【これも愛?】 「…なァ、ひーちゃん。」 ズバ! 「なに、京一。」 ドカ! 「…今日、何日か知ってるか?」 ズシャッ! 「1999年1月24日、日曜日。」 バキィッ! 「…じゃ、何の日か知ってるか?」 ドシャァッ!! 「京一の18歳の誕生日。…っとこれで終わり!!」 ドゴォォォンッ!!!
それを確認するとパンパンと掌を叩き、ゆっくりと俺の方を振り返る。 白いセーラー服がやけに眩しい。 「それが?」 「……………何で今、俺達はここに居るんだ?」 伏姫の刀を軽く振って付着した血糊を払い落としながら、俺は随分前から思っていた疑問を恋人(…だよな、一応…)にぶつけた。 そう。俺達は何故か、二人だけで旧校舎に居る。現在地下35階。当然1階からノンストップで、だ。 敵のレベル的には今の俺達にはたいした事ないが、流石に二人じゃキツイものがある。 俺の刀にもひーちゃんが装備している黄龍甲にも祝福の効果があるとはいえ、下手をしたら囲まれてお終いだ。 「京一が私に付き合ってくれるって言ったから。」 「そりゃまぁ、言ったけどよ…」 俺は大きく溜息をついた。 ───いきなり、携帯で呼び出されて。 だって、普通そうだろ? 今月の始めに全ての闘いが終わったのを機にやっとの思いで告白して、OK貰って。 晴れて恋人同士になったのはいいが、全然今までと変わらないひーちゃんの態度に俺は正直あせりを感じ始めていた。 何しろカラダはおろか、キスすら許そうとしねェんだから。抱き寄せようものならあっという間に吹き飛ばされちまう。 それによって、ひーちゃんがその外見と口調に反して異様に照れ屋で奥手だと改めて認識させられたわけだが、俺がこいつを想う程、こいつは俺を好きじゃないのかと不安になっていたのも事実だ。 おまけにこいつは他の野郎共にも密かにめちゃくちゃモテているから、余計に心配だったりする。 それが、自分の誕生日(さっきの会話からいって、やっぱりひーちゃんも覚えていたらしい。前に訊かれた事があるからな)に「どうしても遭いたい…」なんて誘われて、これでやっとカラダとまではいかなくても念願が叶うかも、と男なら思わない筈がない。 別に、いい年して誕生日が嬉しいとか、だから何か欲しいとか、そーゆー事を言ってるんじゃねェんだけどよ。 やっぱ好きな奴と一緒に過ごして、ささやかながら祝って欲しいって気持ちがあるじゃねーか。 なのに、現実はこうだ。確かに一緒には居るが、全てが終わった今、何が哀しくて今日この日にこんなとこで化物相手に汗を流さにゃならねーんだか。闘うのが嫌いなわけじゃねェ。むしろ好きな方だとは思うが、どうせ恋人と過ごすならもっと他の場所があると思うのは間違っちゃいねーよな、うん。 …いくら俺でも、二人っきりだからってこんなムードのないとこ(それ以前の問題もあるが)で押し倒す程、馬鹿じゃねェぞ。 いや、そんな事したらこいつに殺されそうってのは置いといても。 つーか、なんだかんだ言ってこいつの頼みを絶対に断れない自分が情けねェ…。
「う………」 ひーちゃん…そんなあからさまに言うなよ…身も蓋もねェじゃねーか…。 その気もないくせに相変わらず口だけは達者なんだよな、こいつって。それがこいつ流の照れ隠しだと分かっちゃいるんだけどよ。 「…京一ってほんと、お約束だよね…」 「悪かったなッ!!」 どーせ俺は単純だよ、スケベだよッ!ひーちゃんの性格が分かっていてもそう思っちまうんだから仕方ねェだろ!! 大体、ひーちゃんみたいな可愛い娘が横に居て、そう思わない方がおかしいじゃねーかッ!! 「さ、もう少し潜ろっかな。」 あ。無視しやがった。そう来たか。げ、もうさっさと次の階への階段を降りてるし。 って事は少なくともあと5階は潜るって事かよ!? 「だから、何で今になってんな事するんだよ────ッ!?」 俺の叫びが虚しく薄暗い地下に響いた。
俺達が旧校舎を脱出した時には、既に外は真っ暗になっていた。 入った時には部活に精を出す物好きな奴らもちらほら見えたが、当然今は人っ子一人見えやしねェ。 「っくしょいッ!」 校舎から出た途端に真冬の寒風が汗を吸った制服に凍み、派手なくしゃみをしてしまう。 ライトで照らされた校庭の時計を見て驚いた。もうすぐ8時になるところだ。…どーりで腹が減ったと思ったぜ。 最後の方にはひーちゃんにつられて俺もムキになって鬼共を倒しまくっていたから、すっかり時間を忘れていた。 うう、早いトコ切り上げてどっか遊びに誘おうと思ってたのに、今からじゃろくに遊びにも行けねェじゃねーか。 ひーちゃんって一人暮しのくせに例によって古風なとこがあって、夜遊びに誘っても乗ってきた試しがねェんだよな。 マンションに遊びに行っても、夜8時には追い出されちまうし。