【君の名は】 エド&ウィンリィ&アル(エドウィンじゃないのかよ…)






「大体ねぇ、あんたって奴はいつもいつも…」

「うっせぇ、しつこいぞてめぇ!」

「てめぇとは何よ、てめぇとは!」

「じゃあ凶暴女だ!」

「なんですってこの豆! ミトコンドリア! 原子!」

「こっの、言うに事かいて原…!!」



 ああ、またやってる。

愛犬デンの散歩から帰って来るなり目に飛び込んできた光景に、アルフォンスは肩で大きく息をついた。

どうしてこの二人…兄とウィンリィはいつだってこうなのか。

いや、今回も悪いのは全面的に兄なのだろう。長い付き合いだ、現場を見てなくてもそれくらいの予想はつく。

───たまに帰った時くらい素直になればいいのに。

そう口に出したところで火に油を注ぐのは分かっている為、思うだけに留めておくアルフォンスはこの場にいる3人の中で誰よりも大人に違いない。

微かに聞こえるまな板で何かを刻むような音から察するに、この家の女主人であるピナコも過去何度も繰り返された孫娘達のやり取りに動じる事もなく、奥の台所で本日の夕食に取り組んでいるらしい。

全くもって賢明な判断である。



「あ、おかえりアル! お散歩ご苦労様〜」

「…………………ただいま、ウィンリィ」

「てめぇっ!! まだ話は終わってねーぞ無視すんな!!」

「ふーんだ。あたしはてめぇなんて名前じゃないもん、あんたなんかに指図される覚えはないわ」

「てめぇだって、さっきからオレの事あんただの
ま…だの言ってるじゃねーか!!」



 ああ、本当に子供の喧嘩だ。それも幼児レベル。

これが天下に名を轟かせる鋼の錬金術師とその機械鎧整備師(彼女はまだ15歳だ、これだって普通に考えれば国家錬金術師に負けないくらい凄い事である)の会話だと誰が思うだろうか。

怒鳴りすぎて喉が渇いたのだろう、エドワードがテーブルの上に置いてあったグラスの水を一気飲みする姿をぼんやりと眺めつつ、アルフォンスは感じない筈の頭痛を覚えて額を押さえた。

というか、頼むから自分を巻き込まないで欲しい。どうせ結果は分かっているのだから。

 その時。アルフォンスの視界の端でウィンリィの蒼い目がきらーん、と光ったような気がした。



「じゃあ………………あ・な・たv」



 ぶほっ!!!



 それはもう見事に。口に含んだ水を噴出す少年がそこにいた。



「ごめーんばっちゃん、あたしもゴハンの仕度手伝うねー。そこ、ちゃんと拭いときなさいよエド」

「まっ……こ、の………汚ね………っ!」



 金の目に涙を浮かべて「げほがほがは」と激しく咽る少年の横を素通りし、鼻歌混じりにリビングを横断する少女のポニーテールがアルフォンスの前から消えていく。

まさに、少女の完全勝利。哀れ少年、己の煩悩に消ゆ。



「て…めアル…ッ、勝手なクレジット、つけるんじゃ…ね……!!」

「凄いや兄さん、よくボクの考えた事が分かったね」

「〜〜〜〜〜っっ!!!!」



 呼吸困難に陥りながらも凄い目でアルフォンスを睨む兄に思わず拍手。

こんな鎧の身体であっても兄弟の絆を感じる瞬間である。

…でもまぁ、エドワードでなくとも。

年頃の少年ならば、憎からず思っている娘にあんな台詞をあんな甘い声で耳元で囁かれたりしたら過剰反応してしまうのも当然だと思う訳で。

……悲しいかな。ウィンリィに悪戯の自覚はあれど、こちらが思うほどの深い意味がないのも明らかで。



「……とりあえず頑張れ、兄さん」

「…………………………………勝手に言ってろ」



 悪化させたのが誰かは置いといて、ここ1年分くらいの咳をしてどっと疲れたのだろう。

俯いてしゃがみ込んでしまった兄の背中に小さくエールを送り。

よく出来た弟であるアルフォンスは濡れた床を拭くべく雑巾を取りに、洗面所へと大きな身体を向けたのだった。






───どちらにせよ。この兄が幼馴染みの少女に勝てる日など、永遠に来ないのだと。

それを本人が知るのはいつになるのか……………………淡い金の髪に蒼い目をした女神様のみぞ知る。










11巻のパパンとの会話+EW小説アンソロネタ別バージョン(分かる人がどれだけいるのか…)って感じでしょうか。
でもエドって滅多にウィンリィに対して「てめぇ」って言わないよなぁ。「おまえ」は多いけど。
ハイ、単にウィンリィに「あ・な・た(はぁと)」と呼ばせて思春期豆を昇天させたかっただけです。
あと、ひたすら黒いアル。…まだ黒さが足りない?

(06.02.17.再UP)