【恋文草子】





 ほぅ、ほぅ。

梟だろうか───遠くで何かの鳴き声がする。

他に聞こえるのはざわざわという木々が風に吹かれて揺れる音。

 日が落ちて、数刻。

自分が生まれ育った世界…『現代日本』とは違い、街灯ひとつ存在しないこの世界では夜ともなると本当に暗い。

薄い三日月だけがぽっかりと空に浮かんでいる姿はまるで現実感がなかった。





「ん────………」

 その中で、森村天真は大きく伸びをした。首筋を流れる汗を木の枝に掛けたあった手拭いで拭う。

ここはこっちの世界…『京』で天真が世話になっている武士団寮の裏庭である。

元宮あかね、流山詩紋と共にこの世界に飛ばされて既に数ヶ月が過ぎようとしていた。

 因みに『龍神の神子』というモノらしいあかねは『星の一族』である藤姫の館に。

『神子』を護る『八葉』であり、尚且つ珍しい外見ゆえに京の人々の誤解を生む可能性が高い詩紋は、藤姫の館から少し離れた藤原家ゆかりの館で世話になっている。

天真が武士団寮で寝泊りする事になったのは、お貴族様の館というものに馴染めない性質だったという事と、同じ『八葉』であり『天の青龍』である源頼久に剣の稽古をつけて貰う為だった。

最初は全く気が合わず衝突も多かった天地の青龍だったが、今ではどうにか上手くやっている…と思う。

 その頼久は、今朝から本職である武士としての使いで外に出ていた。帰りは明日の昼になるという。  

こうなるとハッキリ言って天真には何もする事がない。

あかねを護るのが現在の天真の仕事であり、最優先事項だ。

しかし昼間はともかく夜更けまで女の館に居座る訳にもいかず。

いざという時に自由が利くように藤姫の計らいで客分扱いの為、多少腕に自信があっても武士団の仕事をする訳にもいかない。

よって頼久のいない今、素振りなどの一人でできる稽古を一通り済ませると、本気で後は寝るしかする事がなかった。

もともと一匹狼的な性格である(あかねや詩紋と友人になれたのが不思議なくらいだ)。

八葉というだけでも胡散臭いうえ異世界から来た自分に対して明らかに戸惑いを見せる他の武士達と好んで親交を深める気にもなれないし、昼ならいざ知らず慣れない夜の京を一人でうろついたところでせいぜい夜盗に出くわすのがオチだろう。運が悪ければ怨霊とタイマンなんてのも有り得る。

下手な事をして心配性な少女やこの屋敷を紹介してくれた藤姫に迷惑をかける訳にもいかなかった。

血気盛んな少年に見られがちな天真だが、それくらいの分別はある。

「昔のヤツは偉かった、って言うけどマジでそうかもな…」

 夜になると、一気に行動が制限される…それがこの時代の常なのだ。

天真の置かれた立場はまだ恵まれている方だろう。

部屋に灯かりを燈すのに使う油は高級品の為に、夜更ししたくとも庶民はそうそう夜更しできるものでもないらしい。それこそ日の出と共に起きて日の出と共に寝るしかないなんて、本来夜型人間の天真にとっては少し前まで考えられなかった。

妹が行方不明になる前は、深夜のゲーセン巡りなどよくやったものだ。

「…しゃーねぇ、あと100本素振りしたら俺も寝るか────」

 現在その妹が何処にいるのかを思いやって顔を顰めた天真だったが。




「……………」

「……………」

 手拭いを置こうと振りかえったすぐそこ(距離30cm)にあるのは、人形のように無表情な男の顔。




「どわぁぁぁぁぁぁ!?」

 ずざざざざッ。 

思わず大声を上げて後ろに飛び退る。

「や…泰明!? てめ、何時からそこに居たんだ!?」

「問題ない。」

「問題あるわっ!! 気配を消してヒトの背後に立つんじゃねぇぇぇ!!!」 

 真っ暗闇の庭に亡霊のように立つのは、同じ『八葉』であり『地の玄武』である安倍泰明である。

今となっては知らない間柄ではないが、人間離れした整った顔立ちの無表情男に気配を消して背後に立たれては、心臓がいくつあっても足りないと思うのは間違いではないだろう。

