(………最低だな、俺。) アトラクション前のベンチに倒れ込むようにして座りながら、俺は我ながら情けなくなった。 確かに体調は万全とは言えなかったし昔からコーヒーカップは苦手だったが、最後に乗った時から何年も過ぎてるのもあって正直ここまでクるとは思わなかったのだ。 しかも一緒に乗った彼女は華奢な見た目よりずっとタフだったらしくけろりとしているのだから、男としてこれはかなり痛い。 その一方、彼女は俺がこうなったのは全て自分のせいだと落ち込んでいる。
だから少しの間、おまえもそこに座っててくれないか。 あまりにも彼女が心配そうな顔をするので極力なんでもないように言うと、俺は自分の脇のベンチを指差した。 まだ三半規管が悲鳴を上げてる感はあるが、休めばなんとかなりそうという見解はあながち嘘でもない。 「うん…」 彼女は少し躊躇った様子を見せた後、俺の隣にそっと腰掛けた。 それを視界の端に確認し、俺はベンチの背もたれに身を任せてゆっくりと目を閉じた───。
───約束だよ。
「あ、起きた?」 あれからどれくらいの時間が過ぎたのか。 ふと気が付けば、さっきまで真っ青だった筈の空はすっかり紅い夕焼け空に変わっていた。 ………じゃなくて。 そんなのは日常茶飯事だから別に今更驚きはしないが、ベンチに座っていたのにどうして最初に目に入るのが空なのか。 そして頭の下の温かくて柔らかいものと、遠慮がちに覗き込むような彼女の顔は。 (…………っ!!!) がばっ。 俺はようやく状況を飲み込み、慌てて身を起こした。 自分でも顔が赤くなってるのが分かる。 「俺…」 「あ、ごめん勝手な事してっ。この方が楽かと思ったんだけど…」 「いや…」 膝枕なんてされたのは初めてだから、こういう時なんと言えばいいのか分からない。 今になって、彼女の体温だとか香りだとかが思い起こされて余計に焦る。
久しぶりに、懐かしい夢を見たような気がする。 幼い少年と少女の、他愛無い約束。 だけど最後に出てきたあれは………
ぽつりと俺の口をついて出た言葉に、彼女が首をかしげた。 「え?」 「………夢、見てた。」 「夢?」 「ああ。…おまえの、夢。」 「…私?」 「30mくらいに巨大化したおまえが都庁を踏み潰して自衛隊の戦闘機と戦ってる夢。火を吹くのが凄かった。」 「って私はゴジラっすか!?」
本当の事を話す訳にもいかず、その場で適当に創作するとすかさず彼女のツッコミが入った。 くるくるとよく変わる彼女の表情を見てると、本当に飽きない。
必死で笑いを堪えていると彼女がじろりと俺をねめつける。 「…………面白がってるでしょ?」 「面白いからな。」 「……………」
いつも独りでいた自分。 色褪せた空虚な日常に彩りを加えたのは彼女。 ───それは今も昔も変わらない事実。 俺はベンチから立ち上がると、ゆっくりと彼女を振り返った。
欲しくて欲しくてたまらなかったものを手にした瞬間、永遠に失う夢。 具体的に何を、とその時は覚えていないものの、いつも汗びっしょりで目を覚ます。 だけど今ようやく分かった。 あれが何だったのか。 そして何故今こんなにも安らかに眠れたのか。 ───それは、彼女がすぐそこに居てくれたから。
今はまだこの気持ちを伝える事はできないけれど。 もう、離したくはない。
俺が彼女の王子かどうかなんて、関係ない。 俺が好きなのは姫ではなく、『彼女』なのだから。
閉園時刻になっても長時間膝枕をしていた為に足が痺れて立てない彼女を背負いながら、『昔と変わった(成長した)彼女』に密かにどきどきしてしまったのは秘密、だ。 ラスト、微妙にエロ王子。 |