【月の下の真実】






───名誉の為に断っておくが、それは本当に偶然だった。





 日が沈み、そろそろ夜の闇が辺りを包み込もうという時刻。

湖の畔に佇むふたつの影があり。

木陰に隠れるように語り合うその影はやがて寄り添うように重なりかけて。

近くでぱきん、と小枝を踏む音に動きを止めた。







「………………」

「………………」

「………………」

 沈黙がその場を支配する。

ここで何があったのか。

何をしようとしていたのか。

その疑問を口にする者も、答える者もいない。

なんとも言えない空気が一番星の輝くビュッテヒュッケ城の湖畔に生まれ…そして緩やかな風と共に去った。

「……………クリス……」

 最初に沈黙を破ったのは男の声。

この男にしては珍しく、動揺の色が伺えるのはそれだけやましい理由がある故か。

「…………………邪魔したな。」

 クリスは声の主に一言、そっけなく言い放つとくるりと背を向けた。

来た道を戻ろうと足を踏み出しながら、思い出したように付け加える。

「そっちの気が済んだら、サロメの所へ行ってやってくれ。城の警備についてお前の意見も聞きたいそうだ。」

「待っ………」

「それと。───余計なお世話かもしれないが、妻ある身でうら若き少女と逢引きとは感心できないな。ここに住む者には子供も多い。彼らの情操教育にも悪かろう。せめてもっと目立たぬ場所を選べ。」

「あいび…ちょっと待…!」

 慌てる男に対し、顔だけ振り返ったクリスの表情はいっそ神々しいまでに爽やかだった。




「───しかしお前が『そういう趣味』とは知らなかったぞ、ナッシュ。」




「だから待て─────!!!!」

 クリスの言葉にナッシュの絶叫が重なる。

飄々として本心を見せない男だが、今ばかりは普段の余裕は欠片も見えない。

「誤解だ!! 誰がこんな妖怪オババと…」




───ドンガラピシャーン!!

だがしかし、最後まで言う前に局地的雷が憐れな金髪男を襲った。




「誰が妖怪じゃ。まだ口の利き方を覚えておらぬとは、ほんに進歩のない男よの。」

 その電撃の発生源…白銀の髪を揺らして微笑むのは、まだ15、6くらいの美少女。 

真珠の如く滑らかで白い肌とルビーを思わせる紅い瞳が印象的な彼女は、予想外の展開に呆気にとられて立ち止まったクリスに視線をやると、ふむと頷いた。

「そうかおんしが真の火の紋章を継ぎし者か…」

「…………あの……」

 見た目は自分より遥かに年下の少女である。

だが何故か、抗う事のできない迫力とでも言うのか──奇妙な感覚に、クリスは戸惑いを覚えた。

「シエラお前なぁ!! 全然手加減しなかっただろう!!!」

 と。黒焦げ寸前となっていた物体がクリスと少女の間に割って入る。

その昔、歩く武器庫と呼ばれた彼の服にはどうやら耐火能力も備わっているらしい。

そうでなければまず間違いなく無事では済まなかっただろう。

それを知ってか知らずか全く気にする様子を見せない女性2人は、豪胆なのか冷淡なのか微妙なところである。

「当然じゃ。わらわを愚弄するなど1万年早い。昔、散々教えてやったと思うたが物覚えの悪い男じゃ。」

「うるさい!! だいたい、あんたが紛らわしい事しようとするのが間違ってるんだ!!」

 本当に、いつもの余裕は何処へやら。案外こっちが地なのかもしれない。

そんな事をぼんやりと思うクリスに向かい、ナッシュはすたすたと歩み寄った。

その手はいつの間にやらしっかりクリスの肩を掴んでいる。

「いいかクリス。何をどう見て誤解したのか予想はつくが、断じておれは無実だ。」

「…………わたしに力説しても仕方ないと思うが。」

「いいから聞け! まず第一に、こいつは『うら若き少女』なんかじゃない。こう見えても27の真の紋章のひとつ月の紋章の正統なる継承者であり、吸血鬼の始祖様ってヤツだ。おれもそこそこ年はくったが、千年近く生きてる女と一緒にいて怪しげな趣味だと思われる筋合いはない。」

