【一番の日?】





「…まったく、大したもんだよ。」

 ここは新宿桜ヶ丘中央病院。

ベッドに上半身を起こしたあたしに聴診器を当てていた岩山先生が、感心したように溜息をついた。

「皆が皆、あんたのように丈夫だったら医者は商売上がったりだね。」

「あはは…あたしもそう思います。」

 言われたあたしとしては笑うしかない。

自分でも異常だと、思う。

ふと目線を下げるとはだけた胸元に袈裟懸けに走った赤い傷跡が映った。

───覚えてないけど、あたしは何日も前から意識不明の重態だったらしい。

《凶星の者》とかいう奴にいきなり斬り付けられたのだ。

あの時は何がなんだか分からなくて。

気がつけば目の前が真っ暗になっていた。

普通なら絶対助からない程の大怪我。

それでも助かったのは───この病院の特殊な治療のおかげもあるけど、それ以上にあたし…《緋勇 麻稚》という人間が、《黄龍の器》といかいうモノだからなのだろう。

だからこそ狙われ。

だからこそ助かった。

あたしの視線に気が付いた先生が眉をしかめる。

「辛いだろうが傷跡は我慢するんだね。数ヶ月もすれば多少は薄くなるだろうが、ここまで来るとわしの力でも完全に消す事はできん。命があるだけ奇跡だよ。」

「…はい。」

 不思議と、先生が申し訳なさそうに言う程失望はしなかった。

あたしは…普通じゃないから。

今更もうひとつやふたつ、他の人と違うところができたって同じだ。

…あたしの《力》が仲間の皆より、特に強いという事に気付いたのは何時の事だったろう。

今まではそれにさして疑問も持たず、どうせ闘うなら強い方が都合がいいくらいにしか思わなかったけど。

今度の事でようやくその理由がはっきりして、妙にすっきりした自分がいた。

…それにまぁ、別に見せる予定のヒトがいる訳じゃなし。

 と。

思わず苦笑を浮かべるあたしの耳に、バタンと乱暴に病室の扉が開く音と聞き慣れた声が飛び込む。




「よォ麻稚、目が覚めたんだって───」



「……………」

「……………」






────数秒後、世間的には一介の産婦人科であるはずの病院に何故か爆音と断末魔が響いたのだった。










「ダーリンが元気になって舞子、嬉しい〜。じゃあ〜私はお仕事があるから〜。」 

「ちょ、ちょっと待ってよ舞ちゃ…」

「あ〜そうだ京一クン、もうダーリンに悪戯しちゃダメだよ〜。」

「誰がだ誰がッ!! 人聞きの悪ィ言い方すんじゃねェ!!」

 パタン。

瀕死の怪我人を《力》で癒したピンクの白衣の天使が病室を出て行く。

そして残されたのはベッドの上でしっかりと病院支給の寝巻きの前を掻き合わせたあたしと───元、瀕死の怪我人である蓬莱寺 京一。

「……………」

「……………」

 う…なんか沈黙が気まずい。

顔が火照ってしまって、こいつの顔をまともに見れない。

因みに岩山先生も「それだけ元気なら充分だ。身の回りを整理して午後には退院しろ、でないと病院の結界がもたん。」と呆れたように言ってさっさと他の患者さんの所に行ってしまっている。

どうやらこの病室が崩壊を免れたのはあたしが鈍っていたというよりここの結界の貢献によるものらしい。

退院の許可が出たのは嬉しいけどエロ猿にトドメを刺せなかったのは残念だ。

「…ったくワザとじゃねェっての。見て減るもんじゃなし…あ、減る程なかったか。」

「なぁんですってぇ!?」

 ぶんっ。がしゃん。

瞬間、今度はベッドの足元に置いてあったパイプ椅子が宙を飛び、それを京一が木刀で叩き落とす。

「…お前、ほんっとーに女じゃねーな。」

「もう一度死にたいの!?」

 ああもう、本当に何しに来たのよこの男は!!