「つーかなんでお前がここに居んだよ!? 門番はどうした!?」

 曲がりなりもここは武士団の本拠地。

いくら八葉だろうと、こんな時刻にそう簡単に部外者は潜り込めない筈だ。正面から面会を求めるならともかく。

「問題ない。式が今頃───」

「あーもう言うなっ! 聞いたら絶対後悔するような気がすっから!!」

「分かった。」

 言いながらなんだかとても情けなくなる天真である。

野生の勘とでもいうのか。

この泰明という男、初めて会った時からどうも自分の常識から掛け離れている気がしてならない。

世界が違うというか、人間離れしているというか、関わったらロクな事にならないのが目に見えてるというか。

本人にまるで悪気がないのが救い…なのかどうかも微妙である。

「───で、ナンの用だよ。わざわざここに来るって事は俺によほどの用事があったんだろ?」

 それでも聞かずにはいられないのが根はお人好しな天真たる所以だろう。

今晩頼久が留守なのは藤姫を通して八葉全てに伝わっている筈だ。

となるとこの男がここに来た目的は天真以外に有り得ない。

溜息をつきつつ相変わらず無表情な顔を見やれば、泰明は懐から何やら取り出してみせた。

「まずは、これを読んでくれ。」

「あん? 手紙? …言っとくが俺は古文なんか読めねーぞ。」

「問題ない。おそらくお前でも読める程度には易しい筈だ。」

「………そうかよ。」

 何処か引っ掛かるものはあるが、こんな所で長々と立ち話していても他の住人達の不信を買うだけだ。

天真は半ば諦めたように肩を竦めると、庭を横切って灯かりのある自室まで客を案内する事にしたのだった。







 ぱたんと障子を閉め、泰明と向かい合うように畳に胡座をかくと天真は先ほど受け取った手紙──文と言うべきか──を改めて見やった。

この時代の紙は技術が発達していない為にまだまだ未熟で大雑把な作りをしている。

だが美しい飾り紐で束ねられたこの文に使われた紙は、一目で高級品であるのが知れた。

おまけに香が焚き染めてある。───少なくとも、泰明の柄ではない。

という事はこれは泰明が誰かから受け取ったものなのだろうか。

「………?」

 不信感を露に取り敢えず紐を解き、くるくると巻かれた紙を広げて灯かりにかざす。




『私の美しい白雪……その雪の如く白い肌と桜色の唇を思い浮かべるだけで私の心は狂いそうになる。

この世の何者も私の情熱を溶かす事などできはしないだろう。私にとって君は天から舞い降りた───』




「ってなんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?」

 最初の数行を読んだだけで鳥肌モノである。寒い。とことん寒い。寒いを通り越して痛い。

しかもラストにはストレートにも一緒に朝を迎えたいとまで書かれている。

思わず絶叫して文を放り投げてしまう天真に、泰明は冷静とも言える目を向けた。

「そうかやはり…」

「やはりってナンだよ!?」

 この手紙の受け取り人=泰明。

ついでにこういう事を恥ずかしげもなく素で書けるような奴の心当たりは一人しかいない。

一瞬嫌過ぎる想像をしてしまい耳を塞ぎたくなる天真だが、ここでハッキリさせない事には余計に安眠できないのは目に見えている。

「いや、実は神子に文を書こうと思ったのだが何を書くべきか迷ってな。」

「……あかねに、お前が?」

「そうだ。女に関することは友雅に尋ねるのがいいと聞いてあの者に相談したところ、参考にとこれを渡された。だが神子はこちらの生まれではない。なにか表現方法に齟齬があるやもしれぬ。だから同じ世界から来たお前にも一度見て貰おうと思ったのだが。」

