【another love】 こん、という小さな音に俺は目を覚ました。 自分の部屋の窓ガラスに何かが当たった音。 掛け布団に包まったまま枕元の時計を見ると、朝の6時半を少し過ぎたところだった。 真冬である今、カーテン越しに見える外はまだ薄暗い。丁度日が昇り始めた頃か。 自慢じゃないが、俺の数多い特技の一つには『授業中の教室で爆睡する事』というのがある。 普通ならこれくらいの音でこんな時間に目を覚ましたりはしねぇ。 それでなくても今日は日曜日、昼まで寝るつもりで昨夜は思いっきり夜更かしをしている。 だけど微かに感じるこの気配は。 ベッドから降りて窓に駆け寄る。カーテンを開け、階下の門の方を見た。 ……やっぱりそうだ。 俺は大急ぎで寝巻き代わりのTシャツとジャージの上にその辺に脱ぎ捨ててあったコートをひっかけると天叢雲の入った竹刀袋を掴み、まだ寝ている家族を起こさないように部屋を飛び出した。
そして、住宅街のまだ人通りのない薄暗い道では街灯の明かりが俺のよく知る人物を浮き上がらせていた。 「小蒔ッ!どうしたんだよ、こんな時間に!?」 「あ、おはよ、京一。」 小蒔は何でもないように明るく挨拶して来た。吐き出す息が白い。もちろんパジャマなんかではなく、黒いジーパンにセーター、ベージュのダッフルコート、マフラーという動き易さに重点を置いた格好だ。 家からここまで乗って来たらしい赤い自転車には愛用の弓が乗せられている。 これでガラスを割らないように先を細工した矢を放ったのだろう。 「おはよ、じゃねーよッ!なんかあったのか!?」 こんな時間に会う約束はしていない。遊びに誘いに来たにしても時間が早過ぎる。 東京の龍脈を巡る闘いは今月の始めに全て決着が着いた筈だが、もしかして残党でも残っていたのか。 小蒔は俺の言いたい事が分かったのだろう、少し困ったように微笑んだ。 「ううん、そうじゃないんだけど…」 「じゃ…」 言いかけた言葉がふいに途切れる。 小蒔が急に近寄ってきて背伸びしたかと思うと、唇に柔らかな感触だけが残った。 「18歳の誕生日、おめでとッ!へへッ、一番に言いたくて、来ちゃった。」 ────そういえば今日は1月24日か。すっかり忘れていた。 非常事態でない事にほっとすると同時に、たかがキスに今更ながら照れくさくなる。 「……………………馬鹿か、お前。」 「ふーんだ、キミに言われたくないねッ」 いつもの軽口を叩きながらも、胸が熱くなるのが分かった。 余程一番に言いたかったのか、例え早朝だろうと思い立ったら即実行、というのが小蒔らしい。 キスも今まで何度か交わしてはいたものの、それはいつも俺の方からの不意打ち的なもので。 小蒔からしてきたのはこれが初めてだった。男に全く免疫のない小蒔にとっては結構勇気が必要だったかもしれない。 そう思うと、たったそれだけの事が妙に嬉しい。 (真神一のイイ男も情けねぇなぁ……) 密かに苦笑してしまう。一年前の俺が今の俺を見たら大笑いするに違いない。 腕を伸ばし、照れたようにそっぽを向いていた小蒔をぎゅっと抱き寄せた。 「………サンキュー………」 我ながらもっと気の利いた言葉はないのか、と思わないでもないが他にどう言ったらいいか分からない。 小蒔は俺の腕の中で小さく笑ったようだった。こうしていると小蒔の髪のシャンプーの香りがくすぐったい。 厚手のコート越しに、お互いの体温を感じる。 「こんなに冷えちまってるじゃねェか。大体お前、この前風邪で寝込んだばっかだろ。」 「…もう平気だってば。」 