やっと正面から見た京一の顔はいつもと全く同じで飄々としてて。

あたしばっかり意識してるみたいで悔しい。

ていうか今はまだ午前中、普通だったら学校にいる時間でしょーがこのサボり魔!!

 と。

ぽん、とあたしの膝に小さく折り畳んだメモらしきものが放り投げられた。

「…何これ。」

「今日、何の日だと思ってんだよ。」

「さぁ?」

「…あのなぁ、曲がりなりにも現役高校生ならクリスマス・イブくらい覚えとけ。」

「う…大きなお世話よ!」

 そうなんだ…今日はクリスマスだったんだ。

ここ数日寝ていたとはいえ、本気で忘れていた。

当然、今も白い病室の窓からは街の景色なんて見えないし。

言い返しながらつくづく自分が非現実的な世界にいるのを思い知ってしまう。

 クリスマス・イブ。

普通のジョシコウセイなら何日も前から準備したりして心を躍らせているであろう、年に一度の大イベントなんだろうなぁ…どうせあたしには無縁だけどさ。

「…で? それとこれがどういう関係なワケ?」

 ぺりぺりとメモを開きつつ問う。

「だからさ、退院祝いにそこに書いてある奴を呼び出してやるってんだよ。お前の事だ、どうせ高校生活最後のクリスマスにデートの予定もないんだろ?」

「………それこそ大きなお世話ってのよ。」

 あっけらかんと言い放つ京一の言葉にちくり、と胸が痛む。

実際あたしは京一の指摘通り、デートの予定も何もない。

改めて考えてみれば大切な《仲間》はいっぱいいるけど、特別な日に二人っきりでデートするような男の人はあたしにはいなかった。

この春からずっと闘いに明け暮れていてレンアイなんてしてる余裕、全然なかったから。

…まぁ、この世に生を受けて18年。今までそういう人に巡り会えなかったんで、今年に限った話じゃないのが哀しいとこなんだけどさ。

京一はこれでもあたしの『相棒』。

何でもお見通しって訳か。

……………。

なんかムカついてきた。

そっちが望むならやってやろーじゃないの。

誰をあたしの為に呼び出してくれるっての? 

