【一番長い日〜後編〜】





 ドダダダダダダッ。

真神学園までの路をあたし達──『京一』と『麻稚』は必死で走っていた。

HR開始のチャイムまであと5分。

「あーもうッ、あんたのせいで遅刻しそうじゃない!!」

「何だと、お前が勝手に暴走したのが悪いんじゃねェかッ!」

「…その話、蒸し返したら今度こそ手加減しないわよ?」

 あまりのスピードに路行く人々が驚いたような顔をして路を空けてくれる。

しかし注目を浴びる一番の理由は…この言葉使いなんだろう。

なにせ、いいガタイの男が女言葉、一見おしとやかな女の子がその辺のチンピラのような言葉を使ってるんだから。

「…誰がおしとやかだって?」

 バコッ。

あたしは走りながら京一の頭に軽く鞄をぶつけてやった。ほんと、時々妙に勘がいい奴だ。

それにしても…、やっぱり『自分』を殴るのって抵抗あるわ。

さっきは思わずやってしまったけど、本気で危なかった。『麻稚』の身体の丈夫さと咄嗟に被害を最小限に抑えた京一の反射神経に救われたけど、下手すれば一生この身体だったかもと思うとぞっとする。

「…ッ、お前なぁ…ッ」

「と、それより京一、あんた学校ではもっと女の子らしくしてよね。『緋勇 麻稚』は優等生で通ってるんだから!」

 だからこそ、こうして遅刻を逃れるべく走っているのだ。

優等生ぶってる訳じゃない。確かに実家を無理言って飛び出して来た身のあたしは、少しでも両親に心配掛けさせない為に極力イイ子をやっているんだけど。

───万年遅刻魔の京一はともかくあたしまで遅刻なんかしたら、両親とは別の意味で何かあったんじゃないかって心配しそうな人達が身近にもいるから。

できる事ならその人達にも余計な心配を掛けさせたくはない。

…ってのもあるけど、それよりも何よりもッ!!

「いい!?絶対、誰にもバレないようにしてよッ!京一なんかにあたしの身体が汚されたなんて知られたら、あたし皆と顔を合わせられない!!」

「人聞きの悪い言い方すんじゃねェ!!それはお互い様だ!!つーか、お前もそんなオカマみてェな言葉使い何とかしろ、真神一のイイ男のイメージが崩れたらどうしてくれるッ!」

「元々崩れてるでしょ!!」

 ああ、不毛な会話…。とにかく、あたし達は『仲間』である葵、小蒔、醍醐くんにもこの事を秘密にしつつ、ミサちゃんと接触を図る事に同意してひたすら学校へと走ったのだった。







 が。

「…な、何だよ改まって話って…美里。」

「お…アタシ達忙しいんだ…ケド。」

「…大変ね、麻稚。私にできる事は何でも言ってね。」

「ほんと、よりによって京一なんてさ。ボクだったら立ち直れないかも。」

「…とにかく、不埒な事はするんじゃないぞ京一。」

 …あっさりバレてるし───────!!(涙)

今は昼休み。人気のない屋上で、結局あたしと京一は有無を言わさずいつものメンバーに囲まれてしまった。流石は共に死線を潜り抜けてきた『仲間』、あたしの努力も虚しく簡単に今の状態と原因に気が付いたらしい。

というか皆、慰めてくれるのは嬉しいけどお願いだからさり気なくあたしをどん底に突き落とさないで…。

 バシィッ。

何だか無性に哀しくなって、あたしは腹いせに隣の京一に向かって木刀を袋ごと振り下ろした。

それを京一は白刃取りの要領で受け止める。ちっ、やっぱり得物の扱いは完全に負けだ。

「てめ、何しやがるッ!」

「だからあんたのそーゆー言葉使いがバレバレだってのよ!!あんた、授業中その姿で鼾かいて堂々と居眠りしてたでしょ!!」

「人の事言えるか、お前もしょっちゅうカマ言葉になってただろ!!それに木刀の持ち方がなってねェ!!さっきも教室の戸にぶつけてただろーが!!」

「うっさい、こんな邪魔なもの持ち歩いてるあんたの馬鹿さがよーく分かったわ!!っていうかあんたやっぱり変!!変人!!」

「お前に俺のポリシーが分かってたまるか!!大体、体育はサボるつもりはなかったんだぜ!?なのにお前が無理やり仮病使わせて───」

「京一の目的は更衣室でしょ、クラスの女子全員を危険に晒せるかこのドスケベッ!そんなに体育をやりたいなら、今あたしが『真神指定女子体操服』を着てグランドを練り歩いてあげようか!?」 