「………そういう事、かよ………」

 どっと疲れを感じて天真は息を吐いた。

要するに人騒がせな地の白虎殿は面白がってわざとこのような文をしたためてみせたのだろう。

あるいは別の効果を狙ったのか。

同じ八葉として行動を共にするには少々嫌過ぎる想像が外れたのは嬉しいが、正直心中は複雑である。

「その様子を見る限り、やはり参考にするのは考えた方が良いのだな。」

「まぁ…神経疑われたくなかったらそれが正解と思うぜ。少なくとも俺達の時代じゃ、な。」

「そうか。」

「…………お前、あかねの事が好き…なのか?」

 すきり、と微かに痛む胸を努めて無視して目の前の男に問い掛ける。

───龍神の神子。そう呼ばれる少女の笑顔が脳裏に浮かんだ。

ごく普通の女子高生だった彼女は、この京に来て『五行を操る力』に目覚めた。

バラバラだった八葉を纏め、本来何の関わりもない京を護る為に己の全てを尽くしている彼女。

そして…彼女はどんどん遠くなっていく。

皆の『神子』として。

天真の手の届かない処へ行ってしまう。

「分からぬ。好きという感情がどういうものなのか、私には分からぬのだ。」

 問われた泰明は微かに目を細めた。

もしかして…微笑んで、いるのだろうか。この男が。

「…だが、神子の事を考えると胸が暖かくなる。今までこのような事はなかった。」

───それは、つまり。 

「神子と共にいるだけで私が私でなくなるような気がするのだ。それは決して嫌な感じではない。この気持ちの正体を知りたいと思い、私が分からぬなら神子本人に聞くのが一番だと思った。口に出してはどう問えばいいのか分からぬゆえ、文ならと考えたのだ。」




「………それはね、病気なんだと思いますよv」




「のわぁぁぁぁぁ!?」

 突如耳元に響いた声に、天真はまたしてもひっくり返りそうになった。

天真の真後ろ、丸い嵌め込み式の窓から身を乗り出すように中を覗くのは…見慣れた金色の髪の少年の姿。

「やだなぁ、天真先輩。そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど。」

「詩紋! なんでお前までここに居んだよ!? つかなんで窓から!?」

「天真先輩に用があって来たに決まってるじゃない。」

 天使のように無邪気な笑顔を浮かべた少年…詩紋は「こんばんは、泰明さん。」と頭を下げながら窓を跨いでごく自然に他人の部屋に上がり込むと、ちょこんと畳に座った。

脱いだ靴をきちんと揃えて窓際に置くのが芸が細かい。    

「あ、夜道の事なら心配しないで。ここに来る途中で会った夜盗はちょっと土に埋れて貰ったから。」

「…お前、なんであかね抜きでも術使えんだよ…って一般人相手に使うか普通…」

「それより、やっと小麦が手に入ったんでケーキを作ってみたんだ。あかねちゃんに食べて貰う前に先輩に味見して貰おうと思って。できたてほやほやなんだよ♪」

「…だからそれよりで済ますなよ…………………要するに俺で実験しようってのか。」

「そりゃー、この時代の食べ物が現代人に合うかどうかは博打みたいなものだもん。先輩は気付きもしなかったかもしれないけど、現代人には抗体がない未知のウイルスだって充分考えられるんだよ。この小麦だって麻から作った薬を売ってた怪しげな商人から入手したものだしね。大切なあかねちゃんに何かあったら先輩、どう責任をとるつもりなの?」

「……………」

 本当に、どうして自分はこんなのと友人などやっているのだろう。

珍しい外見云々よりも、にこにこと邪気のない笑顔でさらりと凄い事をのたまう少年が八葉の時点で京もお終いなのかもしれない。

あかねは勿論、いったいどれほどの人間がこの笑顔に騙されているのか。




「───やはり私は、病気なんだろうか。」

 


 お互い相手に問題のブツを食べさせようと容赦なきバトルを繰り広げていた少年二人だったが、やがて静かな声がそれを遮った。

先程からずっと無視された形になっていた泰明である。

どうやら今まで詩紋の言葉を真剣に考えていたらしい。

「あー…まぁ、病気っつーか…」

 口いっぱいにケーキ(らしきもの)を詰め込まれて目を白黒させている詩紋を余所に、年長者の意地でどうにか勝利を納めた天真は反射的に言葉を濁した。




───おそらく、天真の予想は外れてはいない。

実のところ、それは何も今彼の話を聞いて気付いた訳でもなかった。

ああやっぱりお前もか、という方が近いかもしれない。

泰明に限らず八葉の誰もがあかねに対して口には出さずとも少なからず好意を抱いているのは明らかで。

だからこそ、個性の固まりのような八葉が京…ひいては彼女を守るという目的の為に力を合わせる事ができるのだ。

本気で泰明が自分の気持ちに気付いていないのだとしたら(見た目はいいトシした青年がまるでそういう感情に免疫がないのも問題と言えば問題だが)教えてやるのが親切というものだろうが────