「それはおんしの今までの態度が問題なのではないかえ? 日頃の行いというものぞえ。」

「そこ!! 余計なツッコミを入れない!!」

「………………」

 どうも、さっきからこの2人を見ていると漫才にしか見えないのは気のせいだろうか。

最初に見た時の艶っぽい雰囲気は既にぶち壊されている。

いや、もしかしなくてもあれはこっちの思い込みだったのか。

「そしてこの一言多い始祖様は、単なるおれの古い知り合いだ。まぁ長くなるので詳細は省くが、15年前の統一戦争の時にたまたま出遭って荷物持ちにコキ使われたってのが正解か。そんな訳で、さっきおそらくあんたが見たのは────」

「わらわは久々の再会のしるしに無駄に余っていそうな生気を貰おうとしただけじゃ。言っておくがわらわにも好みがある。このような男に身を委ねるほど生に飽きてはおらぬでな。」

 背後でふふ、と艶やかに笑う少女の言葉にナッシュは改めて大きく溜息をついた。

37歳という自己申告のわりには若く見える男だが、その心底疲れたような表情の意味するものは。

「……生気って……吸血鬼って、まさか、血………」

「ま、そういう事だ。ったく油断も隙もあったものじゃない。おれだってもう若くないってのにさ。」

「………………」

 取り敢えず。

クリスはひとつ息を吐くと馴れ馴れしくも肩に置かれたままの手をパン、と軽く叩いて払った。

「お前の言い分は分かった。だが、何をそんなにムキになる必要がある。」

 言ってから何故こんな冷たい声になるのかと自分でも驚く。

「それは勿論、お姫様にあらぬ誤解をされたままでは死んでも死にきれないからですよ。」

「…………わたしはお前が誰と何をしていようと別に困らないが。」

「それはそれは………」   

 わざとらしくも苦笑を浮かべる男に、クリスは胸がちくりと疼くのを感じた。

気が付けば、ナッシュの口調はいつものクリスがよく知る口調になっている。

しかもこの男がクリスに対して必要以上に敬語を使うのは、クリスをからかう時が多いのだ。

もはやどこまでが本気で、どこまでが冗談なのか分からない。




───なんだか、面白くない。




「それで。おんし、いつまで待たすつもりじゃ。さっさと炎の英雄殿をわらわに紹介せい。」

 と、一方的に非友好的な空気を醸し出す男女の後ろで腕組みをしていた少女…シエラがナッシュをじろりとねめつけた。

「ああ───」

「すまない、自己紹介が遅れた。わたしはクリス・ライトフェロー。ゼクセン連邦騎士団長を勤める者だ。」

 隣の男が口を開く前に、クリスは自分から名乗った。

この少女が真実ナッシュとどういう関係にあれ、ここで変に構える方がおかしいだろう。

そもそもそんな必要もない筈だ。自分には何の関係もないのだから。

「聞けば、貴女も真の紋章を宿しておられるとか。これも何かの縁、もし宜しければ我らにお力添え頂けるとありがたい。」

 これは紛れもない本心である。今はひとりでも多く協力者が欲しい。

月の紋章とやらの力がどれほどのものか想像の範囲を出ないが、真の紋章を宿す者の力はきっと大きな戦力になる。

紆余曲折を経てゼクセンとグラスランドが協力する事にはなったものの、ハルモニアにはまだまだ未知の力があるのだ。

「ふむ。わらわの名はシエラと申す。確かにわらわはそこのうつけ者が言った通り、月の紋章を宿しておるが。───その件に関しては応じる事はできぬな。」

「おいシエラ、炎の英雄が頼んでいるんだ。そんな即答しなくても…」

「おんしは黙っておれ。」

 すぱこーん。

すかさずシエラの靴が飛び、ナッシュの頭に当たって跳ねた。

「……………お前な…………」

