【神様の誕生日】 未来幼馴染 「うーさみぃ……ただいまー、と」 肩に積もった雪を払い落としながら、玄関の扉を開く。 その瞬間、家の奥から流れてきた暖かい空気にエドワードは思わず顔を綻ばせた。 (そういや今日はアルが帰ってくる日だったな…) 敢えて言葉にするような事はないけれど、誰かが待つ家というのは無条件で嬉しい。 長い旅を終えて建て直した家に兄弟二人で住むようになったものの、互いの仕事の関係で半ば一人暮らしのような状態が続く事も珍しくなかったからだ。 尤もこの家には常に幼馴染が出入りしているし、ロックベル家にも頻繁に食事に呼ばれているので、寂しさに打ちひしがれるというような事もなかったが。 (つか、この匂いは……) ストーブで暖められた空気と一緒に漂う甘酸っぱい匂いに鼻をひくつかせる。 これは多分。いや、きっと。間違いなく。 「おかえりー、エド。ちょうど焼き上がったところよ」 「兄さん、ナイスタイミング。流石というか……食い意地の勝利だねぇ」 廊下を通ってリビングに入った途端、向けられた笑顔とテーブルの上の物体にやはりと納得する。 見事な焼き色のアップルパイは見るからに美味そうだ。 ………が、同時にいつもと少し勝手が違うのにも気付く。 「…なんでアップルパイに蝋燭が立ってるんだ? あと、これはモミの木…か?」 ウィンリィ自慢のアップルパイの上には、ぐるりと縁を囲むように突き刺された蝋燭が10本ほど。 その中央にちょこんと小さな木の枝が飾られている。 世間一般から見て独特のセンスだと評されるエドワードでも戸惑うようなディティールである。 「ああそれね、アルに聞いたの」 「僕も仕事先で御伽噺を小耳に挟んだだけで、詳しくは知らないんだけどね」 コーヒーの香りと共に3人分のカップをテーブルに運んできたウィンリィが楽しそうに説明する。 小皿とフォークを並べながらアルフォンスが目を細めて補足した。 「1000年以上も昔の今日、遠い西の国で神様が生まれたって話だよ」 「…はぁ?」 「でね、毎年その国では皆で誕生日のお祝いをするんだって。お祝いと言ったらケーキに蝋燭でしょ?」 「……この枝は?」 「モミの木の下にプレゼントを置いて交換するという風習があるんだ。その気分だけでもね」 「…………おまえら、暇だな…………」 エドワードの声に遠慮の欠片もない呆れと溜息が混じる。 何処とも知れない国の、御伽噺の、寄りによってカミサマの誕生日。 胡散臭いにも程があるではないか。 錬金術師は科学者であり、現実主義なのだ。 「「じゃあ食べない?」」 間髪を入れず、左右から同時にツッコミが入った。にこにこと微笑む幼馴染と弟の顔には妙な迫力がある。 それでなくともこの最強タッグが組めば、まずエドワードに勝ち目はない。 「…………有難ク祝ワセテ頂キマス、スミマセン」 「分かればいいのよ」 「こういうのって真実はともかく、お祭を楽しんだもの勝ちって事だよね」 「そうそう。夕食は丸ごとチキンがいいのよね? それまでにはばっちゃんも出張整備から帰ってくるだろうし、二人とも後で買い出しに付き合ってくれる?」 「もちろん」 「…へーへー」 「食材はエドの奢りね。牛乳もたっぷり買うから」 「なんでチキンに牛乳なんだよ!!」 切り分けられた熱いアップルパイを勢いよく頬張りながら吠えるエドワードに、笑い声が響く。 ───結局のところ、理由は何でもいいのだ。 大切な人達皆で美味いものを食べて、一緒に時を過ごす。 それだけで幸せになる。 今生きている事に感謝できる。 ───その切っ掛けをくれるというだけで、カミサマの存在を信じてもいいのかもしれない。 07年クリスマス当日(※notイヴ)に唐突に書きたくなって(略)。 |