陽子さん。またウロ覚えなんで細かいツッコミは無しの方向で…

【龍の牙】





───ばさ。

───ばさり。

旗が舞う。

ひらりひらり、といった優雅な動きではない。

上空を駆け抜ける風に吹き上げられ。

もしくは旗手の激しい動きに翻弄されるかのように猛々しい動き。

だが、どんなに激しくはためいてもその旗の柄と色を見間違える事はないだろう。



「───これで最後だ! 気を抜くなよ!」



一際力強い、よく通る男の声が響く。

それに呼応するように、うおおおおお、と雄叫びが上がった。



───ばさ。

───ばさり。

旗手の掲げた旗が大きく舞う。



その柄は、龍。

軍旗の色は、紫。

その示すものは────禁軍。

王の為だけに存在する、王直属の最強の軍隊。



それが、二種類。

隣国、雁のものと。

つい先日やっと手中に治める事ができたこの国、慶のもの。









「───大丈夫か。」



先程の声の主───雁国の王が少女の乗った騎獣の隣に己の騎獣を寄せた。

真紅の髪に翡翠の瞳をした、まだ十六かそこらの少女───陽子は静かに頷く。

連戦に次ぐ連戦で疲れは溜まっている。

しかも剣を人に向けただけではなく…実際に人を斬った。何人も。

単なる女子高生であった数ヶ月前には考えられなかった今の自分。

これが堪えていない筈もないが、しかしそんな事を言ってもいられない。



「大丈夫です。───私が終わらせなければならない。」

「───そうだな。だが、まだ終わりではない。」

「はい。これから…ですね。全てが。」



限られた者達しか昇る事を許されない雲の上。

遠目に、微かに鳥の群れのように見えるのがこの戦い最後の敵となるだろう。

あれさえ崩せば、勝利は目前だ。



だが偽王軍を鎮圧してそれで終わりではない。

慶の正式な王として立つ。

それは長く険しい道───引き返す事のできない全ての始まり。



ふ、とまた龍旗が目に映った。

自分が慶の真の王だという証。

治世五百年を誇る大国雁の王の後押しがあるという証。

一瞬、身体に震えが走る。



「───陽子?」

「……怖いですね。龍はまた自分の身体を…慶の民を裂こうとしている。王は龍の旗の元に、自国の民を裂く事ができる…」



龍の旗はうねり、本物の龍のように牙を剥いて襲い掛かる。

莫大な兵の力。

それが王の力。

国が整い、本来の形を取り戻せば禁軍とその他の軍との差は歴然だ。

その上、禁軍には首都州の州師もつく。

王のものである麒麟が治める州師は王の軍にも等しい。

太綱に定められたより多くの兵を持てない以上、最低でも残り八州全ての州師が連合しなければ禁軍に数で太刀打ちできないという。

そして遠く離れた州同士が禁軍に対抗しつつ協力するのは至難の業だ。

己の身可愛さで王におもねる州候も必ず出る。

だからこそどんなに王が道を踏み外そうと簡単に王を斃す事はできず、国は荒れる。



「───それを御すのが俺達の役目だ。無血の国など有りはしない。内乱の鎮圧、罪人の処刑、王はそれらを民に代わって行わねばならない。…そして牙は王にも向けられている事を忘れるな。」

「───はい。」



過ぎた力と無限の年月は、容易く人を狂わす。

賢君が暴君になった例など数え切れないだろう。

無慈悲に民を裂いた龍の牙は間違いなく王にも返ってくる。

例え、州が結束して王を討たなくても。

それはやがて王の半身へと形を現すのだ。

麒麟の病───失道として。

王を神にした麒麟が死ねば、王も死ぬ。

王が死ねば────王のいない国は、更に際限なく荒れる。

天災が容赦なく国土を蝕み、妖魔が溢れる。



───御伽噺ではない。

これらが全て現実になる世界に、自分は足を踏み込んだのだ。









「───来た。まずは目の前を片付けるぞ、全てはそれからだ。こんな処で死ぬなよ!」

「はい!」



もう、豆粒くらいの大きさだった影は人の形をしている。

こちらと同じように空を翔る騎獣に乗った兵達。

彼らの手には剣と槍、弓。

隣を駆ける延王が流れるような動作で太刀を鞘走らせる。



ばさり、と旗が大きくはためいた。

ひゅん、と矢の放たれた音が響く。

そして喚声(ときのこえ)。



───全てはここから。

自分には悩んでいる時間はない。

恐れて物陰に隠れてはいられない。

今、自分にできる事はこれしかないのだから。



怖いからといって火を使わないままでは人類に未来はなかっただろう。

自らを燃やす火の怖さを知り、それを使いこなすのが人。

龍の牙も同じ。

今この世界で自分にしかできないというのなら、やってみよう。

少しでもましな自分になる為に。

自分を信じてくれた人達の為に。

王の存在で救われるというこの国の人達の為に。



───その為には絶対にここで死ぬ訳にはいかない。









「───行くぞ!!」



景麒から借りた使令が動く気配がする。

きん、と腰から抜き放った水禺刀を手に、陽子は龍の渦の中へと飛び込んだ。








                    【今更過ぎる十二国シリアス小話だよ座談会】

作者「という訳で。100企画第12弾に引き続き第13弾も十二国記でしたー♪」

陽子「………今頃、偽王軍ネタか? 黄昏が出て2年以上経ってるというこの時期に?

   教育テレビのアニメでさえ風の万里をやっているというのに?」

作者「う。いいんだよ、ワタシが十二国コンテンツ始めたのはつい最近なんだからっ!

   このネタがあってこその陽子! ここから始まってこそ十二国記!!」

陽子「最初に書いた十二国はマイナー外伝ネタだったくせに良く言うな…しかもこれやたら短いし。

   どうせ製作中のノベルゲームの方が飽きてきたんで、思いつきを文章にしただけなんだろう。

   そういえばこのお題の『龍の牙』、最初は魔人女主でやるつもりだったようだな。

   そのつもりでキープして、実際3分の1くらいまで書いたところで止まったとか…」

作者「ふふ…いかにも魔人ちっくなお題だもんね…そしてそのまま何ヶ月も放置…(遠い目)。

   いや魔人を完全に捨てるつもりはないし書ける時はこれからも書くだろうけど、

   やっぱ今現在何に萌えれるかって大きいよねー。うんうん。」

陽子「いいかげんだな……」

作者「何を今更。私がやるからにはこれからもそんなの序の口よ? 

   書ける時に書けるジャンルで書く。でなきゃそれでなくても苦手なお題なんかできません♪」

陽子「うわ、開き直ったな……(溜息)」←景麒譲り?








すみません。
SSとしてはあまりに短かったので超ラクガキ絵で誤魔化し…っ(殴)。
しかも文と絵合わせても1日掛かってません。
ノリって凄いなぁ。←だからそれで済まそうとするな!


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