【カウントダウン】



ああ、イライラする。

面白くない。

何でこんな気持ちになるのか分からないから余計にムカムカする。

どん!と乱暴にテーブルに置いたカップの中で、冷めた紅茶が小さく跳ねた。





「……兄さんって素直じゃないくせに分かり易いよね」

「何がだ!!」

「べっつにー。それよりウィンリィ達、遅いねぇ」

「ったく、たかが部品の調達にいつまで掛かってるんだあいつは!!」

「ウィンリィがまた行く羽目になったのは兄さんのせいでしょ。

そんなに心配なら一緒に行けば良かったのにさ」

「し…心配って何だよ!! オレはなぁ、一刻も早くこの腕を直してセントラルに…」

「はいはい。まぁリンも根は悪い人ではなさそうだし、ウィンリィはしっかりしてるからきっと大丈夫だよ。

馴染みの店に行くだけだって言ってたし」

「だから何の心配だッ!!」



向かいの席で鎧を磨きながら『何もかも分かってる』とでも言いたげな様子の弟に、

更にイライラが募る。





───ここは、南部の街ラッシュバレー…別名・機械鎧の聖地(ウィンリィ談)のガーフィール工房。

修行中の幼馴染みに先日の闘いで壊れた機械鎧を修理して貰うべくやって来たオレ達だったが、

ヘンな外国人連中に絡まれてオレの右腕は当初より大幅に悲惨な形となってしまった。

その為ウィンリィはオレをモザイクレベルにまでぶん殴った後、

足りなくなった部品を調達しに再び街中へと出掛けて行った訳だが。





「でもリンって積極的だよね。やっぱり女の子はああいう押しの強いタイプに弱いのかな」

「…………………」



本っ当にこの弟は何が言いたいんだ。

じろりと無言で向かいの席を睨みつけるが、

アルはオレの視線を気にするでもなく鼻歌混じりでオイルを染み込ませた布を動かし続けている。

絶対わざとだ、こいつ。





……リン、ってのは例のヘンな外国人連中のボス(?)の名前だ。

道端で行き倒れていたのを拾ってやったってのに、

東の国シンから賢者の石を探しに来たとかほざいていきなり喧嘩を売ってきた。

やたら物騒な部下達といい、へらへらした態度といい、胡散臭い事この上ない。

そんな男が機械鎧の部品の買出しに行くと言うウィンリィに

面白そうだから荷物持ちとして付いて行くなんて言い出して……もうすぐ1時間。





ていうかウィンリィもウィンリィだ。

得体の知れない奴の同行をあっさり許すか、普通。

なんかあったらどうするつもりだ。

そりゃ、あんなふざけた台詞をウィンリィが本気にしてるとも思えないけど。

あそこでオレも行くなんて言える筈もなくて、

(第一、今のオレは完全に右手がない状態だから荷物持ちとして不適応なのは誰の目にも明らかだ)