 真っ赤なブルマー姿の『京一』を想像し、一瞬その場の全員が固まる。

京一も咄嗟に反論の言葉が出ないようだ。ふっ…勝った…!

「…それよりも。ミサちゃんは何て言ってるの?会いに行ったんでしょう?」

 流石は生徒会長(関係ない)。逸早く立ち直った葵が尤もな質問を発した。

「それが…何でも、少なくても今日1日は元に戻れないんだって。」

 あたしはそれに半分投げやりな気持ちで答える。

そして朝のやり取りを思い出した。







 葵に言われるまでもなく、遅刻スレスレで学校に着き、辛うじてHRの出席確認を済ませた後すぐにあたし達は霊研に向かった。

本当なら1限目の授業を受けるべく2−Bに居る筈のミサちゃんは、それを予想していたようだ。

こっちが扉を開ける前に内側から開けられ、いつもの「いらっしゃ〜い」という台詞と共に中に迎え入れられた。

隣の京一が条件反射のように青ざめて固まっているがそんな事にかまってる場合じゃない。

「ミサちゃんッ!これ、どーゆー事!?」

 あたしは部室に入るや否や、バンッと机を叩いて彼女に詰め寄った。木製の机が破壊されなかったのは奇跡に近い。

「うふふ〜大成功だったみたいね〜。」

 ミサちゃんはそんなあたしの剣幕も何のその、改めてあたし達を交互に眺めると、満足そうに頬を緩めた。

それはこの一件が自分の仕業だと認めたのと同じ。今更弁解する気もないのが彼女らしい。

「だからッ、何であたしと京一なワケ!?」

「そ、そうだ裏密、説明して貰おうかッ!」

 京一もやっと気を取り直したようで、言葉を挟んだ。

そう、まずそれが第一の疑問だった。何でよりによって『あたし』と京一なのか。

実は京一が彼女の実験台になるのは今回が初めてじゃない。六芒魔法陣なんかはその最たる例だ。どうやらミサちゃんは(実験台として)京一がお気に入りらしい。だから京一の氣やら何かはミサちゃんにとっては結構馴染みのもので、その気になればいくらでも使い様があるようだ。今回みたいに夜中のうちに離れた場所から何かしらの干渉もできるくらいだから、その実力は相当なものだろう。…京一にとっては災難以外の何物でもないだろうけど。

 だけどあたしは別だ。そうそうミサちゃんに隙を見せたつもりはないし、彼女に恨まれる覚えもない。むしろ仲は良い方だと思う。それが何で、京一とセットでこーゆーふざけた実験に付き合わされるハメになったのか。

「うふふ〜。ミサちゃんは別に麻稚ちゃんを指名した訳じゃないよ〜。」

 なんとも楽しそうに言うミサちゃんに…嫌な予感がする。

「ミサちゃんが指名したのは京一くんだけ〜。『仲間』の中で、京一くんと一番精神的波長が近い者の心が入れ替わるようにしたの〜。なんとなく麻稚ちゃんじゃないかとは思ったけど、やっぱり〜。」