「おんしにはもう用はない。わざわざおんしを呼びに来られたのだ、さっさと行って用事を済ませるが良い。わらわはこの者と乙女同士の話があるでな。」

「クリスはともかく誰が乙女───」

「…まだ電撃を味わい足りないようじゃのう?」

「いえいえもう充分です。───じゃあなシエラ、あんまり彼女を苛めるんじゃないぜ。クリスも気をつけろよ。」

「誰にものを言っておるのじゃ。いいから早く行かぬか。」

 軽口を叩きながら城に向かって歩き出すナッシュの背をシエラが容赦なく追い立てる。

口を出すタイミングを逃してしまったクリスはただ呆然とそれを見送る事になってしまったのだった。








「………………」

 なんとなく無言で立ち尽くすクリスの髪を、夜風がふわりと撫でる。 

成り行きとはいえ、この妙に年寄り地味た言葉使いの少女(と言うと語弊があるか…)と2人っきりとは───協力して欲しいのはやまやまだが、はっきり言って落ち着かない。

騎士団なんてものに属していると学生時代と違って新たに女性と交友関係を築く機会は各段に減ってしまうが、それにしたってこのシエラという女性はクリスの今まで知るどんな女性ともタイプが違う。

これが真の紋章を宿す者特有の雰囲気なのだろうか。

とにかく、それが落ち着かない理由だろう───たぶん。

ナッシュの後姿が完全に見えなくなったところで、どう話を切り出したものか悩んでいるとシエラの方から声を掛けられた。

「クリスと言ったか。すまぬが、そこの靴を拾って貰えるかの。」

「え? あ、ああ。」

 見れば先ほど投げられた片方の靴が足元の地面に転がっている。

クリスは慌ててそれを拾い、持ち主に渡してやった。

なんとはなしに靴を履き直す彼女を見ていると、シエラがくすりと笑う。

「警戒する必要はない。おんしをとって喰うつもりはないゆえ。」

「え、いや、そんなつもりは…」

「そうじゃの。立ち話もなんだし、そこの岩にでも座って話そうかの。」

「ああ…」

 反対する理由もないので言われるまま湖に面した巨大な岩に並んで腰を降ろした。

目の前に広がる湖には月の明かりが映り、ただ静かに風が木々を揺する音だけが辺りに響く。

「おんし、ナッシュを好いておるのか?」

「なっ!!!!」

 いきなりの先制パンチに、クリスは思わず声を詰まらせた。

これがもし飲み物を口にしていたら吹き出していたに違いない。

「誰が!! あいつはただ成り行きで仲間になったというか居座ったというか、とにかくそんなのじゃない!! だいたい妻帯者だろう!!」

 咄嗟に反論しつつ必要以上に大声になってしまった事に余計に焦る。

そんなクリスにシエラは目を細めた。

「ふむ、そうらしいのう。わらわの思い違いだったかの。」

 あっさりと引き下がると、面白そうにクリスを見やる。

「………………」

「ふふ、だからそんなに気張るでない。わらわが話したかったのはそんな事ではないのじゃ。」

「では…」

「おんしはわらわに協力を仰いだ。じゃが、さっきも言ったようにそれは叶わぬのじゃ。」

「それは…何故だ?」

 どうにか気を取り直し、クリスは隣に座る少女を見つめた。

真なる紋章を受け継ぐ者は年をとる事も、死を迎える事もない。

そしてこの少女は千年もの時を生きたという。

一口に千年と言っても、それだけの長い月日の間にいったいどれだけの物語があったのだろうか。

彼女の真意を窺い知る事など、つい最近紋章を宿したクリス如きには不可能なのかもしれない。

「人には、宿星というものがある。どう生き、どう死ぬか。それが生まれた瞬間から決まっているという考えじゃな。わらわのこの呪われた生もそれに言わせると宿星というものらしいが、わらわはそんな話を信じてはおらぬ。」