つい、悪戯心が湧いて出た。半分は本心、半分は照れ隠しの冗談。 「今度こそ俺が温めてやろうか?誕生日プレゼントに最適だと思うぜ。」 「………朝っぱらから何言ってるんだよッ!!」 顔を真っ赤にした小蒔が振り上げた右手を笑って軽く掴んでやった。 そう毎回、弓やら鉄拳やら食らっていてはいくら俺でも身が保たない。 もっともこいつが本当に本気で<力>を使ってきたら俺も無傷で避けるのは難しいけどな。 実際、この前小蒔の見舞いに行った時も悪ノリしたせいで奥義・鬼哭飛燕を射程外だったにも関わらずまともに受け、多大なダメージを被っている(家が火事にならないように火属性の技を使わない辺り、流石と言うべきか…)。
今度は俺の方から顔を寄せる。小蒔はほんの少し戸惑った後、静かに眼を閉じた。 お互いの唇が重なる。相手の存在を確かめるように。この瞬間が永遠であるように。 ようやく顔を出した朝陽が、俺達を祝福するかのように優しく照らし出した。
京一「だぁぁぁ────ッッッ!!納得いかねぇぇぇ──────ッッッ!!!」 小蒔「わッ、ビックリしたッ!どうしたんだよ、京一!?」 京一「何なんだこの中途半端な終わり方はぁッ!! そもそも次に俺らの話出す時は陰=18禁って言ってたのはどうなったんだッ!! いくらこいつに色気がないからって、一向にヤる気配がな……」 奥義・九龍烈火炸裂。京一に358のダメージ。 小蒔「色気がなくて悪かったねッ!!んな事大声で叫ぶな馬鹿ッ!!(赤面)」 京一「…でもよぉ、俺ら確か、第拾八話がきっかけでくっ付いた設定だったよなー。 それから今までキスだけって……それにあの思考回路……絶対俺が俺じゃねぇ……。 この話の後も、ただ二人で遊びに行っただけでなーんもコトは無かったし……(泣)」 小蒔「あ、そういえばこの話、最初ボクは夜中の12時にお祝いを言いに来てたんだって。 でもそれじゃ絶対無事じゃ済まないだろうからって急遽朝に変えたらしいよ。」 京一「…ちッ惜しかった…」 小蒔「…ボク、どうしてこんな奴を選んだのか自分でも分からないよ…」 京一「と、とにかく、何で作者は書けもしないのに次は陰なんてほざいたんだ?」 小蒔「単に普通のラブラブのネタが思いつかなかったんだよ。 だからこのシリーズそのものを前の時点で終了させるつもりだったんだって。 幸いあんなのでも続きを待つと言ってくれた人がいて続ける事にしたけどね(単純)。 でもやっぱりネタは無くて、もう一度ボク達を友達に戻すか、いっそ陰かって事に。 結局どっちも出来なくて中途半端になったって泣いてたなぁ。 こんなのでも何日もかけて書き直ししてたし。ほんと、進歩ないよねー。」 京一「友達はともかく、だから何で陰が出来ないんだよ。」 小蒔「うーん、ネタと文章力不足なのが最大の理由なんだけど、やっぱそれ以外に……」 京一「そっか俺ら二人って、思いっきりマイナーな組み合わせだもんなぁ…。 今更って気もするけど、それで周りの反響が怖かったってのもある、か。」 小蒔「うん。ボクも京一も恋愛相手にはひーちゃんが多いよね。」 京一「……その言い方止めろって。なんか俺がヘンな趣味持ってるみてぇじゃねーか……」 小蒔「京一の場合、ひーちゃんが男だろうと女だろうと節操が無いのは事実だろ。」 京一「う……だがッ、今ここに居る俺は、誰が何と言おうと小蒔に惚れているッ!!」 小蒔「…京一…(ちょっと感動)、でも、ボク達の次の話が出るとしても陽なのは確実だからね。」 京一「……………(涙)」
やっぱ誕生日ネタは外せないという事で。 |