「ウィンリィ」
後ろから呼ばれた声に振り返ると、そこにいたのは仏頂面の男。
「エド!」
あたしは買い物袋を片手に提げたまま、目を丸くした。
「どうしたのよ、あんたがこんな所にいるなんて」
「…オレが買い物に来たら悪いのかよ」
「そうは言わないけど、珍しいわねー」
研究に没頭し始めたら止まらないのだ、この錬金術オタクは。
寝食を忘れて家から出ないなんてのもザラだから、
こんな時間にエドが一人で商店街に来るなんて事は滅多にない。
よく見れば片手にこの近くの雑貨屋の小さな紙袋を抱えていて。
大方、兄の不健康な生活を見かねた弟に諭されてしぶしぶお使いに出てきたといったところだろう。
「…エド?」
ふいに、目の前に影が差す。
いつの間にやらあたしの身長を追い越していた幼馴染みが「あたし達」のすぐ側まで近付いたかと思うと、
買い物袋ごといきなり腕を引っ張られて身体を引き寄せられ。
唇を掠めるような、一瞬のキス。
「なっ、こ、こんなトコで何考えてんのよ、あんたはっ!」
「別に」
突然の事で、自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
反射的に繰り出した握り拳はあっさりと避けられ、にかーっと笑うその様子は絶対に確信犯。
…研究者のくせに相変わらず運動神経のいい奴だ。
ここにスパナがないのが悔やまれる。
そしてエドはあたしの手から重い買い物袋を当然のように奪い取ると、
その代わりに自分の持っていた軽い紙袋をあたしに押し付け。
空いた片手であたしのもう片方の手を握り、家の方角へ向かってずんずんと歩き出した。
その際、後ろで呆気に取られたようにコトの成り行きを見ていた男性──
──さっきまであたしと会話をしていた人物にちらりと視線を送るのも忘れていない。
あたしは慌ててその人に向けてぺこりと小さく頭を下げ、
周りで面白そうにこちらを見ている人達から逃げるようにしてその場を後にするハメになったのだった。
「……もう! 言っとくけど、あの人はただのウチの患者さんよ。見れば解るでしょーが」
「………知るか」
手を繋いだまま田舎道を並んで歩きながら、そっぽを向くエド。
…まったく、こいつは素直じゃないくせにヘンに子供で独占欲が強いんだから。
今更とはいえ小さな町の事だ、どんどん噂が広まるかと思うと頭が痛くなる。
だけど。
幼馴染みでうんと小さい頃から一緒にいて、エドの事なら大抵の事は知っていると思っていたのに。
ちょっと前までエドにこんな一面もあるなんて知らなかった。
理由あって随分長い間、弟と一緒に根無し草のような生活をしていたエドには
人に弱みを見せたり我侭を言ったりする余裕もなかったのだろう。
でも、今は違う。
これからはずっと一緒にいられる。
「エド」
「ん?」
「好きよ」
「………それは知ってる」
もっともっとエドの素顔を見たいと思うあたしも、結構こいつに毒されているのかもしれない。
誰もいない道端でどちらからともなく立ち止まり。
再びゆっくりと降りてきた唇を、目を閉じて受け止める。
互いに繋いだ手…エドの右手から伝わる体温がひどく温かいと思った────。
ついにやっちまったよプチSS未来系。
たぶん18、19歳くらいで私の書く話にしては珍しくラブラブです。
ノベルゲーの反動か(笑)、たまには激甘の話を書きたくなってねぇ…。
本気で誰だよこいつら。(お前が言うな)
この様子じゃおそらく既成事実もあ(自粛)。…つまりですね。
この二人が本当に心置きなく「好き」と言葉にして堂々とイチャつけるのは
全てが終わってからだと思うのですよ、実際。
だからエドの右手左足は勿論、ここのアルはちゃんと人間に戻ってます。
国家錬金術師も引退し、兄弟は凄腕の錬金術師としてリゼンブールの新しい家で生活中。
現在家事は几帳面なアルが殆ど担当しているらしいです。
更に数年後にはそれぞれ独立して、エドはウィンリィと結婚して。
…本当にこんな日が来ればいい…なぁ…。すげー不安だ(涙)。
(04.03.07.UP)