【雨垂れ】         100企画用・女主人公設定説明(笑) → 名前:緋勇 真(まこと)
                                        関西弁で一人称「オレ」な唯我独尊系。
                                        口は悪いが見た目は栗色の髪の美少女。





「ごちそーさまでしたっ♪」

 かたん、と茶碗を卓袱台に置く音と共に、さも満足といった感じの明るい声が茶の間に響く。

何時の間にやら彼女──緋勇 真(まこと)専用としてこの家に常備されるようになった薄い橙色の茶碗には米粒ひとつ残っていない。

僕はこれまた彼女専用である同色の湯呑みにお茶を注ぐと、真の前に差し出した。

「ほら。」

「ん、サンキュ。このタイミング、やっぱ主婦やな。」

「誰が主婦だ。」

「あ、主夫か。あれ? 一応怪しげな骨董屋の店主でもあるから、兼業主夫? 兼業亀?」

 どんな亀だ。

骨董屋の店主にしても「一応」と「怪しげ」は余分だ。

というか、いい加減に《玄武》と亀は別物だという事を覚えて欲しい。

…いや、覚えてはいたか。

だいぶ前に抗議した時、「だって言い易いし」の一言で済ませられた記憶がある。

「…………もういいよ。」

 これ以上ツッコミを入れても虚しいだけだ。

僕は自分の分のお茶を啜りながら小さく溜息をついた。

常に我が道を行く彼女の口が悪いのは今に始まった話ではない。

それは高校3年生の夏、初めて会った時から何も変わってはいなかった。

 それでも。

これまた美味しそうに湯気の立つお茶を啜っている彼女を見ていると自然に笑みが漏れる辺り、結局は惚れた者の負けなのかもしれない。





 今、こうして呑気に寛いでいられるのも全ては彼女───《黄龍の器》たる人物のおかげだ。

かつて自分を含む多くの宿星達を率いて凶星の者と闘った彼女がいなければ、東京がどうなっていたのか考えるだに恐ろしい。

 そして彼女は東京だけでなく、如月翡翠という人間をも別の意味で救った。

飛水家の末裔としての使命に凝り固まっていた自分を、一人の人間として扱い───愛してくれた。





「ところで、真。今日は泊って行くんだろう?」

 お茶を飲み干して一休憩したところで、僕は卓袱台の食器を重ねてお盆に移動させながら何気なく彼女に問うた。

闘いが終わり、晴れて彼女と恋人同士と呼ばれる関係になって久しい。

お互い性格を変える気は更々ないので傍から見れば相変わらず漫才コンビのような自分達だが、彼女がこの家に泊った事がない訳ではなかった。

それでなくても暇さえあれば彼女は店をからかいに……顔を出しに来る。

 ただ、滅茶苦茶な性格の割に彼女は古風な恋愛観念の持ち主らしく。

余程の事がない限り、男の一人住まいの家に泊ろうとはしない。

こうしてここで夕飯を食べる事はあっても、終電のあるうちは毎度律儀に新宿の自分のマンションに帰るのが常だった。

「うん? 帰るで?」

 案の定、僕と同じように慣れた手付きで食器を片付けながら真はあっさりと返事をする。

「今日は休講やったけど明日は朝から大学の講義があるし。新宿からならともかく、ここから通うのって遠いもん。知ってるやろ?」

 何度も聞かされた、予想通りの答え。ある意味それは本当なのだろうけど。

それに対し、僕はにこりと笑顔を向けた。

「それは知ってるけどね。───今日は傘を持って来たかい?」

「はぁ? 何事言っとんや、確か今日は降水確率10%やったで? 現に、ずっと晴れてたやんか。」

 訳が分からないと言った顔で目をぱちくりさせる真に、僕は更に微笑んでみせる。

「そうだね────夕方までは。」

「それって………」

 彼女が最後まで言い終わらないうちに、障子の向こうの窓ガラスに何かが当たったような小さな物音が響いた。

次いで天井を挟んで瓦屋根が独特の音階を奏でる。

それは最初はぽつぽつと表現される程度の可愛いものだったが、あっと言う間にバケツを引っくり返したようなざあざあという賑やかな音に変わった。

その正体は考えるまでもない。

「………………」

「因みに朝までは止まないよ。僕が言うのだから間違いない。」

 絶句したように言葉を失った彼女に追い討ちをかける。

「か、傘貸して…」

「生憎だね。先日村雨と壬生に貸して、まだ返して貰っていないんだ。店を含め今この家に傘は1本もないよ。」

「銃とか刀とか鞭とか白衣とかピザとかミイラの手とかは腐る程あるくせに、なんで普通の傘くらいもっと置いてないんや────!!」

「うちは傘屋ではなく骨董屋だからね。」

