がぐちゃぐちゃだ。
「エ、ド………!」
起き上がろうと肩に力を入れたところで更にぎゅ、と両腕に抱き込まれて。
思わずあたしは身を竦ませ、きつく目を閉じた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「…………………エド?」
「……………………………すぅ……」
ピシッ。
なんだかそんな音が頭上で響いたような気がする。
おそるおそる目を開け、僅かに顔を横に向けてみれば。
すぐそこにあるのはあたしを抱き枕状態で抱え込む男の、なんとも暢気な寝顔。
────完っ全に熟睡中だ、コイツ。
(……………このバカ豆は〜〜〜〜〜〜!!!!)
脱力と言うか、ナンと言うか。
断じて期待してたとか、そんなのじゃない。
それでもこうもお約束をかましてくれるとあたしのドキドキを返してくれと言いたくなる。
まぁ、それ以上にホッとしたのも事実だけど。
「はぁ…」
苦笑を浮かべ、あたしはとりあえずこの腕の中から脱出を試みる事にした。
こんな場面、アルやばっちゃんに見つかったら何て言われるか分かったものじゃない。
第一、この状態でエドが目を覚ましたらあたしだって気まずいし。
(……それにしても幸せそうな顔してるなぁ……)
機械鎧のせいで身長の割りに重い身体の下でエドを起こさないよう位置を測りながら、
ふと、何年振りかで間近に見た幼馴染みの寝顔に見入ってしまう。
子供のように安心しきった、気の抜けた顔。
こうしていれば、つらい境遇だとか国家錬金術師だとか全然感じさせない…普通の男の子でしかない。
余程いい夢でも見ているんだろうか。
よくよく聞けば、何やらむにゃむにゃと寝言のようなものも呟いているようだ。
ほんの少し、興味を覚えてあたしはエドの口元に耳を近づけた。
「……ウ……」
「…え?」
前振りもなく自分の名前を呼ぶ時と同じ発音で紡がれた声に、再び心臓が飛び跳ねる。
まさか、あたしの夢を見てるとか……言わないよね?
「……牛の大群が……っ」
「牛かよ!!!」
もう、何処を中心に突っ込めばいいのやら。
東の国に伝わるハリセンという物がここにあれば遠慮なく脳天に叩き降ろしていただろう。
そもそもホントに眠っているのか、コイツは。
実はからかわれているんじゃないのか。
そんな事まで考えてしまう。
───と。
その時になって、あたしは自分の太腿に何かが当たっているのに気が付いた。
服を通していても硬くて、熱くて。
何だろう?と首を傾げようとして───次の瞬間、身体が凍りつく。
……あたしは機械鎧整備師で、これでも外科医の端くれで。
一通り学んだ医学の中には人間の生理現象なんてのも含まれていて。
今は朝。
思春期の少年のコレは、つまり─────
「き……きゃああああああああああ!!!!」
「────────ッ!!!!!!!」
長閑な田舎に力いっぱいの悲鳴と激しい破壊音と声にならない悶絶が響き。
────頭の中が真っ白になったあたしが次に見たのは、
既に原型を留めていない元・エドワード・エルリックだった──────。
結局エドは、(怪我の療養の為)その後も一週間リゼンブールに滞在する事になり。
その間あたしが奴と会話を交わしたかどうかは、語るべくもない。
ごめん、エド!!(爽笑)←コラ
眠りネタは数あれど(私もエドウィンだけで既に2回やってるし)、
会社帰りにふと上記の下ネタを思い付いてやらずにおれませんでした。
因みにシティ●ンターは私の愛読書です。
初めてアニメで見た時は分からなかった意味が理解できた時、
オトナになった気分になりました(笑)。
今思うと少年誌なのにかなり堂々とイロイロ書いてたよね…すげぇ。ガンガンはムリだよきっと。
という事で。ウィンリィの攻撃がドコに向けられたかはご想像にお任せします。
耐えろ兄さん。いつか役に立つ日も来るさ(え)。
…前回のダークシリアス系の次がコレかよ自分…。
→何気にこの続き小話もあったり。