これぞ攻め江戸!(笑) 身長差が微妙だ…

「……どうしたのよ。やるならやりなさいよ」

「………うっせー。笑ってられるのも今のうちだぞ」

怯むでもなく。蒼い目が挑むようにオレに向けられる。





…最初は単なるいつもの口喧嘩だった。

久しぶりに会った幼馴染みに機械鎧のメンテナンスがなってないとか、

相変わらず豆だとかなんとか言われて。

いつものオレだったら適当に謝ったり聞き流したり怒ったりするだけで、

何を言われてもウィンリィに直接手をあげたりする事はなかっただろう。

だけど、今日は何故だかムショウに腹が立って。

この場にいればすぐにオレを止めただろうアルも、たまたま今は席を外していて。

そしてまたウィンリィも簡単に引き下がるような奴じゃないから、

まさに売り言葉に買い言葉の応酬。

もう何がどうなってこういう事になったのか分からない。



「大体お前、無防備過ぎんだよ。オレだって男なんだぜ?」



気が付けばオレは体術で鍛えた素早い動作で幼馴染みの右手首を掴み、

人気のない壁際に追い詰めるようにして立っていた。

…これじゃ完璧に悪役だ。

それもB級映画に出てくる無法者みたいな、

嫌がる女をムリヤリ手篭めにしようとする奴(そーゆー映画を実際観た事はないが)。

…………ていうかなんでオレ、こいつ相手にこんな事してんだよ。

だってウィンリィだぞ。機械オタクで、ガキの頃からお互い知り尽くしてて。

それは分かっちゃいるが、ここで引けない男の意地みたいなモノもあって。

「何よ。あんたに何ができるってのよ」

「んだとコラ」

また更に火に油を注ぐのが、こいつで。

「エドにそんな度胸ないって言ってんの。やれるもんならやってみなさいよ」

「……ほー。よく言った」

ぷちん、と何かがキレた。

我ながら、今のオレは悪人顔をしていると思う。

口元に笑みさえ浮かべて徐々にウィンリィとの距離を詰める。



「………………」

「………………」



が。

「……どうしたのよ。やるならやりなさいよ」

「………うっせー。笑ってられるのも今のうちだぞ」

…畜生。

少しでも怖がる素振りを見せたら笑い話としてからかって終わりにしてやろうと思ってたのに、

こいつマジでビビりもしねぇ。

ほんっとーにオレには何もできないと思ってるのか。

右手左足が機械鎧とはいえオレは「男」で。

その気にさえなれば力づくでお前を押し倒す事だってできるんだぞ。

避けようと思えば避けられるのに

毎回スパナで殴られてやってるのもわざとだって分かってんのかオイ。



正直、今も───馬鹿みたいにドキドキしている。

普段から薄着のウィンリィは全く気にしてないようだが、

細い首とか鎖骨のラインとか正面から微妙に覗ける胸元とか。

淡い金色の長い睫とか柔らかそうなピンクの唇とか。

いつもはなるべく考えないようにしていた事が全て、誘ってるように思えてしまう自分が嫌だ。



くそ。これってただの男の事情……………だけじゃないよなぁ。やっぱり。

よりによってこんな状況で認識してしまう己のウカツさに頭を抱えたくなる。

今や本気で理性を総動員しないと、何をしでかすかドコまでやってしまうか分からない。

ウィンリィに度胸がないとバカにされるのも屈辱だが、

ここで本当に手を出してしまってその後今まで通りでいられる自信はない。

大体、オレが「そういう気持ち」だとしてもこいつにしてみれば単なる「売り言葉に買い言葉」な訳で。

なんかそれって、すげー虚しくないか?

一応、オレにとっては女にその、こーゆーシチュエーションで迫るのは初めてな訳で。

まぁ…こいつにとってはどうだか知らないが。

いやこいつだって初めてだと思う…たぶん(つか、他の野郎とこいつが…なんて考えられねェ)。

ともかく、それがこんな喧嘩まがいの勢いでってのもなんか違うっつーか。

後悔したくないっつーか。後悔させたくないっつーか。

…全部勢いだけで行動できたらある意味楽なんだろうが、

ついつい物事の先まで論理的に考えてしまうのは職業病なのかもしれない。



───と。

引くに引けず、だが前に進む事もできないまま固まってしまったオレの視界が急に暗くなった。

何事かと目を瞬き、それが自ら近付いたウィンリィの顔だったと気付いたのは

唇に何か柔らかいものが当てられた後。



………………え? 今のって。



呆然とするオレの手から力が抜ける。

それと同時に掴まれていた右手を振り払ったウィンリィは身を翻すようにして壁際から3歩ばかり離れると、

そのままオレに向けて「べーっ」と舌を出してみせた。



「女の度胸を甘くみたわね、エド」

「……………………」



たたたっ、と軽やかに足音が遠ざかる。

残されたオレはというと、そのまま立ち尽くすばかりで。



「………マジ?」



────唇に残る感触を思い出しながらぽつりと呟く声が、自分でも物凄くマヌケに思えた。









攻めエドに見せかけて実はヘタレ。攻めウィンリィでした。
いやー楽しかったー(笑)。
またプチSSどころじゃない長さだけど、たまにはこーゆーのもアリで。
ノベルゲーのシナリオを長々と書いたおかげでエド視点も結構楽に書けるようになったなぁ…。

しっかし私、本当にこの二人の組み合わせが好きらしいです。
だけど元の身体に戻るという目標が達成されてない現時点ではやっぱり、
「いかにも恋人同士」「ラヴラヴ」はちょっと違う気がするのよ。
喧嘩しながらたまーに気持ちを微妙に曝け出しつつ、
「好き」とは面と向かって言わない。
尚且つ不意打ち的にやる事はやるのが良いね。
どっちからでも。冗談っぽく。かつ自然に。不慮の事故もオッケー。
で、相手の真意を測りかねて悶々と悩むのだ青少年達よー!(鬼)

(04.03.19.UP)