【願い】 リザ&ロイ しんと静まり返ったロッカールーム。 その中でかちゃり、と硬質な音が響いた。 何の変哲もないロッカーから取り出したのは綺麗にアイロンのかけられた男物の軍服。 大佐の位を示す階級章のついたそれをそっと胸に抱え、リザ・ホークアイは小さく溜息をついた。 分かっていたのだ。 彼が「軍服を持って来い」と言うだろう事は。 まだ傷の癒えていない身体であろうと、彼が立ち止まる事などある筈はない。 自分が止めようと。 いや他の誰が止めようと彼は彼の信じた道を突き進む。 それが分かっていたから、リザは彼の軍服を予め用意してあった。 この病院に搬送された時に着ていた血で染まった軍服は使い物にならなくなっていた為、司令部の彼の部屋のロッカーに乱暴に突っ込まれていた予備のそれを一式、手術の成功した翌日にはクリーニングに出して引き取ってきた。 「…馬鹿ね」 自嘲のような独り言が零れる。 彼に無理して欲しい訳ではないのに。 出来るものなら、充分に休んで身体を治して欲しいのに。 それなのに結局彼の望む通りに準備してしまっていた自分が恨めしく思える。 それでもこれは自分の仕事だから。 彼はこれを望んでいるのだから。 不安を振り払うように。 ひとつ、頭を振るとリザは軍服を皺にならないよう腕に掛けてロッカールームを後にした。 そのまま彼の人がいるだろうロビーに向かう。 案の定、彼はハボックと相部屋である自分の病室には戻らずロビーの端の長椅子に座り、先日ブレダが持ち帰った資料を熱心に読んでいた。 声を掛けるのさえ阻むような。 まるでそこだけ空間を切り取ったかのような錯覚に、思わず目を細める。 自然と足が先に進むのを拒んだ。 ───息が、詰まる。 「───中尉」 しかしその緊張は、目の前の男自ら発せられた声によって破られた。 我に返ったリザの目に映ったのは、口元に微かな笑みを湛えた上官の顔。 見慣れた…自信に満ちた、不敵なそれ。 「有難う」 手に抱えた彼の軍服に対しての言葉なのだろう。 持って来いと命令されれば、リザに逆らう権限は元よりない。 それでもそこに別の意味も含まれている気がして。 こちらの気持ちや葛藤など彼には全て見通されているようで。 「司令部には期限切れの書類が沢山溜まっていますので、宜しくお願いします」 「……………」 泣きたくなるような。 じわりと胸に広がる感情を敢えて無視し、にこりと微笑んで一歩踏み出す。 ───これが、私の役目。もう二度と、見失わない。 呆気に取られた様子でぽかんと口を開き…次いで苦笑を浮かべる上官に軍服を手渡して一礼し、退院の手続きをする為に受付に向かう。 ───彼が進むのならば。私が彼を支えてみせる。私が彼の手足となる。 だから、どうか。 彼の傍らに。 お盆に実家に帰って暇だったんで1時間くらいで書いたブツを |