「それも違うやろ、この色物なんでも屋!!!」

「ああ、もしかしたら蔵には蓑くらいあるかもしれないな。探してみるかい? 」

 顔を真っ赤にしてこちらを睨みつける真に、僕はにこやかに提案してみせた。

ぐ、と珍しく言葉に詰まる彼女。

いかに天下無敵の黄龍と言えど、都会のど真ん中で蓑を被って歩く勇気まではないらしい。

「………謀ったな!! いい食材が手に入ったから久しぶりに夕飯食べて行けって…あの時そのまま帰っていたら雨が降る前に家に着いてたやんか!!」

 遡る事、2時間ばかり前。

いつものように居座るだけ居座って新宿に帰ろうとした彼女を引き止めたのは確かに僕だ。

───伊達に《玄武》…水を操る能力者をやってはいない。

流石に雨を降らせるまではできないが、事前に雨の気配を知るくらいは容易い事だ。

「鰤の照り焼きと風呂吹き大根が美味しいって喜んでいたのは誰だったかな。」

「う……」

 完全勝利。

紫龍コンビめ今度会ったらコロス、と小さく呟く恋人の肩をゆっくりと抱き寄せる。

少し癖のある栗色の髪からふわりと甘い香がした。

「愛しい人と少しでも長く過ごしたい…触れたいと思うのは当然だろう。」

 見た目以上に華奢な身体。

こうして抱いていても、とてもじゃないが世界を震撼させるような巨大な力を秘めているとは思えない。




「アホ。……折角、これ以上好きにならないように人が努力してたのに。これ以上触れたらきっと、もっともっと好きになる。離れたくなくなる。如月を…縛りたくなる。それじゃ飛水家と変わらんやろ……」

「そういうのを、余計な心配と言うんだよ。」

 観念したように。

聞こえるか聞こえないかくらいの声で語る彼女を、いっそう強く抱き締める。




 何故そうまで彼女が頑なになるのか。

毎日のように会いに来るくせに、触れるのを避けようとするのか。

自分勝手を装いながらも何処か不自然な彼女の笑みから悟った。

だからこそこんな強引な手を使った。




「君が幸せにしてくれるのだろう?」




───それは、今となっては遠い昔に聞いた台詞。

彼女が《黄龍》だからではない。

僕が《玄武》だからでもない。

彼女が彼女だから。

僕が僕だから。




「……開き直ったな、エロ亀。」

「何とでも言ってくれ。」




───既に、僕は君に縛られているのだから。

離さないのはこちらの方だ。

腕の中でくすりと小さな笑い声がした。






 やがて、僕達を包み込むような優しい雨垂れの響く部屋の中で。

ふたつの影が静かに重なった。











 10分後。

屋敷内にいやに奇妙に響く音に(しぶしぶながら中断して)家中を調べてみると、古い家の天井が見事に雨漏りをしており。

「うわー雨漏りなんて梅雨時の磯野家以外で初めて見たっ! これも忍者屋敷の仕掛けか!?」

 と変なところで感動する彼女を置いて、また酷くなった暴風雨の中、びしょ濡れで屋根の修理に励むハメになったのは言うまでもない………。









                【何ヶ月振りだよ魔人だよしかも何故かまたラギーだよ座談会】

作者「本当に何ヶ月振りだろ…幻水3に嵌ってから殆ど魔人から離れていたもんなぁ。(しみじみ)

   お題モノは難しいって喚いてたけど、企画がなければコレを書かなかったのも確実やね。

   しっかし笑えるのが、完成してみたら幻水SSの平均頁数の半分以下だったって事!

   ここんとこ何書いても長文になるって嘆いていたのに、魔人だとコレで済んだのよ。

   細かいチェックを除けば書き上げるのに掛かった日数も1日だけ。

   現代編で書き慣れてたってのもあるだろうけど、やっぱ今の愛情の差なのかしら?(大笑)」

如月「……ぬけぬけと、貴様……」

作者「んー? 幸運にもその貴重な魔人で登場できたくせに何が不満なんだよお前。

   某京一とか壬生とか見てみ? 連載モノだったくせに止まってるぞ。(最悪)」

如月「いちいち下手なオチをつけるなぁぁぁぁ!!(魂の叫び)」

作者「だって雨垂れ→雨漏り→●ザエさん家ネタを誰かに喋らせたかったんだもん。

   そもそもだから幻水でできなかったのさ。(きっぱり)」

如月「邪妖滅殺!!!!(ざば─────ん)」







勢いで書いたはいいが、本気で久々です魔人。
この娘の話は一応4作目だけどもうキャラも設定も忘れていたり(汗)。
幻水よりも馬鹿ップルな筈なんだけどねぇ…。
やっぱり如月は不幸にしてなんぼだよ!(酷)

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