 くらり。聞かなきゃ良かったとあたしは本気で眩暈を感じてしまった。

「う、嘘ぉ!!あたしがこの馬鹿と同じっての!?」

「冗談だろ、この暴力女と俺がぁ!?」

 ガキィッ。

『馬鹿』はあたしの突き出した拳を、いつの間に手にしたのか、さっきあたしが机の横に立て掛けた木刀で受け止めた。

「……………」

「……………」

 一触即発。じりじりと力が均衡する。あたし達が朝に顔を合わせてから何度目かの静かな殺気が薄暗い霊研の部室に広がった。 

「うふふ〜やっぱり〜息がぴったり〜。」

 駄目押しのようにミサちゃんが発した言葉に、あたしはどっと疲れを感じて拳を降ろした。それは京一も同じようで、力なく持っていた木刀を振り下ろす。

「で、どうすりゃ元に戻るんだ?」

 さっきの話はなかったかのように京一が本題に入った。余程苦手ならしく、未だにミサちゃんを真っ直ぐに見ようとしないのが情けない。

…ちょっとムカツキ。言っとくけど、あんたよりあたしの方がショックだと思う。

「呪いの一種だから〜ほっといても明日には戻るよ〜〜。」

「「げッ!!」」

 不本意ながら見事にハモるあたし達。というか、呪いって…ミサちゃん…(汗)。

「もっと早く戻る方法ってないの!?」

「何かあるだろ、アイテムとか薬とかッ!」

「ダメ〜。初めて試したものだから、下手に干渉したらどうなるか分からない〜。もしかしたら逆に一生元に戻れなくなるかも〜。でも〜要は二人のプラーナが入れ替わってるから〜。」

 なんかよく分からない事を説明し始めた彼女の声がどこか遠くで聞こえた。もはやあたしはそれどころではない。

一刻でも早く戻りたいのに、頼みの綱(そもそもの元凶なんだけど)のミサちゃんがアウト。

如月くんトコで売ってるヤツも怪しいには変わりないけど期待できない。

となると…本当にこのまま、京一の格好で1日を過ごさなきゃダメな訳?

……………人間って1日に何回、トイレに行くと思う?

着替えは?お風呂は?それまで皆にバレずにいられるのか?…もし万が一、アン子ちゃんにバレたら?

 目の前が真っ暗になるのを感じた。

ふらふらと霊研を出た後は、どうやって自分の教室に戻ったのかも覚えていない……。







「そ…そうなんだ…。だ、大丈夫だよ、まーちゃん!ボクはキミの味方だからッ!」

「…うぅ…小蒔ッ」

 バレてしまった以上、隠しても仕方ない。アン子ちゃんじゃないだけましだと思う事にしよう。

だけど説明してるうちにあたしは何だか本気で泣けてきてしまった。

思わず目の前にいた小蒔にがばっと抱き付いてしまう。

「わわッ、ちょッ…まーちゃん!?」

「京…じゃない、緋勇ッ!」

 慌てたように腕をばたばたさせる小蒔と、醍醐くんの上擦った声が聞こえた。

あ、しまった、今のあたしは『京一』だったんだ───と。

 はッ!!殺気ッ!?

一瞬で小蒔から離れ、身を屈めたあたしの頭上をひゅんッと風を切る音が走る。

「このボケッ!よりによって美少年なんかに抱き付くんじゃねェ!!『俺』がホ○かと思われるだろーがッ!!」

 京一…『麻稚』の手には何処から持ってきたのかデッキブラシ。…お前は魔女の宅急便か。

そりゃ木刀は不本意ながら今はあたしが持ってるし、いつものクセで手持ち無沙汰なのは分からないでもないけれど。 

「誰が美少年だ─────!!」

「あたしをそれ以上不信人物にするなぁッ!!」

「やめないか、お前達!!」

「もう、喧嘩はやめて…ッ!」

────結局、あたし達5人は5限目の授業を揃ってサボる事になってしまったのだった。

もうやだ、こんな生活………(遠い目)。








「……………」

「……………」

 どうにかこうにか時間は過ぎて。

放課後、あたしと京一は並んであたしのマンションに向かっていた。あたし一人で京一の家に帰るのも不安だし(京一の家族に怪しまれると厄介だ)、京一をあたしの家で一人にするのはもっと不安(いろんな意味で)だからだ。