「病気も病気。重病ですよ♪」

「おい詩紋! お前なぁ────」

 ふごふご。

登場時と同じくまたもテキトーな事をほざく少年に呆れてツッコミを入れようとした天真だったが、途端に口を塞がれる。

幸いと言うべきか、どうやらケーキ(たぶん)は人体に無害だったらしい。

「もう! 先輩ったら、わざわざ自覚させてライバルを増やす事ないでしょ!」

「だからってな…」

「先輩だってさっき言い澱んだじゃない。それって泰明さんがあかねちゃんに告白する事によってライバルが増えるのが嫌なんでしょ?」

「ぐ…っ」

 図星を指されて思わず天真は息を呑んだ。




───そうだ。確かに自分は彼に告げるのを躊躇った。

それはあかねを誰にも渡したくないという、醜い独占欲。

彼女との付き合いはそう長いものではないけれど、少し前まではこんな事考えもしなかった。

彼女はあくまで『友人』だったから。

だけど今は彼女が『神子』として以上に皆に好かれるのが、嫌だ。

それによって彼女が自分以外の人間を選ぶのが、嫌だ。

これは間違いなく───嫉妬。




「それに恋の病だとも言うじゃない。お医者様でも草津の湯でも治せないくらいの重病なんだから、間違いじゃないよ。」

「………そういうモンか………?」

 こそこそと耳打ちする二人だったが。 




「そうか…重病か………重病ではもう神子に会う事もできぬな……」




 ごごごごごご。

マトモに詩紋の言葉を信じたらしい泰明はかなりのショックを受けたようだ。

俯いた陰陽師の背後から何やら不気味な音が響くのは気のせいか。

「や、泰明!! なんか真っ黒いオーラが出てるぞお前!!」

「違うよ先輩、それって陰陽道で言う陰気だよ!! 流石は希代の天才陰陽師って言われるだけはあるね!!」

「冷静に言ってる場合かぁぁぁぁ!!」

 ばきばきばき。

その瞬間障子が吹き飛び、風圧で灯かりが消えた部屋が一気に闇に包まれる。

次いでそこに現れたのは大きいのやら小さいのやらゴツイのやら青白いのやら毛深いのやらツルツルなのやら…どう贔屓目に見ても人類ではない方々。

「何だぁ!? こいつらは…怨霊!? 泰明の気に誘われて近隣の怨霊が押し掛けてきやがったのか!?」

「ふ…ふふ…そもそも人ではない私が……ふふふ……私にはやはり存在価値がないのだな……」

「イッてないで戻ってこい泰明!! こいつらを何とかしろぉ─────!!」

「それじゃ頑張ってね、先輩v」

「って待てコラ詩紋、一人で逃げるなぁぁぁぁぁぁ!!!」




───本気で、友人は選ぼう。もし生き残れたら。

世話になってる武士団寮=己の現在の寝床を見捨てて逃げる訳にもいかず。

龍神の神子のいない今、八葉とはいえ単なる高校生な自分は術を使う事も回復する事もできない。

先刻まで鍛錬に使っていた剣を握り締め、涙で霞む視界の中で心に固く誓った赤毛の少年の未来が限りなく暗かったのは言うまでもない─────。








 ぴちゃん。

「……う……」

 朝露だろうか。

頬に当たる雫に、天真はようやく意識を覚醒させた。

「生きてた…か…」