呼び出すだけ呼び出して相手にゴメンナサイされちゃったら代わりに京一をもう一度三途の川に案内してやる。

密かに心の中で決意しつつ、ぺり、と最後の折り目を開く。



   『俺』

それはただ一つの文字。

白い紙には乱暴に書き殴られたそれ以外、何も書かれていない。



「……………馬鹿?」

 紙を見つめたまま、思わず呟く。

「煩ェ!! 仕方ねーだろ、他の奴らには今日は予定があるからって尽く先に言われちまったんだからッ!! ったく友達がいのねェ奴ばかりだぜ!!」

「……………」

 顔を上げるとベッドサイドに立つ京一の顔が少し赤く見える。

これは照明のせい…だろうか。

「でもまぁ、退院祝いしてやりてェのはホントだから…別に嫌ならいいんだぜ。」

 金欠だからラーメンぐらいしか奢れねェけどなッ、とそっぽを向きながら言う京一。

「……………」

「……………」

………ほんと、馬鹿みたいにお人好しなんだからこいつは。




「…仕方ない、それじゃ寂しい独り者に付き合ってあげるとするか。」

「てめッ、それはこっちの台詞だ!! 俺だってなぁ、できるものならぺチャパイよりナイスバディのおネェちゃんと…」

「…やっぱ、先に死んで?」





───クリスマス・イブといえば恋人とロマンチックに過ごすのが最高なんだろうけど。

中にはこんなクリスマスがあってもいいのかもしれない。

病院内で再び容赦のないバトルを繰り広げながら。

あたしはなんとなく、そう思った。










 けど。

「…にしたっていいかげん、限度があるってもんよね…」

 それから数時間後。

あたしは何故か新宿の路地裏に一人、突っ立っていた。

ぱんぱんと掌を叩き、コートについた砂埃を掃う。

───その前には不良A、Bとでも表記されるような男達が数人うめいている。

言うまでもなくあたしがノした奴らだ。それも一人で。

 勿論、いくらあたしでも好きで喧嘩を売り歩いている訳じゃない。

本日の夕方、桜ヶ丘を無事追い出さ…退院して。

なんだかんだ言いつつ放課後本当に迎えに来た京一共々、クリスマス一色に染まった新宿の街を冷やかしながらぶらぶらと歩いていたのだ、最初は(因みに今のあたしは血塗れで使い物にならなくなったセーラー服ではなく、退院前に舞ちゃんがあたしのマンションに取りに行ってくれた私服…セーターに膝丈スカート、コート姿だ)。

 なのに京一の奴が野暮用とかで席を外した途端にコレ。

ショッピング街の一角でいきなりちょっと待ってろと言われ、あたし一人になったところでタイミング良く女の子がいかにもそれ系な奴らに絡まれているのに出会って。

それで見て見ぬ振りなんかできる筈もないし、病み上がりにも関わらず売り言葉に買い言葉で本当に片付けてしまった辺り(いつものようにスカートの下にスパッツを履いてなかった分、ちょっと手間取ってしまったけど)、つくづくあたしって普通のジョシコウセイじゃない。

「この女、化け物だ!」

 捨て台詞を吐きつつふらふらと逃げて行く男達とお礼を言って去って行く女の子をぼんやりと見送りながら、自然と溜息が出る。






(化け物、か…)

 分かっていたつもりだったけど面と向かって言われると少し、キたかもしれない。

───別に『ロマンチックなクリスマス・イブ』なんてものを期待してた訳じゃない。

京一と一緒という時点でそんなの期待する方が間違ってるし、あたしだってそんなつもりは毛頭ない。

あたし達の関係は午前中のやりとりからも一目瞭然。

京一はあたしの『恋人』じゃない。

いつも他愛ない事で喧嘩している『悪友』で、背中を預ける『相棒』。

…以前、不可抗力(?)でキスした事はあったけど。

それから何が変わった訳でもなく、あたし達は相変わらずだった。

舞ちゃんの様子からして、周りの方がヘンにあたし達の仲を誤解していると言ってもいい。

…あたしにとってはファーストキスでも、女好きの京一にとってはあんなのは全然数の内に入らないんだろう。

でも。

ちょっと…ほんのちょっとだけ。

今日はクリスマスだから。

いつもと違う自分になれるかも、なんて一瞬でも思ってしまったのがそもそもの間違いなのだろうか。 









 その時。

「…麻稚ッ!」

 女の子が見えなくなったのと入れ違いになるようにしてバタバタと人が走り寄る足音に振り返ると、その『相棒』が息を切らせて近付いてくるところだった。

しまった、面倒を極力避ける為に人目のない場所に移動した分、京一と別れたとこから離れちゃったんだっけ。

げ、あの顔はなんかめちゃくちゃ怒ってる!?