マンションへと続く川沿いの道を夕焼け空の中、並んで歩く姿は端から見ればごく普通のカップル、なんだろうな…実際は全然違うけど…あははは…(乾いた笑い)。

 因みにネタの匂いを嗅ぎ付けたアン子ちゃんの質問攻めから逃げられたのは、一重に葵達の協力のおかげだ。屋上での言葉通り、彼女達は身を持ってあたし達を逃がしてくれたのだ。持つべきものは頼れる『仲間』だとしみじみと思う。

 もしアン子ちゃんにバレたとして。いくら彼女でもこんな冗談みたいな状況をそのまま記事にするなんて事はないだろうけど(信じろと言う方がおかしい)、これを弱みに後々何を吹っ掛けられるか分かったものじゃない。

…何気にヒドイ事を言ってるようだけど、過去の経験上あながち取り越し苦労とも思えないのがアン子ちゃんの怖いところだ。

 けど、まだ明日までには時間がたっぷりあって。自然、溜息がこぼれる。

「…麻稚、お前さぁ…そこまで嫌かよ?」

「…当ったり前でしょ。」

 今更ながらぽつりと言う京一に、あたしはきっぱりと断言してやった。 

何処の世界にこの状況を喜ぶ女の子がいるってのよ。恋人でもない男と、身体が入れ替わるなんて。

大袈裟かもしれないけど本気でお嫁に行けない身体になったような気がして、泣くに泣けない。

…普段、化物相手に大立ち回りなんてのをやってても、あたしの夢は《可愛いお嫁さん》なんだから。本ッ当に好きなヒト以外(…まだそーゆーヒトに巡り会っていないのが哀しいけど)、絶対にこの身を委ねるなんて事はしないって決めてたんだから。

こいつに言ったら似合わないって爆笑されそうだから死んでも言わないけどさ。

「……………」

 京一は何かを言い掛けてやめてしまったようだ。いつもの京一ならこれくらいで引き下がるような殊勝な奴じゃない。すぐに憎まれ口なり反論なり返ってくるのに珍しい、と京一の方を向きかけて。


「────きゃあぁぁぁぁッ!!」



 響き渡った甲高い悲鳴にあたしは思わず息を呑んだ。

「な、何だ?」

 京一も慌てて辺りを見渡す。

それには応えず、次の瞬間にはあたしは持っていた木刀と鞄を放り出し全速力で走り出していた。

目線の先にあるのは、先日の大雨で増水した川。

そして、その中程で見え隠れしている小さな影。

100m先の橋の上ではさっきの悲鳴の主らしい若い女性が何か叫んでいる。

 あたしは岸に着くと迷わず、制服のまま冷たい水の中へと飛び込んだ。  






────思っていた以上に水の流れが速い。底に足が全く着かない。

冬も近いこの季節、水の冷たさに手足の感覚もあやふやだ。

元々泳ぎはそんなに得意な方ではないけれど、服のまま泳ぐのがこんなに難しいとは知らなかった。腕に足に絡み付く制服がまるで鎖のようだ。

それでなくても今のあたしは『京一』の身体だ、いいかげん慣れてはきたが水中ではどうも勝手が違う感じがするのは否めない。

「ほら、大丈夫だから、落ち着いて…ッ」

 それでもどうにか先程見えた影…5、6歳くらいの男の子の元へと泳ぎ着く。

その途端。

「ちょ…ッ待っ…ッ!」

 あたしは不覚にもがばっ、と正面から子供にしがみ付かれてしまった。

パニック状態になった子供は信じられない力であたしを束縛する。

弾みで思いっきりバランスを崩してしまい、水が口から鼻から流れ込んできた。

「か…はぁ…ッ」

 辛うじて子供と一緒に水面に顔を出すが、苦しさに目に涙が浮かぶ。

けど、今はそんな事にかまってはいられない。必死で子供を泳ぎ易いように抱き直そうとするが、激しい水圧に翻弄されてなかなか上手くいかないのがもどかしい。

男の子はようやくしがみ付ける存在を見付けた事に興奮し、あたしの言葉も耳に届いていないようだ。

少しでも離さないように、ますますあたしの身体を拘束してくる。

これが妖魔とかなら力任せに引き剥がす事もできるが、そうもいかない。

(────やば…い…)

