【番外・secret
love】 時は草木も眠る丑三つ時。 普段なら眠っているであろうこんな時間に俺はある人物と二人でいた。 と言っても、哀しいかな、好きな女と一つのベッドに寝転んでいるワケじゃない。 ここは親友であり(多分)最も頼りになる男、緋勇龍麻が一人暮しをしているマンションのリビング。 いよいよ明日(正確にはとっくに今日になったけど)に控えた学年末試験対策の為、俺はここで必死の闘いに身を投じていた─────。 「ぐはぁッ!?」 いつの間にか、勉強机代わりの炬燵に突っ伏して眠っていたらしい。 いつもの如く容赦の全く無い一撃に、俺は嫌でも目を覚ました。 ってゆーか、もう少しで永眠しそうだったけどな……。 「…………ひーちゃん……マジで俺を殺す気か……?」 はッ、もしかしてそのつもりでわざわざ俺に草人形を装備させたのか!? 例え生き返っても、殺人ってのは道徳的に、いやヒトとしてマズイだろーが。 あ、そんなの今更か…悪人(もしくは元人間)とはいえ俺も龍麻も既に何人殺ったか分かんねぇもんな…。 「やかましいッ、人が貴重な時間を割いて親切にも勉強教えてやってるのに気持ちよく眠りやがってッ!」 龍麻はひっくり返った炬燵の横に仁王立ちしたまま、俺を睨みつけた。 その足元には弾みで飛ばされた教科書やノートが散乱してるが、それよりもカーペットがあちこち凍っているのが生々しい。 「だからって、雪蓮掌は普通やんねーだろ……」 殺人は兎も角、それ、バケモノなんかも一撃で即死させる技だって自覚あるのか? …と続けて反論しようとして俺は辛うじて思い止まった。 龍麻に迫力負けしたってのもあるが、確かにこーゆー場合、寝てしまった俺が悪いんだよな、やっぱ。 この試験の結果がモロ卒業に掛かってる俺の為に、龍麻はこうして付き合ってくれてるわけだし。 口ではふざけた言い方しかしねぇが、これでも俺はこいつにはかなり感謝している。 尤も、教科書を開くと条件反射で眠くなっちまう体質はそう簡単には直らないようだが。 …この1週間の特訓で何度殴られても寝られる俺ってある意味大物かもしれねぇな…。
実際、龍麻は全然普段勉強してる様子がないし、授業中も俺に負けず劣らず居眠りしている事が多い。 それでいて常に学年トップグループに入ってるんだから信じられねぇ。本気でやれば美里より上かもしれない。 その証拠に、俺への教え方がやたらとサマになっている(それが全部俺のアタマに入ってるかどうかは別として)。 ちッ、顔良し、頭良し、運動神経良し、そのどれもが特上レベルたぁ、神サマもずりー事するよなぁ…流石『黄龍の器』ってヤツか。 クリスマスは誰か女の子と過ごしたようだが(俺にも教えてくれなかった)、未だにフリーなのが不思議なくらいだ。 龍麻は闘いが終わった今も相変わらず女全般に優しく、こと恋愛に関しては絶対に誰にも本音を洩らさない。 もしかして、誰かに遠慮しているとか…………? 痛みで朦朧としそうな中で何故かふと、そんな疑問が頭を掠めた。 「どれだけ口で言っても分からない京一が悪いんだろ。…ま、掌打くらいじゃつまらないし、どうせなら運動不足を解消したいってのもあるけどさ。本当なら黄龍をかましたいところだけど、俺の家に穴を開けるのは嫌だしなー。」 「……………」 それで吹き飛ばしがない、かつ火事になる心配もない雪蓮掌。やけにそればかり使うと思ったけどやっぱりそんな理由かよ…。 密かに反省してた俺を余所に平然とのたまった龍麻の顔は、あくまで家の方を心配している。 ほんっとーに俺が死ぬのはかまわないんだな、お前。