オレはここで留守番せざるを得なかった訳だけど。





いや。

そもそも、オレがそんな事を気にしてやる義理も理由もない。

オレとウィンリィはただの幼馴染みで、機械鎧整備師と患者で。

ウィンリィが何処で誰と何をしていようとオレには全然関係なくて。





…………………………。





がたんッ。

勢いよく立ち上がった拍子に、座っていた椅子が床に転がった。





「いってらっしゃいー」

「タダの散歩だッ!!!」



最初から見越していたように暢気に手を振る弟を殴りたい衝動をグッと堪え、

ずんずんと足音高く工房を抜けて外へと繋がる扉に向かう。

そのままドアノブに手を掛けようとして────



「やだ、リンってば面白すぎー」



扉の向こう側で聞こえた笑い声に、オレの身体が強張った。



「ホントだって、キミなら絶対一番になれるヨ!」



聴き慣れた声に独特のイントネーションが重なり、

親しげな会話が扉を通して微かに聞こえてくる。



……………………何だよ、それ。



ホッとしたのと同時にさっきまでとは比べ物にならないくらい胸がムカついて、

オレはその場に立ち尽くしたまま思いっきり眉を顰めた。

二人分の声は徐々に近付き、もう扉のすぐそこまで来ている。



「──でもそんなに興味を持って貰えるなんて、機械鎧整備師として嬉しいわねー」

「こんなステキなもの、興味が湧かない筈ないネ」

「そうよねそうよね! 機械鎧の素晴らしさを理解しようともせずに

壊してばかりな何処かの誰かと違ってリンは話が分かるわー!」



───何で、そんなに楽しそうなんだ。

お前の気を引く為に適当に話を合わせただけに決まってるじゃねーか。

イライラとムカムカが一斉に押し寄せ、知らず知らず左の拳を握り締める。



オレイガイノオトコ二、ソンナニワライカケルナ。



唐突に脳裏に浮かんだ言葉に、眩暈がしそうになった。



───今。何を考えたんだ、オレ?



「……あれ。兄さんまだいたの?」



新しい布でも取りに来たのか。

奥から出てきたアルの怪訝そうな声が背中に掛けられる。

それに応える余裕もなく、全神経は嫌でも外の会話へと注がれて。



「───だったら、シンに来て俺の側でもっともっと機械鎧を教えてくれないかイ?」

「え? ちょっと、リン?」



可愛いお嫁さんは大歓迎だヨ、と歯の浮きそうな台詞が放たれたかと思うと

扉の向こうで人影が寄り添うような気配がして。

瞬間、オレの中で何かがキレた。



「ざけんなッ!! こいつはオレのモンなんだよ、他の誰にも譲らねェ!!!」


この時点ではエド→ウィン。でもきっとウィン→エドでもあるんだよ。


バーン、と派手な音を立てて扉が開かれるまでコンマ1秒。

両手に紙袋を抱えた状態にも関わらず、幼馴染みの手をまたも握ろうとする胡散臭い男に対し。

気がつけばオレは、ウィンリィを残された左腕で力いっぱい引き寄せて叫んでいた。



「…見せつけてくれるわねぇ。若いっていいわぁ」

「……兄さん……どうせならもうちょっとムードを……」

「あはははは。ライバルは多い方が燃えるネ!」

「………………………」



いつの間にギャラリーが増えたのか。

この店の主人の妙にはしゃいだ声と、弟のしみじみとした呆れ交じりの声と、

細目男の爆笑と、絶句したまま腕の中で固まる幼馴染みの姿に漸く自分が何を口走ったか悟り。

慌ててウィンリィから手を離しても、時既に遅し。



「あ、いや、オレの専属整備師だって言いたかっただけで───」

「……誰が誰のものよ、馬鹿エドッ!」



怒ったように。

それでもみるみる顔を赤くしていくウィンリィを前に、

わたわたと腕を振って必死で言い繕うオレの声が往来に空しく響き渡る。





覆水盆に返らず。年貢の納め時。





昔何かの本で読んだ東方のコトワザの意味を、

オレが身をもって知るまであと僅か──────なのかもしれない。












そのまんま、コミックス8巻直後ネタでした。
アニメしか知らない人はごめんなさい。
辛うじて人物紹介っぽい説明は入れてみましたが…
それでも分からなかったらコミックス買うのをお勧めします(オイ)。
でもマジでアニメより原作の方が面白いんだよー。むしろアニメと一緒にしないで欲しい。


ていうか。すいませんすいませんすいません!!
普通のエドウィンシリーズ(?)みたいですが、コレでも44444HITのキリ番なんです。
だから最初にタイトル付き。←誰も気付かねーよ
しかもリクは「へたれエドの片思い」だったのに、結局「暴走豆の一人相撲」に…。
いや、でもここのウィンはエドをまだ単なる幼馴染みとしか…!←それはそれで酷い

キリ番ゲットのちょこらさーん。
ホント遅くなって申し訳ありませんでした!!
散々お待たせしてリクと掛け離れたものになってしまいましたが(途中でリク自体変えて貰ったのに…汗)、
こんなので良ければ絵ごと押し付けますので煮るなり焼くなり好きにして下さい。
イラスト扱いのぷちSSなんで座談会は勘弁して貰いたく…っ(滅殺)。

(04.09.03.UP)