 シエラはそこで一度言葉を切った。

「だが、長く生きているとなんとなく分かるものもあるのじゃ。己が必要とされておるか否か。かつて都市同盟の盟主であった少年に出遭った時は、それが分かったから協力もした。そして今は、わらわの出る幕はないという事じゃな。実のところ、それを調べるつもりもあってこの城に出向いたのじゃ。昔の馴染みが滞在しているという噂も聞いたのでちょうどいいと思うてな。」

「…それは、わたしが至らないという事か?」

 知らず知らす、声に緊張が走る。

かつての都市同盟と今はなきハイランド王国の話はクリスも知っている。

当時はまだ子供だったが、隣国の大きな戦争の噂は幼いクリスの耳にも入った。

そしてハイランド王国を破った都市同盟のリーダーが、真の紋章を宿したまだ若い少年だったという話も後に聞いた。

 今の、自分の状況によく似ている。

炎の英雄の志を引き継ぎ、真の火の紋章を宿した自分がゼクセンとグラスランドを繋ぐ鍵となっているのは誰よりも自分が承知している。

クリスが、真の火の紋章の継承者としての資質なければ───全て終わりだという事も。

紋章を受け継ぐという事がどういう事か、分かっているつもりだ。覚悟はした。

だからあの場で一歩を踏み出した。

だが、それでも────。

「そうは言っておらぬ。わらわにはおんしが真に炎の英雄であろうとなかろうと、関係ないのじゃ。おんしに実際逢ってわらわは必要でないのを確信した、それだけの事。それならばわらわは自分の好きなように行動するだけじゃ。もともとわらわは戦いは好まぬ。こう見えても人里離れて静かに暮らすのが性に合っておるのじゃ。」

 ふ、とシエラが表情を崩した。




「心配するでない。おんしは───姿形こそまるで違えど、あの少年と同じ瞳をしておる。おんしならやり遂げられよう。このわらわが言うのだから間違いない。」




「シエラ、殿…」

 不覚にも。クリスは目が熱くなるのを感じた。

大きく、大きく息を吐く。

───誰もがクリスを真の火の紋章を受け継ぐ者として心から認めている訳ではない。

最初からクリスに尽くしてくれていたゼクセン騎士団の皆はともかく、カラヤクランやリザードクラン…グラスランドの民達は長年の敵であるクリスを完全に認められる筈がなかった。

当然だろう。クリスは過去に彼らの同朋を何人も斬っている。それが戦争だった。

それが何故ひとつの城にいるかというと、ハルモニアという共通の敵を退ける為に仕方なく協力しているからに過ぎない。

クリスが『炎の英雄』だからではない。

今は『炎の英雄』という名の旗印が必要なのだ。

だからクリスがその名に相応しくなければ、おのずと結果は見えてくる。

態度には出さなかったが、それがどれだけクリスの心に負担となっていただろうか。

 だけど。

第三者であり、真の紋章の継承者であり、統一戦争の経験者であり、誰よりも長く生きたシエラの何気ない一言は確実にクリスの心を軽くしていた。








「さて…と。用も済んだし、わらわはそろそろ行くかの。」

 どれくらいそうしていただろう。

時間にしてほんの数分だろうが、ひどく長い時が過ぎたような気がする。

クリスが顔を上げると、腰掛けた岩から立ち上がったシエラが手荷物を抱え直すところだった。

「お待ちを。せめて、今夜は城に泊ってゆかれるがいい。それくらいはさせて貰おう。」

 反射的に彼女を引き止める。

もう彼女に協力を仰ぐつもりはないが、そうせずにはいられなかった。

だがシエラはあっさりと首を横に振った。早くもクリスに背を向け、顔だけこちらに向ける。

「わらわは騒々しいのは苦手だと言ったであろう。申し出はありがたいが、ここで失礼させて貰う。」

「しかし、夜には魔物も…」

「わらわにそのような者は通用せぬ。見たであろう?」

「……違いない。」

 先刻ナッシュを一撃した力を思い出し、クリスはようやく頬を緩ませた。

シエラはそんなクリスに再び目を細めた。

「のう、おんし。」

「は?」

「真の紋章を継ぐ者は、時の流れに逆らう事になるのはおんしも承知しておろう。だがの、だからと言って己の気持ちを偽る必要もないのじゃぞ。」

「………それは………」

「───あやつは、15年前と少しも変わっておらん。本心を見せないのはあやつの十八番じゃ。妻帯者とは言うておるが、わらわに言わせるとそれとて怪しいものじゃの。…だが、あやつの中の『優しさ』は本物だと信じてやってもいいとわらわは思う。無論、本人に面と向かっては死んでも言わぬがな。」