「ごめん京一、探した───」

「こ…ッの馬鹿野郎!! 何考えてんだてめェ!!」

 ムカ。

「ちょっと動いたくらいでそんなに怒鳴らないでもいいじゃないッ!」

 大体、誘っておきながら女の子をほったらかしにしたのは誰だってのよ。

そりゃこんなとこまで探させたあたしも悪いとは思うけどさ。

反射的に反論しようとして。

「そうじゃねェ!!」

 びく。

思いがけず大きな声と真剣な眼にあたしは一瞬言葉を失ってしまった。

固まってしまったあたしの右手首をぐい、と京一が掴む。

…そこにはさっきのバトルでうっかり付けてしまったらしい、あたしでさえ気付かなかった小さな掠り傷があって。

それを目にした京一の眼が、益々険しくなる。




───今まで見た事がない。こんな京一は。

あたしの前ではいつもおちゃらけていて。

スケベで。馬鹿やってて。

今日の朝、顔を合わせた時だって心配そうな顔ひとつしなかったのに。





「…もう二度と。あんな思い、させんな馬鹿野郎…」





気が付けば───あたしは京一の腕の中に、いた。





 まるで…あたしがこのまま消えてしまうかのように。

あたしの存在を確かめようとするかのように。

見た目よりもずっと逞しい京一の腕がぎゅっとあたしを抱き締める。

時間にすればほんの数秒だったかもしれない。

コート越しに感じる京一の体温が、ひどく懐かしくて。

暖かくて。

───あたしはなんだか、泣きそうになった。





 あたしは全然普通じゃないけど。

化け物、なんて言われちゃう女の子だけど。

こんな風にあたしを心配してくれる人がいる。

こんなあたしを必要としてくれる人がいる。





 京一が行方不明になった時の事が脳裏に浮かんだ。

あの時は凄く不安で。

京一があたしの前から永遠にいなくなるんじゃないかって。

皆の前ではカッコつけて平気な振りをしてたけど、怖くて怖くて堪らなかった。

京一があたしにとってどれだけ大きな位置を占めていたのか、思い知らされた。

それはひょっとしたらあたしだけなのかと思っていたけど。




「ごめん……あたしはもう、何処にも行かないから……」






───あたしだけじゃ、なかったんだ。










 パパ────ン。

その時突然、街の雑踏に混じって何処からか派手なクラクションの音が響いた。

「…なんてなッ。お前は殺したって死なねェ奴だったな。」

「………ほんッッとに大きなお世話よ、馬鹿ッ!」

 ぱっ。

我に返ったように京一が腕を離し、慌ててあたしもそこから離れる。

………うわ、今になって顔が赤くなってきた。

心臓が別の生き物みたいにドキドキ言ってる。

恐る恐る京一を見上げると、いつも飄々としているこいつも珍しく顔を真っ赤にしていて。

 そして。

思い出したように制服のズボンのポケットに手を突っ込むと、京一はあたしの目の前に掌の半分くらいの小さな箱を勢い良く差し出した。

「…?」

「クリスマスにプレゼントくらいなかったら寂しいだろ。今買ったんでろくに選ぶ時間もなかったけどよ。」

 もしかしてさっき京一の言ってた野暮用ってこれだったのか。

予想外の事に思わず問い返してしまう。

「…あたしに?」

「ココに他に誰がいるってんだ。先に言っとくけど安物だからな、期待すんなよッ!」

「………開けてもいい?」

「…おう。」

 受け取った箱は緑の包装紙と赤い細いリボンで包まれていて。

逸る気持ちを抑えて丁寧にそれをはがすと…そこにあったのは小さなシルバーの十字架のついた、イヤリングだった。 

 いつもいつもあたしの事を女じゃない、とか。

凶暴だのガサツだの、言いたい放題してくれるのに。

言葉のないあたしを余所に、京一の無骨な指がイヤリングを摘み上げ、あたしのボブカットの髪を梳くようにして耳朶に触れた。

どきん、と一層強く胸が鳴る。

為されるままじっとしているとやがて耳元にごく軽い重みを感じた。





「ま、今日くらいはな。…似合ってるぜ。」

「…ありがと…」

 どうしよう。

凄く、嬉しい。

感じた事のない気持ちが溢れそうになる。





「「────あ…」」





 ふと。

暗い空から何かが降ってきているのに二人同時に気が付いた。

ひらひら。

ひらひら。

白い天使が、京一とあたしの肩に舞い降りる。





「ホワイトクリスマス、か…」