美しき友情に涙が出そうだ。 ……少々性格に難あり、と気付いているのは仲間内できっと俺くらいだろう。 それだけ龍麻に信頼されてると解釈すれば嬉しくない事もないが、専ら被害に遭うのが俺である以上複雑な気分でもある。 考えても無駄なので取り敢えず、痛む身体を何とか励ましながら部屋の角に置いてある袋の所まで這って行った。 中身をごそごそと漁って見つけた地息丹を口に放り込み、ようやくほっと一息つく。 いくら草人形があっても、死ぬ一歩手前の体力しか残ってない状態というのは精神的にもかなり辛い。 まぁ、回復技を持たない俺の為に今となっては使う事もないアイテムをさり気なく残しとく辺りも、こいつらしいと言えばこいつらしいけどな。 龍麻は俺が回復したのをちらりと確認すると、何でもないように炬燵を整えてそこに坐り直し、教科書を広げた。 「…お前が留年したら一番悲しむのは小蒔だからな。男なら期待に応えろ。」 「……………おう。」 ───本当にこいつには敵わない。 今日も叱咤激励と共に夕飯の差し入れにやって来た小蒔の顔が浮かんだ。 そもそも俺は、あいつと一緒に卒業出来なければ男が廃るってんで龍麻に頼み込んだのだ。 普通に高校生やってたなら当たり前の事だが、長い闘いで何度も命を失う危険に晒された俺達にとって、皆無事に卒業する事は東京の平和を護るとはまた別の意味で一番の目標でもあった。 「じゃ、次はこの問題だ。お前のアタマじゃ今日は徹夜だからな、覚悟しろよ。」 「…よっしゃぁッ、望むところだッ!」
あるのは小学生の時から殆ど使った記憶の無い勉強机、パイプハンガーと4段引き出しのタンス、漫画ばっかりの本棚。 脱いだコートや食べかけのスナック菓子の袋もいつものように散らかっている。 大して広くもない部屋だからすぐ横にはベッドがあって。 ふと気配を感じてそっちを見ると、何時から居たのか、そこに小蒔がちょこんと腰掛けて俺を見上げていた。 ベッドの上には卒業証書が入っているらしい筒型の入れ物も2つ、転がっている。 何故か薄暗い部屋の中でもはっきり分かる、やけに潤んだ瞳。 化粧をしてるわけじゃないのにほんのり紅い、形のいい唇。 制服の短いスカートからは素足が眩しいばかりに伸びている。 「一緒に卒業出来て嬉しい……」 小蒔はそう言ってにこりと微笑むと、恥ずかしげに上着のスカーフを解いた………。
「…………………こんの大ボケがぁッ!!秘拳・黄龍─────────ッ!!!」 俺が我に返った時には既にどごぉぉん…と夜明け間近の新宿に大きな音が響いていた。 今度こそ冗談抜きで草人形の世話になったのは言うまでもないだろう。
龍麻「もう、末期だな。ラブラブどころか、小蒔すらまともに出てない。」 京一「……言うな。所詮作者はこれだけのヤツだったんだ。」 龍麻「お前、悟りの境地に入ったな…とても夢であんなコトしかけた男とは思えないぞ。」 京一「うるせぇッ!!こんだけ焦らされたら欲求不満も溜まるわいッ!! しかも、いつもの小蒔の代わりとばかりにお前に殺されかけてるしッ!!」 龍麻「それについては単純に作者のネタが切れたんだろうな。(断言) 一応、次回をシリーズ最終回として【陰】に行きたいとは考えてるらしいよ。 基本は【陽】で出して、その個所だけ抜粋して【陰】に出す形にしたいってさ。」 京一「…どうせ、それも何時になるか分かんねーんだろ。」 龍麻「結構長くなりそうだけら余計にな。気が向いたらまた別の話を出すかもしれないし。」 京一「………………(もはや何も言う気力ナシ)」 ははははは。もう笑って誤魔化すしかないやね。 |