【番外・Xmas love】





 
1224日、クリスマスイブ。時刻は午前1020分。

俺は学校を抜け出して、ここ桜ヶ丘中央病院に来ていた。

今日の午後にようやく退院する(5日で退院出来る方が不思議なんだが)龍麻に退院祝いを、と思ったからだ。

龍麻がいなきゃ、こんなキケンなとこ、絶ッ対に一人で来る訳ねェ。

それでなくてもここは本来産婦人科だ。

病院に入る時の、そして龍麻の個室に入るまでの、周りの視線が痛い事この上ない。

うう…やっぱ俺、そーゆー奴に見られてるんだろーな……イイ男は辛い…ってちょっと違うか。

まぁ今年の春から嫌でも桜ヶ丘に来る機会が多かったから、いいかげん興味本位の視線には慣れてきたけどさ。

それより何よりもここには俺が最も恐れるバケ、いや人物がいるのだ。

高見沢に頼み込んだおかげで何とか会わずに病室に入れた事に、心の底からホッとする。

龍麻は無事だったんだろうか、もしや眠ってる間に…という怖い想像は精神衛生上キツイから止めておこう……。






「さッ、ひーちゃん。誰をデートに誘うんだ?」

 思いつく限り、知り合った女の子の名前を挙げる。

午後まで動けないこいつの代わりに、俺がそのコを呼び出してやるって寸法だ。

ま、龍麻は俺と同じくらいイイ男だから、大抵の女は呼び出しに応じるだろう。

実際、仲間の女の子の何人かは明らかにこいつに気があるようだ。

だが龍麻自身は誰にでも優しい上、肝心な時はポーカーフェイスだから、俺にも誰が本命なのかいまいち分からない。

一番の友人としては興味があるのも当然だろう。

「………やっぱ、いいや。」

 だけど龍麻は少し考えた後、静かに首を振った。

「何だよ、遠慮しないで言ってみろよッ」

「…………………言えない。」

「まさか、オトコの方がいいのかッ!?」

 すかさず掌底・発剄が俺を襲ってきた。髪の毛が何本か犠牲になったが、間一髪、それを避ける。

……冗談の通じねェ奴だ。何の構えもせずに、ベッドに座ったままいきなり放つなよ……。

「チッ、外したか。やっぱ鈍ってるな……」

「お前今、手加減しなかったろ……」

 マジで悔しそうに言う龍麻に、友情とは何なのか考えさせられそうになる。

さっきまでは半信半疑だったけど、取り敢えず体力が回復してるのは確かなようだ。

多少窓際の壁がへこんだがここは無視する事にした。

「で、本命は?」

 ここまで焦らされたら気になって仕方ない。意地でも聞き出してやる。

俺の気迫に気付いたのか、龍麻は諦めたように溜息をついた。

「…………………言っていいのか?」

「ったりめーだろ、俺、応援するからさ!!」

「……………………小蒔、だよ。」

「そっか小蒔か…ってマジかッッ!?」

 小蒔はまずい。絶対まずいッ!!

さっきはうっかり何も考えずにデート候補に名前を挙げちまったが、何を隠そう、小蒔は俺を好きだと言ってくれているのだ。

そして、俺も小蒔を好きで。つい最近、一応両思いという事になった。

ただ、告白してから続けざまに事件が起こったので、付き合ってるのかと訊かれたら疑問が残る。

キスはしたものの、きちんとした(?)デートをした記憶もない。

トモダチの期間が長かったから改めていちゃつくのも照れ臭くて、学校では相変わらず漫才をやらかしているし。

それに東京がヤバイ事になってるのは事実で、いくら俺でもそうそう浮かれていられなかったというのもある。

そりゃ、健康な男子高校生としては身も心も仲良くなりたいのはやまやまだけど…ってそうじゃなくてッ!

「…ぶッ」

 突然の笑い声に我に返る。見ると、龍麻がベッドに突っ伏して必死で笑いを堪えていた。

「きょ、京一のさっきの顔、傑作〜〜!!」

「………てめ、からかったのかッ!!」

「当然だろ、気付いてないとでも思ってたのか?」

「………………」

 …う。そりゃ、まぁ、な。

考えてみれば龍麻はずっと俺達と一緒にいたし、勘も鋭い方だった。

俺も小蒔もお世辞にもポーカーフェイスとは言えないし。

ってまさか、他の奴にもバレバレ!?

