【雛】 ロイ&ヒューズ+ロイアイ? 「よーおロイ、今日も元気にサボってんのかー? リザちゃんが泣くぞー」 「………久しぶりに顔を見るなりそれか。お前は私をどういう目で見てるんだ、ヒューズ」 ノックもなしで執務室に乗り込んで来るなり失礼な事をのたまう親友に対し、ロイは大きく溜息をついた。 そういえば随分前にヒューズ中佐が東方司令部の監査に来ると今は別件で席を外している部下が言っていたが、それは今日の事だったか。 机の上に山積みとなった書類にサインする手を一旦止め、憮然と闖入者を見返すと彼は人好きのする笑みを浮かべて豪快に笑った。 「あながち間違いでもないだろうが。どうせ、今やってるそれもそのツケだろ? その気になれば誰よりもデキるくせに相変わらずポーズが下手な奴だぜ。ま、サボり癖の半分以上は地だろうけどな」 「…………………」 これだから付き合いの長い人間は困る。 何と言って返すべきか一瞬眉を顰めたロイを無視し、ヒューズはずかずかと机に歩み寄った。 そしてそのまま、脇に抱えていた小さな紙箱をぼこんとロイの頭上に落とす。 「…なっ!」 痛いという程ではないが、大きさの割にずっしりとした重みに更にロイの眉根が寄った。 ヒューズの手を離れて転げ落ちそうになったそれを、慌てて両手でキャッチする。 見ればファンシーな黄色の包み紙には何処かとぼけた顔をした可愛らしいヒヨコの絵が描かれていて。 「…なんだ、これは」 「中央土産。世話の焼ける上官に苦労しているだろう彼女に…な。渡しといてくれよ」 「自分で渡せばいいだろう」 「俺は今日中に愛する妻子の待つ中央に戻んなきゃならないから、会えるか分からないだろ。それより聞いてくれよ! それな、最近中央で発売された新製品なんだが、中身は本物そっくりのヒヨコの形をした饅頭なんだよ」 「…予想はつく」 「でな、エリシアちゃんに一度買って帰ったんだよ、喜ぶと思って。そしたらどうよ。ヒヨコを食べるのは可愛そうーって全然食べようとしないんだよこれが! 本物じゃないから大丈夫、美味しく食べてあげた方がこのヒヨコも喜ぶって丸1日掛かりで説得してやっと食べてくれたけど、もーあの時のエリシアちゃんの優しさと可愛さはお前にも見せてやりたかったね!! あ、可愛さと言ったらこの前こんな事も……」 「家族自慢が目的なら出て行け、仕事の邪魔だ」 でれでれと頬を緩ませて留まる様子もなく語る男に、引き出しから取り出した発火布の手袋をわざと見せ付ける。 これくらいの危険なジョークはいつもの事なので、やられる当人も大して気にしないのは承知の上である。 案の定、ヒューズは写真片手に机に乗り出した身体をあっさりと引き戻すと、目を細めた。 「ま、こんな風に娘の可愛さを堪能できるのも平和あっての事さ。この国がいつまでも平和であるなんて保証は何処にもない。……全ては、上に立つ人間の腕に掛かってる。俺はそいつの力になるって決めてるだけだ」 「…………ああ」 口に出さずとも、お互い何が言いたいかは分かっている。 まだ、ロイは雛から少し成長しただけに過ぎない。 雛はやがて成鳥となる。 目指すところは───────大総統。 「そんじゃ、俺は行くわ。彼女に宜しくな」 「伝えておく」 「あと、そっちでもいいかげん覚悟を決めろよロイ。でないとそのヒヨコみたいにお前の方が喰われるだけ喰われてポイされるかもしれないぜ。なにせ、あれだけいい女はそういないからなぁ。あ、グレイシアは除いてな」 「さっさと行け!!」 ばたんと閉じられた扉に、白い手袋が投げ付けられる。 絶対に面白がっている親友の鼻を明かしてやりたいのは山々だが、そんな簡単に事が進めば誰も苦労はしない。 もしかしたら大総統になるより難しいのではないかとさえ思えてくる。 そう考え出すと目の前の机に置かれたヒヨコのつぶらな瞳に妙な親近感まで湧いてきて。 ───数刻後。仕事を終えて執務室に戻ってきたリザ・ホークアイ中尉が、ヒューズの土産だという包みを手渡しながら何ともフクザツな表情を浮かべる上官に首を傾げたのは余談である。 GWのお祭り中、東京に行けなかった代わりに日記で発散したブツ。 |