【この空の下 両手広げて】




「エルリックさーん、お届けものですよー」

洗濯物を干してると、大きな花束を抱えた配達員がやってきた。

「え、オレに?」
「えーと、宛名は『ウィンリィ・エルリックさん』ですね」
「ウィンリィに、花・・・」
「はい。あ、こちらが手紙です。どうぞ」
「あ、ども」
「では、これで」

気を遣う荷から開放されて、ほっとしたように去っていく配達員の後姿を見送りながら、手渡された封筒をひっくり返す。

差出人は ―― ロイ・マスタング

「あんにゃろー、なに花なんか贈ってんだよっ」
「エドー、お洗濯おわったー? ・・・わっ、どうしたのそれ、すごーい!」

ひょいっと窓から顔を出したウィンリィが、オレの抱えてる花に目を丸くした。

「知らねェよっ、お前にだ。おらよ」
「え、あたし!? え、誰から?」
「気障な少将からだ」
「え・・・マスタングさんから!? な、なんでっ」
「オレが知るかよっ! 手紙があるからそれ見ろっ」

窓越しに花束を手渡して、ついでに手紙も押し付ける。
ウィンリィは戸惑いながらも受け取って ―― 花を手にした時、自然と顔がほころんだ。

それを見て、オレは益々機嫌が悪くなった。

あんのクソ少将!
なにヒトの女房にまで色目使ってやがんだっ!!
つーか、ウィンリィになんの用があるってんだよっ!?

苦々しい思いで、手紙を読むウィンリィの様子を伺ってると、顔を上げたウィンリィがオレに向かって笑顔で言った。

「エド、お花、ありがとう」
「は?」

なんでオレに、ありがとうなんだ?

笑いながらウィンリィが手紙をオレに見せた。

この間の、急な呼び出しにオレを送り出してくれたウィンリィへの礼と、
花代は研究費から引いておくから気にするな、というオレへの伝言 ――

「オレの研究費、勝手に遣ってんじゃねーよっ!!」

しかも『たまには女房孝行をしろ』なんつー余計なことまで書いてあるし!
そーいうテメーはどうなんだっつーのっ!!

鼻息荒く怒るオレをまぁまぁと宥めながら、ウィンリィは嬉しそうに胸に抱えた花を眺めてる。


「・・・ウィンリィ」
「ん、なぁに?」
「やっぱ、花を貰うと嬉しいもんか?」
「え」
「オレも・・・たまには花を贈った方がいいか?」

リゼンブールじゃ、こんなに見事な花を手に入れるのは難しいけど。
でも、そんな嬉しそうな顔するんだったら、たまには中央まで出かけていっても ―――

「えっ、いいわよ、そんなの! 花束なんて、エドの柄じゃないでしょ」
「そうだけどさー」
「そりゃあ、花をもらったら嬉しいけど・・・エドは ―― エドが、あたしにとっての花だから」


「こうして、傍にいてくれたら ―― それが一番うれしい」


苦しい時オレを支えてくれた手が、今もオレのすぐ傍にあってオレの手を握ってくれる。
オレの右手も白い手を握り返す。
しっかりと、優しく。


笑みを交わすオレ達の間を風が吹き抜ける。

「今日もいい天気ね。洗濯物がよく乾きそう」
「ああ」


はためくシーツは白い波のようで。
その向こうには緩やかにうねる緑の丘がどこまでも続き、
見上げれば、遮るもの一つない、青い空。


今、オレの両腕は、この目に映る世界を守るために、精一杯広げてる。

もう、なにひとつ、大切なものを失うことがないように ―――




「20歳エド祭」主催のタカコさんが洗濯エドでコラボしてくれました。
わーウチの情けない豆と違って、しっかりウィンリィさんを嫁に貰ってますよ。
らぶらぶですよ。幸せ家族の図ですよ。
でもやっぱり大佐…もとい少将に負けてますよ(笑)。
同じ絵でも人によって見方が違うんだなぁと思った瞬間でした。
良かったねエド…幸せにして貰って…花を贈ろうかなんて言えるようになって…!(ほろり)
タカコさん、本当に有難うございましたv

(05.12.19.UP)