【星に願いを2】 兄弟





「あーついてねぇ…」

「まぁ、そういう事もあるよね…」



 もうすぐ日付が変わろうかという時刻。

寂れた町の裏通りで、大小2つの人影が大きく溜息をついた。



「くそー、これで2軒連続アウトだぜ! この町にあとどんだけのホテルがあるってんだよ!?」

「日頃の行いはいいんだけどね。……ボクは」

「なんでそこでオレを見る!!」




 別にー、と歩きながら目を逸らす鎧姿の弟に吠えるエドワード。

賢者の石の情報を求め、汽車を乗り継いでこの町に辿り着いたのが2時間ほど前の事だ。

既に辺りは真っ暗、繁華街など存在しない寂れた町に人影など残ってはいない。

情報収集も出来る筈はなく、とりあえず今夜はホテルで休もうという事になったのは自然な流れだろう。

 しかし運が悪かった。

今日に限って、この町のホテルが尽く満室なのだ。

何でも明日の朝から隣町で大きな市場が開かれるとかで、遠方から多くの商人や観光客が集まっているらしい。

それでなくても遅い時間にやってきた子供と鎧の怪しい2人組が割り込む隙間はなかった。

中央近くの軍絡みのホテルならば銀時計の力でごり押しも可能だろうが、こんな田舎ではそれも通用しない。

寧ろ胡散臭げに追いやられるのがオチだ。



「とにかく他の空いてるホテルか宿屋を探すしかないよ。ボクはいいけど、野宿は兄さんが辛いでしょ。野宿の道具なんか持ち歩いてないんだから」

「いっそ、その辺の木を使ってカッコイイホテルを錬成──」

「自然破壊反対。町の人に訴えられるよ」

「うっ」

「ったく何でも錬金術で済まそうとするなって師匠が言って…………………うわぁ」

「……アル?」



 不毛な冗談が不意に途切れ、エドワードは疑問符を浮かべて隣を振り仰いだ。

道の真ん中で立ち止まったアルフォンスは、ぽかんと空を見上げている。



「………うお」



 そして、兄は弟が急に黙り込んだ理由を悟った。

夜空に浮かぶ満天の星が─────降り注いでいるのだ。

流れ星なんて可愛いものじゃない。

星々が一斉に降り注ぐ様子はまるでシャワーだ。



「流星群、だね」

「今日だったのか……」




 錬金術師は科学者であり、研究者だ。

太陽や月、星は錬金術を生み出す錬成陣においても重要なファクターとなる。

天体の専門家ほどではないにせよ、彼らはこれがどういうものであるかを知っていた。

数十年…あるいは数百年に一度、繰り返される現象。



「…これだけ流れ星があれば、願い事も叶え放題だね」

「……ああ」



 うんと幼い頃。

願い事が叶うという噂を聞いて、流れ星を探すべく家の庭に寝転がって幼馴染の少女と3人で夜空を見上げた。

あの時の願い事が何だったのかは、覚えていない。

結局流れ星は見つからなくてそのまま眠ってしまい、それぞれの親に抱かれて家に戻った筈だ。



「…ウィンリィも今、見てるのかな」

「………かもな。あいつ、夜更かしだし」



───幼い頃の願い事は多分、3人ともバラバラだった。

子供らしい、無邪気で幸せで自分勝手な夢。

だが、今の自分達の一番の願い事は同じだろう。

彼女もそれを願ってくれていると、なんとなく確信できた。



「───よっし! とりあえず、目先の願いが叶ったかどうか確かめてみるか」

「そうだね」



 笑って先頭を歩く兄を、のんびりと弟が追いかける。

敢えて口には出さない。

錬金術師は科学者だから、奇跡なんて信じない。

それでも願う事くらいは許されるだろう。

一番大切な願いは、自力で叶えてみせるから。







 数分後。

最後のホテルで空き室を確保した兄弟がガッツポーズを組んだのは、その為の第一歩である。










小話1に続き、また星ネタ。
お盆の帰省中にちょうど流星群が来てたのですが生憎の曇り空で全く見えず、
腹いせで(?)絵板に一発書きしたブツでした。

星に願いをかけるのはロマンティックではありますが、それは何の努力もしない他力本願でもある訳で。
兄弟には自力で夢を叶えて欲しい。それでこそ意味がある。

(07.10.28.再UP)