「………………」

 ほんの少し。シエラの顔に昔を懐かしむような表情が浮かぶ。

湖のほとりで月明かりの下に立つシエラは、本当に月の女神のように、この世のものではないように───美しかった。

「あやつはかつて……わらわと同じ道を歩んでもいいと言いおった。わらわはそれを断った。あの時のわらわにはあやつを受け入れるだけの勇気がなかったのじゃ。」

「………………」

「今のあやつが誰を想うておるのか……それは、おんしが確かめるが良かろう。」

「………シエラ殿………」

「ふ…少し喋り過ぎたようじゃの。年寄りの独り言だと思うて忘れてくれて構わぬぞえ。」 

 ではな、と。

立ち尽くすクリスに微笑むと、シエラは振り返りもせずに城とは反対方向へと歩き出した。

一歩ずつ。過去ではなく、己の進む道へ向かって。

「……………ありがとう………シエラ殿。」

 闇へと消えていく背中にかけられた言葉は、風に掻き消されて夜空へと舞った。








「……それで、そこで何をしているんだ。」

 シエラと別れて歩く事、およそ150歩。

城へと続く階段に背を預けるようにして佇む人物に、クリスは声をかけた。

心持ちその声に溜息が混じっていても無理はあるまい。

なんとなく、そんな予感はしていたのだが。

───この場所は湖からはちょうど死角になる。

「いや、サロメ卿は忙しそうだったのでね。彼の手が空くまで夕涼みも悪くないと思っただけですよ。」

 躊躇いもなく言ってのける辺り、この男の図太さも相当のものである。

「………聞いていたのか?」

「まさか。いくらおれでもそこまで人間離れした耳をしてないさ。こう暗いと唇を読む事もできないしな。」

「どうだか。」

「おいおい、少しは信用してくれよ。」

 肩を竦めるナッシュに、クリスはもう一度溜息をついた。




 そして。

す、と彼の前に回り込むと爪先立ちになり。

静かに。ほんの一瞬だけ。

唇を、重ねた。




「………礼だ。受け取っておけ。」




───全ては、クリスの為。

最初から味方である彼や騎士団の皆が言ったのでは意味がない。

ヒューゴやゲドやトーマスが言ったのでもそれは同じ。

第三者であるシエラの言葉だから、意味がある。

 彼がクリスの心の負担に気付き。

だから彼女に協力を頼んだという事くらいは、いくら鈍くても予測できる。

───誰にも見せなかった弱みに、彼だけは気が付いた。




「…なんの事かな。少なくとも、あいつはお世辞なんてものにこの世で一番遠い存在だぜ。」

「……そうだろうな。」




 一瞬、驚いたように目を瞬かせたナッシュだったが、すぐにいつもの笑みを見せる。

それがなんとも彼らしいと思えた。




どきん。



どきん。



どきん。




至近距離で感じる男の吐息に、心臓が自分のものではないように鳴り響く。

次いでナッシュの手がクリスの肩に廻され─────




「クリスさまぁ────! 何処にいらっしゃるんですか────!」




 頭上から聞こえる従者の声に彼の上司が反射的に飛び退いた為に、その手はものの見事に空振りとなった。




「………………」

「ル、ルイス!? 今行く!!」

 お互い接吻くらいでどうこう言う年でもない筈だが、今になって己の行動が恥かしくて堪らない。

真っ赤な顔で少年の声がした方向に返事を返すクリスに、ナッシュは掌をひらひらさせて苦笑を浮かべた。 

「…さすがはクリスさまの従者、素晴らしいタイミングで。せっかくのラブシーンだというのにな。」

「…っ、何を馬鹿な事を言っている! さっきのは深い意味はない!! わたしはただ…」




 その瞬間。