 ボロボロの着物の中で軋む身体をのそりと起こすと、目に映るのは完全に崩壊した自室。

抜けた天井から覗く朝陽が眩しい。先程の雫は屋根から落ちてきたようだ。

…居候の身としては被害総額を考えるのも怖い。

取り敢えず、見渡す中に人間の死体が転がっていないのを救いだと思う事にしよう。

やけに屋敷内が静かなところを見ると、ここの住人達は賢明にも関わりを避けて避難したらしい。

ただ一人、少し離れた廊下で死んだように倒れている者はいるが、見たところ無事ではあるようだ。

「…ったくあの馬鹿…」

 苦労して立ち上がり、足を引き摺りながら天真はその人物の元へと歩み寄った。

「───おい、起きろ泰明。」

 こつん、と軽く蹴りを入れると泰明は弾かれたように目を開いた。

身を起こし、ゆっくりと辺りを見渡す。その顔は相変わらず無表情だ。

「ここは…私は何を……そうだ、天真に文を読んで貰おうと来たのだったな。そういえばいつからここは吹き抜けになったのだ? 随分涼しくなったようだが。」

「お前なぁ…………………も、いい…………………」

 騒ぎの張本人(煽った奴は別にいるが)はどうやら記憶が曖昧らしい。

陰気を放出し過ぎたせいか…どっちにしろそれはそれで幸せだ。

下手に思い出して昨夜のように混乱されては堪ったものではない。

無我夢中だったのでろくに覚えてもいないが、折角助かった命を無駄にする事はないだろう。

 と。




「天真くん!! 泰明さん!!」




 庭先でばたばたと人が駆ける音がしたかと思うと、陽の光を浴びてサラサラのボブカットが目の前に飛び込んできた。

「あか…ね?」

「神子…」

 間違えようもない。そこに居るのは件の龍神の神子たる少女──あかね。

何故、今この場所に彼女が。

予想外の事にどう反応すべきか固まってしまった天真と泰明を余所に、あかねは二人の元に走り寄ると───ぺたん、と廊下に座り込んでしまった。

「おい、あかね!?」

「良か…った…二人とも無事で…っ」

 次いでぽろぽろと少女の瞳から雫が落ちる。

これで動揺しない男など存在しないだろう。

「神子、何を…」

「おいおい、マジでどうしたんだ!?」

 慌てる男二人に、あかねはふるふると頭を振って涙を拭うと、ごめん、と小さく笑ってみせた。

「さっき、詩紋くんに聞いたの。昨日の夜武士団寮が怨霊に襲われて、天馬くんと泰明さんが瀕死の重症だって。それを聞いて私、居ても立ってもいられなくて……二人の顔を見て安心したら気が抜けちゃった。」

「怨霊…?」

「…詩紋か…あのヤロ…」

 怪訝そうに眉をしかめる泰明の隣で、天真は大きく息を吐いた。

───これで借りはナシだよ、とにこやかに笑う金髪の少年の姿が目に浮かぶ。

天真達が無事なのを確信して全てが終わった頃を見計らう辺り、本気で喰えない奴である。

案外ライバルが減っていたなら減っていたでラッキー、などと思っているかもしれないが。

「…それでその詩紋は何処に?」

「あ、うん、ここまで私を送ってくれたんだけど先に藤姫の館に戻って貰ったの。何も言わずに飛び出して来ちゃったから、今頃藤姫きっと心配してるもの。うう…怒ってるだろうなぁ…」

