【巡る季節】 未来アル×オリキャラ注意! 青い空、白い雲、緑の大地。 澄んだ空気に微かに混じるのは車の排気ガスや工場の煙ではなく、家畜の臭いだ。 確かめるまでもなく、そこかしこで羊や牛がのんびりと食事を楽しむ姿が見える。 この土地に帰って来たのは1年振りくらいだが、予想通り全く変わらない様子の故郷に自然と笑みが零れた。 「───おじさん! アルおじさーん!!」 第二の我が家が見えてきたところで、長い金髪を腰まで伸ばした少女が扉から飛び出してくる。 彼女の名前を呼ぶのと同時くらいで、ぼふんと体当たりするように抱きつかれた。 「ちょっ待っ……!」 思わず後ろに1、2歩よろけてしまったのは年のせい、ではないと思いたい。 しかしほんの数年前までは自分の腰くらいまでしかなかった筈の少女の背丈が今では肩の辺りまであって、それだけの年月が過ぎたのだと嫌でも思い知らされる。 「……大きくなったね」 「おじさん、年寄りくさい」 ぐさっと胸に刺さる一言を笑いながら放った少女は、やっとアルフォンスの胸から離れると乱れたワンピースの裾を整えてにこりと微笑んだ。風に揺れてきらきらと輝く明るい向日葵色の金髪は父親譲りだが、空色の蒼い目と可愛らしい顔立ちは幼馴染の彼女の若い頃に本当によく似ている。 彼女が生まれたばかりの頃、目付きの悪い兄に似なくて良かったと正直な感想を言って、その兄に殴られた事をぼんやりと思い出した。(直後、兄は妻から殴られた) 「いくつになったっけ?」 「もうすぐ16。おじさんと18歳違いなんだから覚えててよね」 「だから、僕の年まで思い出させないでよ……」 「大丈夫! おじさん若く見えるからまだまだ30代でいけるわ!」 「いや実際まだ30代だから。前半だから。それフォローになってないから」 なんだろう、この脱力感。 一回り以上年下の少女にいい様にあしらわれてる気がして、アルフォンスは肩を落とした。 これでもセントラルの仕事場では女性職員に黄色い声を掛けられ、男性職員には影のボスと呼ばれるくらい恐れられているのに(これはこれで心外だが)、彼女の前では形無しだ。 兄とウィンリィの娘ならば頭の回転がいいのは当たり前かもしれないが、どうもそれだけではない気がする。 普通なら彼女が赤ん坊の頃から知ってるアルフォンスの方が主導権を握ってもおかしくないのに、気がつけば彼女に振り回されていると感じたのはここ数年で一度や二度ではない。 「それより、今回はどれくらい居られるの?」 「うーん…一応、1ヶ月くらいかな。兄さんとの共同レポートの進み具合にも寄るけど」 「ふうん」 そう呟くと、少女は目を伏せた。さらりと肩から落ちた髪が揺れる。 「ね……おじさん」 「ん?」 「なんで、結婚しないの?」 「……は?」 唐突に振られた質問に、新エルリック家に向けて歩き出していたアルフォンスの足が止まる。 ついこの前まで子供だと思っていたが、この子もそういうネタを話題にするような年になったという事だろうか。 もしかしたら兄夫婦の間でも頻繁に話題に上がっているのかもしれない。 「それは……そりゃ、いい女性に出会えればいつでも結婚するよ?」 「今まで出会えなかったって事? 今もいないの?」 「まぁ…………そういう事なんだろうね。残念な事に」 何の尋問だろう。アルフォンスは苦笑いを浮かべた。 確かに、想いを寄せてくれた女性はいた。元気で明るい彼女の事を好きになれそうとも思った。努力もした。 だけど結婚できなかったのは、自分にも彼女にも嘘をつけなかったという事なのだろう。 それについては後悔していないが、その後も度々告白される事はあっても結婚前提で特定の女性を作る事もなく、仕事の忙しさを理由にこの年まで独身で来てしまった。 「甲斐性なし」 「うっ」 何処でそんな言葉を覚えたのか。やはり兄夫婦か。そうなのか。 その昔、いつまでも煮え切らない兄に対して幾度となくその言葉を使ったような覚えがあるが、まさか自分が言われるようになるとは思わなかった。それもその兄の子供に。 密かにショックを受けていると、その問題の言葉を放った少女がこちらをずいっと見上げてきた。 その顔は何故か真っ赤で。 「仕方ないから、あたしがおじさんとずっと一緒に居てあげる!! だからもうちょっと、待っててよね!!」 仁王立ちになり、ビシッと人差し指を突きつけての宣言。 なんだか遠い昔に何処かで見た事のあるような光景に唖然とするアルフォンスを残し、少女はバタバタと家の中へと駆け込んでいく。 扉越しに聞こえた「あら、アルは一緒じゃなかったの?」「知らなーい!」という母娘の会話がどこか遠くの世界のように耳を素通りした。 「…………嘘、だろ……………」 ぽつりと零れたのは、驚きか戸惑いか。 ただ、胸の奥がじんわりと温かくなったのは隠しようがない事実で。 長く忘れていた筈の……いや、忘れた振りをしていた感情が蘇るのを自覚する。 いくらなんでも年の差が、とか。そもそも伯父と姪では結婚できないだろ、とか。 いやでもだから一緒に居るって言ったのか?とか。戸籍はどうなる?とか。 色々な事がアルフォンスの中でぐるぐると回った。 「………………とりあえず。その時は兄さんに殺されないようにしないとな………」 本当にどうなるかはまだまだ分からないけれど。 魂だけになったり鎧になったり死に掛けたり元々波乱万丈な人生だったのだから、そんな未来も悪くないかもしれない。 アルフォンスは小さく微笑むと、大好きな家族の住む家の扉に手を掛けた。 ドロドロなエドウィンアル漫画(未完)をアップして数日後、思い付きで1時間ちょいで書いたものです。 |