【A HAPPY NEW YEAR?】 チビ幼馴染み3人 「おっはよー、エド、アル♪」 「お…おう…」 「う、ウィンリィ? おは…よう」 ───早くに母を亡くしたエルリック家に、幼馴染みの少女が焼きたてのパンを運んでくるのはいつもの事。 それは大いに感謝しているし、少々時間が早かったところで特に驚く事ではない。 だが。今日に限って、何の予兆もなく眩しいばかりの満面の笑顔で登場した少女に、兄弟は思わず後ずさった。 …ウィンリィの様子がオカシイ。 元々明るく賑やかな少女だったが、この、バックに花でも舞っていそうなオーラは明らかにヘンだ。 エドワードとアルフォンスは無言で顔を見合わせた。 弟の促すような視線を受け、ふるふると首を横に振る兄。 育った境遇のせいか普段は年齢以上に大人びているのに、ウィンリィが絡むと途端に頼りにならない…というか、少女に頭が上がっていないのをエドワードは自覚しているのかいないのか。 おそらく本人に言ったら「そんな事はない」と烈火のごとく怒るに違いないが。 アルフォンスは内心溜息をつくと、改めてウィンリィに向き合った。 「…えっと…ウィンリィ、どうしたの? 凄く嬉しそうだけど…何かいい事あった?」 ひとまず礼を言ってパンの入った籠を受け取り、未だ上機嫌の少女に問い掛ける。 その途端、待ってましたとばかりにウィンリィの空色の瞳が輝いた。 「えへへー。はつゆめ、見たんだ♪」 図らずしも頬をピンクに染めて答える幼馴染みの愛らしい笑顔に、兄弟の胸がどきりと跳ねる。 「はつゆめ…ってその年に初めて見た夢、だよな?」 「確かに昨日が新年だったけど…そういえば1月1日から2日にかけて見た夢は正夢──本当になるって言うよね」 「ああ、何かの本に書いてあったな。それで縁起がいいのが1フジ、2鷹、3ナスビだっけ? つーか何でナスなんだよ訳分かんねぇ」 「兄さん兄さん、それ論点ズレてるから。…というかこの話、ボク達がウィンリィに教えてあげたんじゃなかった?」 「そうだったか?」 正夢云々の信憑性はともかく。 ウィンリィがここまで喜ぶ夢とは──しかもいつになく頬を染めて。どこか恥ずかしそうに。 いったいどんな──と兄弟が口を開く前に、少女はにこにこと笑って宣言してみせた。 「あのね、あたしすっごく綺麗なお嫁さんになるの」 ………………。 ………………。 「「誰の!?」」 少年達の口から飛び出た疑問詞はほぼ同時。 何でこんなに反応してしまったんだと言わんばかりに真っ赤な顔をして慌てて目を逸らすエドワードと、真剣な眼差しでウィンリィを見返すアルフォンス。 「え…え? 何?」 自分で思っていた以上に食い付いてきた幼馴染みの様子にウィンリィは面食らったように目を瞬き、次いできょとんと首を傾げ─── 「………あれ? そういえば……忘れた」 兄弟を見事にこけさせた。 「……お前なぁ……」 「だって、大人になって真っ白なウェディングドレスを着たあたしばっかり気になっちゃったんだもん。本当に綺麗だったんだから!」 「そ…そう…良かったね」 「けっ、案外最初っから一人だったんじゃねーの? お前みたいなオトコオンナ、誰も嫁に貰ってくれねーだろうし」 「なーんですってぇ!? あんたこそ牛乳飲めなくてずっと豆で、誰にも相手にされないんだから!」 「ぎ、牛乳なんか飲まなくてもでっかくなってみせる! つーか誰が豆だ────!!!」 「…兄さん、大人になっても牛乳嫌い治す気ないんだね…」 「そこ、いらんツッコミ入れるな!!」 ───新春の爽やかな朝に、子供達の賑やかな声が響く。 いつもの風景。いつもの関係。 大人になった少女の隣に金髪金目の幼馴染みがいるのかどうか。 この後待ち受ける重い試練を乗り越え、彼らがそれを知るのはこれから15年ばかり先の事である─────。 05年1月2日に実家のパソから掲示板に書き込んだ季節ネタ。 |