【THE・試練〜醍醐編〜】 今日も元気だ旧校舎。今日のメンバーは俺達真神五人衆とアラン、霧島、コスモレンジャー(うっ、濃いな…)。 地下探索よりも、強制メンバーの強化とレベルの比較的低い仲間のレベル上げを目的とした布陣だ。 俺、緋勇龍麻はいつものようにリーダーとして皆の闘い振りを見守っていた。 別に仲間に任せてサボっている訳じゃない。自分の間近にいた敵はとっくに片付けている。 それでなくてもこの中でダントツ、レベル高いのに仲間のレベルアップの機会を奪うなんて事出来るか。 早いターンで終了した方が入る金も多いのに、皆の為にそれを敢えて我慢してるんだよ、俺は。 やっぱ、いくら普段あまり助っ人に呼ばない奴でも、もしなんかあった時にまるで使えなかったら洒落にならないからなー。実際、拳武館の事件の時はそれまで殆ど呼んでなかった藤咲(それでも俺に対して悪い感情は持っていない筈だ。普段の行いがいいからな。)が強制メンバーになって焦ったし。 っていうか、意外に使える小蒔(いざとなれば、ワザと毒沼で待機させ、毎ターン自己回復してレベルを上げるという手もある←非道)や意味もなく力天使の緑を連発すればいい葵はともかく、殆ど強制メンバーのくせにどうしてそんなにレベル低いんだ、京一に醍醐ッ!!京一は10、醍醐に至っては俺と15もレベル差があるじゃないかッ!! ……やっぱ、京一は打たれ弱いし、力が微妙に足りなくていつもトドメ刺し損ねるし、頭悪い(精神力が低い)から鬼剄の状態変化も殆ど成功しないのが癌だよなー。 で、醍醐。丈夫なのはいいけどその行動力の少なさ、何とかならないのか? 風火輪付けてても他の奴に先を越されるじゃないか。白虎変も意味ないっての。 (ん………!?) そんな事を考えながら少し離れた所で皆の闘いを見ていた俺は、ある事に気が付いた。
俺はいつものように一緒に帰ろうと言う京一、葵、小蒔を何とかテキトーに誤魔化して、ターゲットである醍醐だけを或る所へと連れてきた。皆には悪いが、一応、醍醐のメンツは護ってやらないとな。 「龍麻…ここは…ッ!!」 俺の真剣な顔に黙って付いて来た醍醐の声は既に裏返っている。 そう、ここは真神学園オカルト研究会、通称霊研の前。おそらく醍醐がこの世で最も恐れる場所だろう。 「うふふふふ〜〜ひーちゃん、いらっしゃ〜い。待ってたわよ〜〜〜。」 部室の前に俺達が着いたとほぼ同時に、中から裏密が戸をツ───ッと開ける。 白虎の本能的に危険を察したのか、普段豪胆な醍醐が逃げ腰になったが、俺はすかさず腕を掴んで身柄を押さえた。 「悪いな、裏密。準備はオッケーか?」 「ばっちり〜。取り敢えず、入って〜。」 「わ、悪いが用事をおも…」 ちっ、鋭いな。流石野生動物(違う)。だけどここで何時までも愚図っていても仕方ない。 俺はいきなり醍醐を霊研の中に蹴り入れ、自分も入って戸を閉めた。
相変わらず薄暗い霊研の床(何やら怪しげな魔法陣やら血らしき紅い液体の跡やらが残っている…)に座り込んだまま、ようやく我に返った醍醐が大声を上げる。 「あ、大丈夫、蹴りのついでにちょっとツボを刺激しただけだから、20分もすれば動けるよ。因みにこれ、八雲のアレンジ技。凄いだろ。」 「そんな事を聞いてるんじゃないッ!!」 珍しく醍醐は本気で怒っているようだ。 そりゃそうだ。俺だっていきなりこんな事されたら間違いなく秘拳・黄龍かますもんな。 だけど醍醐の場合、怒る事で霊研に居るという怖さ(しかも何か確実に企まれてる)を紛らわしているようにも見える。その証拠に、俺の後ろの裏密の方を絶対に見ようとしない。俺は一つ溜息をついた。 「あのな、これは全部お前の為なんだよ、醍醐。」 何?と醍醐が目を見張る。俺は説明してやった。 「お前、昨日旧校舎で闘ってた時、さり気なく悪霊とか亡者とか、幽霊の類と闘うのを避けてただろ。昨日だけじゃない、今まで殆ど全ての戦闘で、より強いドラゴンや鬼を自分が引き受ける代わりに極力幽霊と闘うのを避けていたんだ。……何時までも誤魔化せると思っていたのか?」 「そ、それは…………」 「そう、お前は前に俺に話してくれたけど、本ッ当に幽霊の類が苦手なんだよな。近付くのも嫌なくらいに。──でも、今まではそれで何とかなったけど、明日にも真の敵が現れるかもしれない現在、それってまずくないか?」 「い、いや、俺だって本当に危険な時は──」 「やっぱ、弱点は早いうちに完ッ全ッに克服しといた方がいいよなッ!?」 有無を言わさず、俺は最上の笑みで断言した。 「と、いう訳で、リーダーとして命令するッ!!今日これから明日の朝授業が始まるまで、ここ霊研で過ごす事!!」 「な、何だとッ!?」 やっと俺の意図を理解した醍醐が絶叫する。俺は快く協力を承諾してくれた裏密を振り返った。 「一歩でもここから出ようとしたら…」 「うふふふふふ〜〜壁全体に結界を張っといたの〜〜。