「…うん…」





───敬謙なキリスト教徒でもない。

商魂逞しい日本の企業に踊らされているような気もしないでもない。

だけどもしかしたら本当に。

クリスマスは特別な日、なのかもしれない。

意地っ張りの女の子が素直になれる。

そんな魔法が掛かっているのだろうか。





 街のざわめきがなんだか凄く遠くから聞こえてくる。

静かに降り注ぐ雪の中で、路地裏に微かに差し込むイルミネーションが京一の端正な横顔を照らしていて。





───やがてごく自然に京一の手が、あたしの頬を包むようにして触れた。

ゆっくりと…再び二人の距離が縮まる。










「…ぇっくしょいッ!!」

「うわッ!?」

 が。

一瞬あたし達の間に流れた不思議な空気は、あっという間に吹き飛ばされた。

「やだッ、唾が飛んだじゃないッ!」

「出ちまったもんはしゃーねェだろッ!」

 そういえばこいつ、この寒いのに学ラン1枚でコートひとつ着てなかったっけ。

しかも腕まくり。見てるこっちの方が寒い。

………本気で馬鹿かもしれない。

あたしは苦笑混じりに溜息をつくと、くるりと背を向けて大通りの方へ向かって歩き出した。

そしてまだ後ろで突っ立っている相棒に向かって振り返る。

「───行こ。寒いし、お腹空いちゃった。」

「あん? …王華はそっちじゃねーだろ。」

 剥き出しの腕を擦りながら怪訝そうに京一が言う。

そんなのあたしだって分かってる。

というか本気でクリスマスにラーメン食べるつもりだったのかあんたは。

確かに王華のラーメンは美味しいしあたしも好きなんだけど。




「コレのお礼。……あたしが夕御飯、作ったげる。」

 あたしはマンションの方向を指差しながら笑顔で提案してみせた。 





 こう見えてもあたしは料理は好きだ。

葵みたいにお菓子を作ったりする事はあまりないけど、家庭料理と呼ばれるものは大抵作れる。

薄暗い灯かりの下で京一が目を丸くしたのが気配で分かった。

───実を言うと夜に…男の子を自分の家に誘った事は、今までない。

それは『相棒』の京一とて同じだ。

葵や小蒔、舞ちゃん達女の子はたまに泊りに来てくれるけど余程の事がない限り、夜間男子禁制。

昼間はいいにしても夜になれば問答無用で追い出す。それが暗黙のルールになっていた。

勿論皆を信頼してない訳じゃないし、何よりあたしが相手じゃ何か問題が起こるとも思えないけど、養父母に無理を言って一人暮しさせて貰ってる身としてはケジメはつけたかったから。

でも、今日は。




「…いいのか?」

「深い意味はないからねッ。長い間家に帰れなかったから、賞味期限が切れる前に冷蔵庫の中を片付けたいだけなんだから。」

「………食えるのか?」

「嫌なら食うなッ!!」

「イエイエ、有り難く頂かせて貰いマス。」

「よし。残したらタダじゃおかないわよ。」






───今日くらい、いいよね?

あたしは少し赤い顔を見られないように、急いで京一の腕を引っ張ったのだった。





今日は…特別だから。

しゃりん、と耳元でイヤリングが鳴った。












 因みに。

結局、あたしが腕を振るう機会は今回はお預けとなった。

何故なら誰もいない筈のマンションに着いた途端、「メリークリスマス!! 退院おめでとう!!」という大勢の声と賑やかなクラッカー音に迎えられたからだ。

呆気にとられて立ち尽くすあたしと京一の目の前に広がるのはツリーやら色とりどりの折り紙で作られた輪っかやらで飾られた、明るくて暖かい部屋。

お決まりのチキンから始まって、手作りらしいさまざまな種類の料理が並べられたテーブル。

ジュースに混じってシャンペン、カクテル、ビールなんかもあって。

───葵、小蒔、マリィ、亜里沙、舞ちゃん、雪乃、ヒナ、ミサちゃん、ピンクにさやかちゃん、芙蓉まで…《仲間》の女の子達が、あたしを驚かせようと画策していたのだ。

あたしが退院するとの知らせが伝わり、舞ちゃんがあたしの服を取りに行くのにマンションの鍵を預けたのをこれ幸いと計画したらしい。

京一が言ってた、「皆予定がある」という話はこの為に口裏を合わせられていた訳で。

葵曰く男性陣も参加したがっていたらしいが、元々夜間男子禁制の狭いマンションでは人口密度に限度があるし、大人数で馬鹿騒ぎをして病み上がりのあたしに迷惑を掛ける訳にはいかないという事でここは遠慮願ったとの事。