「小蒔は俺にとっても、大切な友達だ。泣かしたら黄龍10連発だからな。」

「…おう。」

 やけに優しげに、そして真剣に言う龍麻に、思わずこっちも素直に応えてしまった。 

この口振りは…ひょっとして、龍麻は俺達自身が自分の気持ちに気付く前から、心配していたのかもしれない。

こいつはこういう奴だ。

宿星なんか関係ない。だから、皆、こいつの周りに集まる。

この台詞も、学校では醍醐が隣にいるから今まで言わなかったのだろう。

そういえば醍醐にも同じような事を言われたっけ……。

…それにしても、だ。

「さっきのは、冗談にしてもタチが悪ィぞ………」

「いやなに、ここ数日東京で何があったか知らないが、人が重症で生死の間をさまよっている時に全然見舞いに来ないわ、話題にも出ないわ、すっかり忘れ去られていた主人公クンのささやかな復讐だよ。」 

 うって変わって龍麻の顔が何とも言えない笑顔を作る。

げッ、こいつ目が据わってやがる……なまじ顔がイイ分、はっきり言って、怖い。

「…………………………柊の事件の事かよ………あれは、お前に心配かけまいと………そ、それに忘れてたワケじゃねェぞ!!お前が眠ってた間だって、ちゃんと見舞いに来てるし!!」

 嘘じゃない。実際、こいつが倒れた時は本当に生きた心地がしなかった。

相棒を護れなかった事が悔しくて仕方なかった。

 自信が無くなって小蒔に格好悪いところを見せてしまったが、あいつは自分も辛いのにそんな俺を叱り、励ましてくれた。

それでまたあいつを惚れ直したりもしたのだが。

「ふ〜ん……ま、それでお前達の仲が更に良くなったなら、俺も斬られたかいがあるってもんだよな〜。」

「…………………」

 何故、俺の考えが読めるんだ…っていうか、こいつ、こんな性格だったっけ?

なんか、黒いオーラが見えるんスけど……。

もしかして問答無用で柳生に病院送りにされた事をめちゃくちゃ怒ってて、俺に八つ当たりしてないか?

「まぁ、それは置いといて、と。」

 龍麻が再びにこりと笑った。一瞬、びびってしまう。

「呼び出し、頼みたいんだけど。」

……ようやく本題に戻れた事に、俺は胸を撫で下ろした。






 しかし、甘かった。結局、龍麻が呼び出したのは俺を含む野郎ばかり
10人。

場所は、毎度お馴染み勝手知ったる真神学園旧校舎。

何故か俺達が龍麻の命令に逆らえないのをいい事に、その日の午後には『目指せ100階!!旧校舎巡りクリスマスバージョン(龍麻抜き)』が決行された(女の子を呼ばなかった事については「俺、フェミニストだから」の一言で片付けられた)。

………完ッ全に八つ当たり&嫌がらせだッ!!

本人は訓練の為、とか言いやがったが、なにも今日やらなくてもいいだろーがッ!!

自分の知らない間に事件が起きて、解決して、除け者にされたのがそんなに悔しいのかッ!? 

 因みに龍麻はその間どうしたかというと、自分の携帯で本命の女の子を呼び出してしっかりデートを堪能したらしい。

 俺も他の9人の総攻撃に遭いながらも、隙を見て何とか奇跡的に途中でフケるのに成功したが(俺だってクリスマスくらい好きな女と過ごしたいわいッ)、あいつの真の怖さを知ったような気がする。

 …………これから極力、あいつを怒らせないように気を付けよう…………。





同時投稿なのでこっちは座談会なし。
ずっとクサイ話ばっかりだったんでギャグを書きたかったんですよ〜。
退魔陣であまりにもひーちゃんが無視されていたのでせめてここでは…なんて思ったり。
符咒の発売された今となっては、どっちもどっちって感じですが(苦笑)。