もちろん完全防音〜〜。無理に吹き飛ばしたり穴を開けようとしたりしたらミサちゃん、どうなっても知らないから〜〜〜。もしかしたら永遠に帰って来れないかも〜〜〜。」 裏密の手には最後の札が握られている。後は俺と裏密が部室から出てから、戸に貼ればいいという訳。もちろん、更にその上から細工して無関係の生徒が剥がせないようにするつもりだ。 「あんまり、部室のモノは触らない方が身の為だからね〜〜。因みに〜、私の『お友達』も沢山、もうすぐ召喚される筈だから仲良くしてね〜〜〜。」 見ると、部室の奥に置いてある机(上に乗っているのは…あれは何だ?もしかして生贄?)の足元になんだかよく分からない魔法陣が描かれていて、どういう原理か、青白く光っている。どうやらだんだん光が強くなってきてるみたいだ。 「……………………ッッッッ!!!!」 醍醐は蒼白な顔をして、声すら出せない。きっと俺の技が効いてなくても恐怖のあまり動けなかっただろう。 ま、ちょっとやり過ぎな気もしないでもないけど、この試練を耐える事が出来たら、旧校舎の奴らだろうと新たな凄い敵だろうと何とも思わなくなるに違いない。ほら、恐怖にはより大きな恐怖が勝つってな(どこか違う)。 「……ト、トイレはどうするんだ!!ここには無いだろう!!」 おそらく最後の抵抗だろう、必死で訴える醍醐。よく思い付いたな。漫画や小説じゃないんだから、人間の生理現象はあって当然だ。俺はにっこり笑って紙袋を醍醐の前に置く。 「わざわざ買ってきたんだぞ、渋滞対策、車用携帯トイレ。いやー、便利な物があるんだな。」 別におまるでも良かったんだけど大の男にそれは流石に厳しいだろう。俺って友達思いだ。 「……………………」 「あ、夕飯と明日の朝ご飯用に、これも置いてくね。」 和風ピザとチーズピザ、ハンバーガー、知能パン。随分前に俺に絡んできた不良達が落としていった物だけど、賞味期限は…まぁ大丈夫だろう。動物だし(しつこい)。 「じゃ、そろそろ時間も無さそうだし、俺達は帰るよ。また明日迎えに来るから。」 「じゃあね〜〜〜〜。」 そんなに霊感の強い方じゃない俺でもはっきり分かるくらい、部室に霊気(妖気か?)が満ちてくるのを肌で感じ、俺達はショックで固まったまま(あ、技もまだ効いてるのか)の醍醐を残してその場を後にした。 裏密が部室の鍵を閉め、札を貼り、何やら呪文を唱える。途端、札が煙を出してボッと燃えたかと思うと、そこには何の跡も残らない。やっぱり凄いよな、こいつ。手品師としてもやっていけるんじゃないのか?そういや部室の中に所狭しと並べられたモノも、前に来た時より数も怪しさもアップしてたような気がする。 「じゃあ私、行くね〜〜〜。約束、忘れないでね〜〜〜〜。」 「ああ、如月んとこで必ず仕入れて来るよ。」 裏密が何に使うつもりか知らないけど、あれくらいで醍醐の幽霊嫌いが治れば安いものだろう。 ま、金は足りなくなったら皆に旧校舎で稼いでもらうさ。ついでに東京で一人暮しの俺の生活費もな。
「そこで何をしているのかな、蓬莱寺君?」 「…いや〜〜…はははは…ッ、ちょっと気になって、さ。」 階段の所でこっちの様子を窺っていたらしい京一が引きつった笑いを浮かべる。 こいつは最初っから俺と醍醐の後をこっそりつけて来てたんだよなー。 ったく、いくら気配を消してもお前の氣って特徴あるから俺にはバレバレだっての。 まぁ醍醐の幽霊嫌いの事はこいつ元々知っていたし説明も面倒だから、そのまま放っといたんだけど。俺達が部室に居た時も気配がしたから、戸に耳をくっ付けて話の内容を聞いていたに違いない。 「しっかし、お前も無茶苦茶な事考えるなー。余計に悪化したらどうすんだよ。」 ムッ。頭の悪いお前に諭されたくない。レベル、昨日も結局3しか上がらなかったくせに。因みに俺は学年5位の成績を誇っているのだ。試験の度にヤマを掛けさせているのは誰だってんだ。しかも折角当たっていても答えそのものを忘れやがって意味がねぇ。 「…京一、お前も確か霊研苦手だったよな。同じ事、してやろうか?」 「馬鹿、俺は霊云々よりも裏密が苦手なんだよッ!」 「威張るなッ!!」 …なんか不毛な会話だなー。ま、いいや、京一にはまた別の方法を考えてやるか。 こいつにもいろいろ改善点があるしな。これも世の為、人の為。 「あッ、待てよひーちゃんッ!」 さっさと下駄箱の方へと歩き出した俺を京一が慌てて追いかけて来る。 ふっ、呑気に人の心配してられるのも今のうちかもな。
直後、裏密の力で完全防音になった筈の霊研部室からこの世の者とは思えない悲鳴が校舎に響いた……。
いやぁ………人間、本ッ当にキレたら凄い事になるって初めて知ったよ……………。 あいつはもう、戦力外と割り切るしかないかな………ははははははははは…………………。 鬼です、この緋勇龍麻君は(笑)。 |