今度は、ナッシュの方から唇を合わせられる。

先ほどクリスが仕掛けたのとは比べ物にならない。

息をするのも苦しい───大人の、くちづけ。




「………っ!!!」

「忘れないでくれ。あんたは間違いなく炎の英雄だが、おれにとっちゃクリスっていう名の魅力的な女性であるのに変わりはない。紋章の継承者でもなく、騎士団長でもなく、ただひとりの女性の、な。」

 今まで見せた事のない、真剣な表情に思わず息を呑む。

「………な、何を……っ!」

「クリスさまぁ──────?」

「ほら、ルイスが待ってるぜ。お姫様を独占したいのはやまやまだが、そうもいかないのが哀しいところでね。」

 だがそれは、あっという間にいつもの飄々とした笑顔に取って代わられた。

「……分かってるっ! お前も、さっさとサロメの所に行け!!」

「はいはい、ご随意に。」

 先刻より更に顔を紅くして弾かれたように駆け出すクリスの後ろを、のんびりと歩き出す男の気配がする。




「今は……な。」

 ぽつりと呟かれた言葉は、果して空耳だったのか。




どきん。



どきん。



どきん。




心臓が、跳ねる。

何かが、変わる。

それはクリスにとって、何を意味するのか。






今はまだ─────その序章に過ぎないのだろう。

頭上では全てを知っているかのように、月が静かに湖を照らし出していた。







        【ひーとうとう書いちゃったよ座談会・幻水3バージョンその2】

作者 「やっほい!! とうとうやっちまったぜイェイ☆(ヤケ涙)」

       ドンガラピシャン!! ←電撃が落ちた音

シエラ「……ほんに、どうしようもない奴じゃの。(冷たい目)

    蒼き月の村の長老たるわらわにこんな役回りをさせるとは、命が惜しくないと見える。」

作者 「ううう…分かってはいるんだよ、シエラ様ファンを敵に回すのは〜〜〜。(黒焦げ)」

シエラ「それならどうしてこうなったのじゃ。」

作者 「だって壁新聞が!! シエラとナッシュがこっそり逢ってるとなれば、

    数少ない(苦笑)外伝好きとしてはネタにせずにはいられなかったんだよ〜。

    それプラス演劇でナッシュにシエラ役関係をさせた時がもう楽しくて楽しくて。

    だから最初は『クリスをからかって遊ぶシエラ』『両手に花(笑)のナッシュ』

    『クリスの嫉妬』を主軸にもっとギャグを入れてやるつもりだったんだよ。

    それがいつの間にやらシリアスちっくになってシエラの待遇は改善されたんだけど、

    その分ねぇ………」

シエラ「その分、ある事ない事適当に書いておる訳じゃな。(スパッ)

    ここまでくれば本当のファンに喧嘩売ってると思われても仕方ないぞえ。」

作者 「ふふ…クリスもナッシュも別人だしね…ふ…ふふ…誰かしらアレ…?

    どーせ俺は大人が主役だろうと中坊レベルの恋愛しか書けない単純お馬鹿さ……」

シエラ「所詮、この程度の人間に期待するだけ無駄というものよの。(呆れ顔)」

作者 「…でも、外伝の解釈はあながち間違ってないと思う…(ぽそ)」

シエラ「…………何か言ったかの?(バチバチと電撃を掌に乗せながら)」   

作者 「イエナンデモアリマセン。ハイ。」 

     作者脱兎の為、座談会強制終了。ってこれでは3でなく外伝バージョン…(殴)






シエラ様ラヴ(何を)。
本当に好きなんだよ、ナッシュ×シエラも。
永遠にナッシュはシエラに勝てそうにないのが素敵(笑)。
でも今は梨栗!ここまで嵌ったのは全てこの2人のせいです。
例え最後は別れるのでも不倫でも(コラ)ドリーム見させて下さい…。