【星に願いを】 チビ幼馴染み3人 リゼンブールの満天の星空の下で、幼い少年と少女のはしゃぐ声がする。 エルリック家の庭に急遽運ばれた細い木の枝には色とりどりのリボンや縫いぐるみ、果てはお菓子、靴下までもが所狭しと飾り立てられていた。 兄弟が書斎で見つけた異国の本に載っていた「タナバタ」という祭りを模したものらしいが、この際細かな差異はどうでもいい。 子供達にとっては、理由はどうあれ大っぴらに夜遅くまで遊べたらそれでいいのだ。 それと、星が願い事を叶えてくれるというカードさえあれば。 いつもは「オレはレンキンジュツシでカガクシャなんだ!」と子供らしいとは言えない台詞を吐く少年も、この日ばかりは弟と幼馴染みの楽しげな雰囲気に押されるようにいそいそと準備に勤しんでいたりする。 『おおきくなれますように』『れんきんじゅつがもっとうまくなれますように』…木の枝には飾りと一緒に子供達の夢の分だけ、カードが揺れていた。 「……『エドとアルとずっといっしょにいられますように』?」 そのうちのひとつを声に出して読み上げながら、エドワードがカードを摘んだ。 「これってウィンリィだよね?」 「うん!」 同じようにカードを覗き込みながらアルフォンスが問い、ウィンリィが嬉しそうに答える。 「………そんなのムリだろ」 カードから手を離し、ぽつりと難しい顔をして呟くエドワード。 「オトナになったらシゴトとかケッコンとかで、みんなバラバラになるもんだろ。ずっとなんてムリだ」 「……そう、なのかな…やっぱり…」 アルフォンスも悲しそうに顔を歪ませる。子供は、永遠に子供のままではいられない。 それくらいはアルフォンスにも理解できるが、何も今ここでウィンリィに言わなくてもいいのにとも思う。 兄は兄なりにおざなりな嘘をつかない事で誠意を見せようとしているのだろうが、損な性格には違いない。 「そんなことないよ!」 途端、幼馴染みの少女の声が上がる。 一瞬泣いてしまうのではないかと心配した兄弟達だったが、予想に反してウィンリィは笑顔で断言してみせた。 「あたしたち、なかよしだもん。ぜったい、ぜったい、ずっといっしょだよ」 驚く二人を余所に、右手でエドワード、左手でアルフォンスの手を握るウィンリィ。 「ふたりとも、だいすき」 眩しいばかりの笑顔に、思わず少年達の頬が赤く染まる。 「………そうだな。なかよし、だもんな」 「ボクもウィンリィのこと、すきだよ」 「うん!!」 結局のところ、兄弟はこの幼馴染みに勝てる筈などないのだ。 くすくすと笑い出す3人に、家の中から声が掛かる。どうやら兄弟の母の得意料理が完成したらしい。 はーいと明るく返事をして先に家へと駆け込むウィンリィの後ろで、アルフォンスはエドワードにこそりと耳打ちした。 「ボクか、にいちゃんか。どっちかがウィンリィとケッコンしたら、バラバラにならなくていいよね?」 「………っ!!」 声を失くす兄を残し、ぱたぱたとウィンリィの後を追うアルフォンス。 それは初めての挑戦状。弟だって、年下だって、負けてはいられない。 ───その数日後、『どっちがウィンリィをお嫁さんにするか』で兄弟喧嘩が繰り広げられたのは言うまでもない。 04年の七夕当日、会社帰りに唐突に「季節物をやろう!」と思いついて30分くらいで書いたもの。 |