 子供だけでも助けなくては。必死になって足掻けば足掻くほど、手足が空回りしてしまう。

満足に呼吸もできなくて。どんどん、意識が遠くなっていく。

(…あたし、馬鹿だ…)

 目の前の小さな命ひとつ、満足に救えなくて───何が『東京を護る』、だ。

あたし、今まで自惚れていた。なまじ、腕に自信があって。

実際、この春から起きた数々の奇怪な事件を腕力にものを言わせて解決してきて。

東京を護れるのは《力》を持つ自分だけだと自らを奮い起こして。

『仲間』の皆の協力があったからこそ解決できたのは判っているつもりだったけど、どこかで自分の《力》を過信していた。

誰にも負けない。そう思っていた。

そのツケが───こんなところで廻ってきたのかもしれない。

一際大きな渦に呑まれ、ごぼっ、とあたしの身体が水中に沈んだ。



…ごめん、京一。あたし、あなたの身体を返せないかもしれない……………。





 その時。霞む視界に白い影が映り────唇に何かが触れたような気がした。

景色がぐるんと一転する感覚。赤茶色の影。…まだ、合わさったままの唇。

そしてあたしは完全に意識を手放した。








…ここは何処だろう。身体がふわふわと揺れている。

───あったかい。

すごく安心する──懐かしい感じの氣があたしを包み込んでいる。

このままずっとこうしていたい。

…って。え?あれ?

「気が付いたか、この大馬鹿女。」

「な………ッ!?」

 聞き慣れた声にあたしは一気に意識を浮上させた。すぐ目に飛び込んで来たのは見慣れた赤茶けた髪の毛。

つまり、あたしは『京一』におんぶされていた訳で。

そしてあたしの身体は『麻稚』のものになっていて。

あたしも京一もびっしょりと全身ずぶ濡れで。

あたし達は既に薄暗くなった道をあたしのマンションへと向かっていて。

「な、何!?どうなってるの!?あの男の子は!?」

 聞きたい事は山とあるが、まずは一番気になる事を目の前の男に尋ねる。

「心配ねェよ、無事だ。ちゃんと親が連れて帰った───お前にも有難うってよ。」

「…そう…良かった…」

 背中越しに聞いたその言葉に、あたしは心の底からホッとしたのを感じた。

あたしのせいで、危うく小さな命を奪うところだったのだから。

…ふと気が付くと。あたしの目からは涙がぽろぽろと溢れていた。

そしておんぶされた状態のまま、見た目よりも広い京一の背中にぎゅっとしがみ付く。

普段のあたしなら考えられない。

「ごめ…ん…京一…ッ…」

 きっと。ううん絶対。京一が溺れかけたあたしとあの子を助けてくれたのだ。

京一がいなければあたしもあの子も助からなかったのは間違いない。

…あたし、やっぱり自分一人じゃ何もできなかったんだ。ずっと、こいつがあたしの背中を支えていてくれてたんだ。今更、気が付いた。

『一番精神的波長が近い者』。ミサちゃんの言葉が頭をよぎる。

そう───京一があたしの隣にいるのがすごく当たり前で。

何も言わなくても、いつもあたしのフォローをしてくれていて。それが自然すぎて、今まで気が付かなかった。

この氣が、こんなにあったかいなんて知らなかった。

「お、おい麻稚ッ!?」

 予想もしなかったであろうあたしの行動に、京一が慌てふためく気配がする。

…悪かったね、こーゆーのが似合わない女で。

急に恥ずかしくなって、あたしはすぐに涙を拭うと京一の背中から手を離し、勢い良く飛び降りた。

すとん、と小さな音を立てて街灯の光が照らすアスファルトの道路に着地する。

半日ぶりの自分の身体の感覚。うん、当たり前だけどやっぱりこの身体が一番しっくりくるな。

「ありがと、ね。」

 着地と同時に軽く走ってまだ驚いている(ったく失礼な!)京一の前に周り込み、らしくないついでに一応礼を言っておく。

───今までも。これからも。───有難う。

あたしは意地っ張りだから。今を逃したら言えない気がするから。

もしかしたらあたしの顔、真っ赤かもしれない。

「………麻稚。」

「ん?」

「………お前、花柄のブラは似合わねェな。」

 

───────どごぉぉんッ!!!