 言われて改めて見れば、廊下にへたり込んだあかねは未だ肩で息をしている。

藤姫の館からここまで走り通してきたのだろう。少なくない距離を、天真達の無事を願って必死で。




───それが、あかねという少女。

彼女が『龍神の神子』だからではない。天真達が『八葉』だからではない。

彼女にとって、それはごく当たり前の事。




「……………ばーか。」

「なっ…そんな言い方しなくてもいいじゃない! 確かに勝手に早とちりした私がマヌケなんだけど!」

 思わず天真が洩らした言葉に、威厳の欠片もなく反論するあかね。

それでも彼女の目が赤いのは誤魔化しようがない。

…全く、こんな普通の娘が神の使いだと崇められたりするのだから世の中何が起こるか分からない。

天真は苦笑を浮かべると、あかねの頭に掌を置いた。

「て、天真くん!?」

「───俺は、お前をこんな訳の分からねぇトコに残して死んだりしねーよ。絶対にな。それくらい覚えとけ。」

「きゃーっ分かった、分かったから放してっ!」

 くしゃくしゃに髪を混ぜられ、じたばたと暴れるあかねの声が早朝の庭に響く。

「よし。」

 そして天真はあかねから手を放すと踵を返し、呆然と自分とあかねのやりとりを見ていた泰明の肩をすれ違いざまにぽん、と叩いた。

「泰明。あかねを藤姫の館へ送って行け。」

「…! 何故…」

 未だあかねに対する己の気持ちに疑問を抱いているのだろう。

急に話を振られて珍しく動揺する泰明に対し、にやりと笑ってみせる。

「俺はここの片付けがあんだよ。───悩んだ時は、文なんてまどろっこしい事せずに感じたまま伝えればいいんだ。…敵に塩を贈るのは今回だけだからな。」




 結局。彼女が誰を選ぶにしても、それは彼女の自由。

彼女が皆に好かれる人物なのは、分かりきった事。

なら───やはりフェアにやらなきゃ、男じゃない。

それでこそ彼女に堂々と気持ちを伝える事ができるというものだ。




「───分かった。感謝する、天真。」

「…???」

 天真の言いたい事が伝わったのだろう。 

きょとんと首をかしげるあかねの横で、泰明はようやく静かに頷いて見せ───こうして昨夜からの騒動は物理的に甚大な被害を及ぼしながらも、一応の決着をみた───と思われた。  









 その後。

今度は頼久から恋愛相談を受けるハメになった天真が頭を抱えたり。

詩紋から『現代風文の書き方』を教わったらしい泰明があかねに『果たし状』を突き付けて大騒ぎになったり。

結局、その泰明のあかねに対する気持ちは母を知らぬ泰明が彼女に母性を感じただけだったという事が判明したり。

その隙にあかねを夜のデートに誘い出した地の白虎殿が、何者かの襲撃によって再起不能一歩手前になったり(複数犯によるものと思われる)。

あかねが誰かと会う度に、怨霊さえも追い払う恐るべき笛の音が辺り一面に響き渡ったりしたというのはまた別の話である。




───神子と愉快な仲間達の本当の戦いはまだまだ始まったばかり、らしい。






          【どうにかムリヤリ終わらせたぞ初書き遥かSS座談会】

作者「うっしゃ、終わった!! 思う存分幻水3やるぞ─────!!(死)」

天真「…第一声がそれかよ…。マジで救いがねーなお前。」

作者「うっさい!! 仕方ないっしょ、遥か2日記が終わった勢いでSS書き始めたはいいが、

   思ってたよりもキャラが掴めなくて難しかったんから!! 設定もややこしいし!!

   うう…本当は別に書きたい話(やっぱり壊れギャグ)があったんだよ〜。

   それがやたら長くなりそうだったんで練習のつもりでコレを書き始めたってのに、

   書けども書けども終わりゃしねぇ!!(涙)」

天真「要するに文才がないだけじゃねーか。そもそも2をプレイしてなんで1で書くんだよ。」

作者「…さあ…? やっぱギャグるなら勝真より天真の方がやり易いからかなぁ。現代人万歳。」

天真「……………」

作者「という訳で1をプレイしたのは何年も前の為、性格とか微妙に違ってたらごめんなさいv」

        どごごごご。←空から土が降ってきた音

詩紋「あはははは。ギャグSSとはいえモノには限度があるよねv」

天真「……殺人はやめとけ、詩紋。後始末が大変だから。」

詩紋「大丈夫、大丈夫。このまま埋めちゃえば分からないよv」

天真「……………もう帰りたい……………(遠い目)」







ホント、何故こんなアホな話に…。
泰明及び詩紋ファンの方、すみませんっ。
ええこれでも悪気はないんですよ。嫌いじゃないし。
気が付けば変なキャラになってただけです(殴)。
天真は京一と被ってて(コラ)書き易かったんだけどな〜。
マイラバー(笑)友雅さんも、もうちょっとマシな扱いしたかった…。