彼らの大半は今頃如月骨董品店で呑んだくれてる筈だから、この後皆でからかいがてら様子を見に行こうという話だった。

───つまり京一は何も知らされないまま、見事に準備の時間稼ぎのダシに使われていたらしい。

パーティの間、皆の気持ちが嬉しくてはしゃぐあたしとは正反対に、京一が始終ムスッとしていたように見えたのは多分気のせいじゃないだろう。





「それにしても…やっぱり京一君も麻稚と一緒に帰って来たのね。ごめんなさいね、お二人の邪魔しちゃって。」

「え?…な、何言ってんの葵ッ。だからあたし達は別にそんなんじゃないって…」

「ったりめーだろ。こんな色気のねェヤツじゃ、勃つモノも勃たな───」

 バキィッ。

「…やっぱ、殺す。絶対殺す!!」

「殺れるもんなら殺ってみやがれッ!」

「わ、待ってまーちゃんッ! 京一を殺るのはいいけどまだ料理が…」

「う〜ふ〜ふ〜楽しそう〜ミサちゃんも混ぜて〜。」

「ワーイ、マリィモ♪」





───まぁ、でも。

ほんッッッッのちょっとだけ。

残念だったかな、という気もしないでもないけど。

あたし達にはまだまだ時間はあるから。







こんなオチの特別な日も、いいよ────ね?






  

    【良かった珍しく間に合ったよ〜ついでにシリーズ化しちゃえ(ヤケ)座談会】        

麻稚「…まさか作者初のタイムリーなクリスマスSSの主役があたしとは思わなかったなぁ…。

   ていうかあたし、元々突発女主だったのに何時の間にやらシリーズ化してるし(汗)。」

京一「ま、それはいつものパターンだけどな。作者の計画性のなさは今に始まった事じゃねェだろ。」

麻稚「それはそうだけどさ。あたし絶ッッ対、歴代女主の中で一番不幸だよね…」

京一「諦めろ。作者はギャグをできる限り入れたくて麻稚のキャラを作ったって話だぜ。」

     ガキ。←交差する脚と木刀

麻稚「あんたにだけは言われたくないわよ、馬鹿─────!!」

京一「てめッ、何しやがる!!」

麻稚「うっさい、このエロ猿セクハラ女の敵ッ!! ギャグだか何だか知らないけど、

   どーしてこう何度も(←1作目参照)あんたにサービスしなきゃなんないのよ───!!(大泣)」

京一「あー、そりゃセーラー服女主のくせに全然足りねー色気をそこで補えって事だろ。

   尤もそれでその程度じゃ俺以外誰も相手にしねェだろうけどな。」

麻稚「……………(ぶち)」

京一「ぶち?」

麻稚「ふ…ふふ……そんなに色気のあるのがいいならダイナマイトバディの女性を紹介してあげるね…?」


     その夜、桜ヶ丘中央病院の院長室前に赤いリボンで飾られた謎の簀巻きが届けられ。

     若い男の悲鳴らしきものが数時間に渡って近所一帯に響いたという…。合掌。





…小学生かお前ら─────ッ!!(自己ツッコミ)
この二人、「好きな子は虐めたくなる」を本気でやってます。
バカップルの自覚なし(笑)。
でも例え晴れて本当にくっ付いても(そこまで書くのか?)、
ドツキ漫才は変わらないんだろうなぁ。
京一も他の女主だとあまりやり返さないけど、麻稚相手だと遠慮しないのさ。
だからこの二人を書くのって楽しいのです♪