 その瞬間。濡れた白い制服の前を片手で覆ったあたしの、必殺黄龍が炸裂したのだった。










「…っの、馬鹿────!!」

「うっせ、この暴力女─────!!」

 今日も今日とて真神にはお馴染みのバトルが繰り広げられる。

───あれから数日。

結局、何故1日が過ぎてないのに元の身体に戻ったのかは謎のまま、あたし達は風邪をひく事もなく(馬鹿は風邪ひかないって本当なのかも…ってあたしもか!?)相変わらずの関係──悪友兼相棒を続けている。

だけど。あたしは密かに気になっている事があった。

 

 霊研でミサちゃんの言葉を最後まで聞かなかったあたし。 

帰り道、京一が何かを言い掛けて躊躇った事。

いくら『麻稚』でも、決して大柄とは言えない女の子の身体で意識を失った大の男と子供の二人を抱えて泳ぐのは困難だろうという事。

それなら、せめて逆なら。男の身体なら、意識のない女の子と子供を運ぶのも少しはマシになるのではないか。

以前、《氣》や《プラーナ》と呼ばれるものは、直接対象に触れる事…特にあらゆるエネルギーを吸収する媒介となる『口』によって、行き来する事があると何かで聞いた事がある。

そして───薄れ行く意識の中で、ぼんやりと感じた感触。




 遠くで犬神先生に捕まって喚いている相棒の背中を眺めやり……あたしは再び顔が赤くなったのを自覚した。






………でも、絶対。気付いたなんて事はあいつには言わないんだからッ!






 
        【突発のくせに何でこんなに長くなったんだ座談会】

麻稚「もうやだ─────!!何であたし、こんなに不幸なワケ!?

   京一に汚されるし(まだ言ってる)、主人公のくせに溺れるし、情けないし。

   普通、どりーむで作った女主人公をここまで苛めないでしょ!?(涙)」

京一「文句は作者に言え。言っとくけど、俺も被害者なんだからな。

   何でもあの馬鹿、一度女主人公で純粋なギャグを書きたかったとかほざいてたぜ。

   結局例によって中途半端なのが、あいつらしいっちゃあいつらしいけどよ。」

麻稚「殺す!!」

京一「…ほんとお前、ガサツだよな…。

   作者でなくてもそれでレンアイに持って行けって方が無理なんじゃねーの?」

麻稚「大きなお世話よッ!あんな事があったら、人生投げたくもなるっての!

   本当にマトモな恋愛ができなくなったらどうしてくれるのよ────!!(泣)」

京一「ま、その時は俺が嫁に貰ってやってもいいぜ?」

麻稚「………笑えない冗談はやめてよね。」

京一「そうだな。」

麻稚「……………」

京一「……………」

           間。

麻稚「い、今のキ……ッ、し、信じらんないッ!馬鹿、変態、痴漢ッ!!(真っ赤)」

京一「修行が足りねェぞ、これくらい避けられねー様じゃまだまだだな。

   そういや負ぶった時も重かったし…太ったせいで鈍くなったんじゃねェ?」

麻稚「…殺す!!!」

        そして今日も爆音が響く。合掌。  





うはははは。最後まで京一×女主にならなかったな〜。←笑って誤魔化す奴
で、でも座談会はラブラブだよね?ね?←同意を求めるな!
一度「喧嘩ばっかりしてるけど実は」っていう京一と女主をやってみたかったんです。
しかもそんなに力の差がない感じで。そしたらホントに喧嘩しかしてないでやんの(苦笑)。
珍しく普通の(他の娘に比べたらな…)セーラー服女主にしたのが悪かったのか。
けどこの京一…子供かと思ったら妙に余裕綽綽だよなぁ…何があったんだ?

ほんのちょっとだけ、京×小が入ってるのはお遊びです(笑)。