おかげでチャンスがねェ…じゃなくて、無理強いして嫌われたくねェしな。 「仕方ねェ、せめてラーメンでも食って帰ろう…って、ひーちゃん!?」 ふと見るとすぐ後ろを歩いていた筈の人物がいつの間にやら消えていた。 慌てて周りを見渡しても真っ暗な校庭にその姿は見えない。 と。 ひゅん、と鋭い風を切る音がして何やら細いモノが暗がりの中から俺に向かって飛んで来た。 「うおッ!?」 とっさに空いていた右手でそれを掴み、反動でそのまま振り下ろす。 途端、俺の中で何かが吹きぬけていくような感覚がして10メートル程離れた場所に建っていたプレハブの物置が派手な音を立ててへこんだ。 「…これは…」 改めて手の中のそれを見てやっと俺は理解した。 何で、今日呼び出されたのかを。旧校舎に潜る必要があったのかを。 「遅くなったけど、誕生日おめでとう。」 案の定、さっきコレが飛んで来た方向──校舎の裏の植え込みの方からひーちゃんが微笑みを浮かべて近付いて来た。 俺と待ち合わせする前にそこに隠していたらしい。 ───阿修羅。この世に存在する、最高の得物。莫大な《力》を秘めたその木刀を使いこなすには相当な経験を要する。少し前に如月の店で見かけた時には俺に扱えなかったものだ。それが今、こうして俺の手に違和感なく馴染んでいる。その理由は一つしかねェ。 「ひーちゃん…」 「やっぱ、一番京一にぴったりなモノをプレゼントしたかったんだ。」 京一は私の一番大切な人だから、と電灯の僅かな明かりの中でひーちゃんが笑う。 ───気が付いたら俺は彼女を思いっきり抱きしめていた。 「…有難う、な。」 言いたい事は一杯あるのに、結局ありきたりの言葉しか出ない。 少しでもひーちゃんの気持ちを疑った自分が許せなかった。 去年の4月に出会ってから、ずっと一緒に居たのに。こいつは俺の事を誰よりも理解してくれていたのに。 なんだか頭の中がごちゃごちゃになって、だだこいつを抱きしめる事しかできなかった。 甘い香りが鼻をくすぐる。あんなに強いのに、こうしていると壊れてしまいそうなくらい儚げな感じがした。 「…今日は抵抗しないんだな。」 「うん。…あったかい。」 俺の腕の中で照れたように言うこいつが本当に大切で。 俺はそのまま長い間、寒空の下でこいつを抱きしめていた。 そして───静かに初めてのキスを交わした。
「当然。」 王華でラーメンを食った後、マンションの彼女の部屋まで送った俺に、ひーちゃんは艶やかに笑って断言してくれた。 …頼むからその、いつでも黄龍を放てる構えは止めてくれ。そんなに俺って危険人物なのか? いや、完全に否定できないとこが辛いけど。この分だとマジで結婚するまでお預けくらいそうだ(泣)。 「…そういやさっき気付いたんだけどよ。俺、倒数200までこの前如月んとこ行った時点で確か残り40くらいだったよな…今日あんなに潜る必要あったか?」 「…バレたか。だって、阿修羅って高いんだもん。翡翠は全然まけてくれないし。ついでだからちょっとは稼いでモトを取りたいなー、なんて。一人暮しって何かと物入りなんだー。」 「……………」 「じゃ、そーゆー事で。…お休みー。」 俺の頬に軽くひーちゃんの唇が触れて。 ばたん、と扉が目の前で閉まって、ようやく俺は我に返ったのだった。
でも、ま、そんなこいつが好きなんだから仕方ねェか。
いろいろあったが、俺達は揃って日本を旅立った。 因みに飛行機に乗って彼女が最初に言った言葉は「やっぱ阿修羅にして良かったー。銃刀法違反の共犯で捕まりたくなかったし。」だった。 …いいけどな、別に。 なんとなく予想できた俺も、こいつに染まってきたって事かもしれねェ。 ────俺達の左の薬指には、銀の指輪が光っている。
京一「…またかよ…」 作者「何が?」 京一「誕生日記念はいいが、どうして俺は損な役割ばっかなんだ───ッ!!」 作者「そうか?お前、絶対私に贔屓されてるぞ。現に他の奴ら、名前すら出てないし。」 京一「それとこれとは別だ!!今度こそひーちゃんと【陰】に行けるかと思ったのに!!」 作者「結局そこかい!!遥か昔の京×小の時と進歩してないなお前……。 まぁ、どの『ひーちゃん』も無理っぽいからな、諦めといた方がいいんじゃない。」 京一「元凶が何言ってやがる!!麻弥も冬子(仮)も、この名前のない『ひーちゃん』も、 何でてめェの出す女主人公はいっつもこうなんだッ!!」 作者「そりゃ、私がシャイな乙女だからそれに反映されて…」 京一「いい年して寝言ほざいてんじゃねェ!!天地無双ォォォ!!!」 作者「作者に喧嘩を売るとはいい度胸だな、黄ノ力ッ!!!(←おいッ)」 京一「ぎゃ───────ッ!!!」 やってしまいました、誰もが一度は突っ込みたい銃刀法違反ネタ(笑)。 |