エドウィン? これだけなら全然それっぽくないなぁ…。たまにはウィンリィにちゃんとつなぎを着せたかったのです(笑)

「よっし完成!!」


最後のネジを締め、工具を作業台に戻してあたしは大きく伸びをした。

いつもの如くボロボロになって帰ってきた特製機械鎧の右手も、

やっと本来の形を取り戻して心なしか輝いて見える。


「ていうか、あのバカが無茶な使い方し過ぎるのよねー…」


どれだけ文句を言っても一向に直らないのだから始末に終えない。

精魂込めた機械鎧が壊されるのが嫌なのには違いないけど、

それ以上に何があったんだろうと毎回胸が締め付けられる。


「エドー! 右手できたわよー!」


ひとつ溜息をつき、声を張り上げてこの腕の持ち主を呼ぶ。

アルとばっちゃんはデンの散歩がてら買い物に行くと言ってさっき出て行った。

たぶんエドはその辺りにいる筈だ。


「エド────? 何処────?」


が、しかし。いくら呼んでも何の返事も返ってこない。

2階建てとはいえ大して広くもない家だから、中にいて声が聞こえないという事はないだろう。

という事はあいつも外に出て行ったのだろうか。

「もー、右手がないと不便だって散々人を急かしてたくせに何でいないのよ」

ここで待っていても時間の無駄だ。

あたしは再び溜息をつくと、世話のやける幼馴染みを探すべく部屋を飛び出した。




─※─




「………なんかムカつく」


そして。目的の人物を発見して、あたしの第一声はこれだった。

───探し人は家の裏の草地に寝転がって、なんとも気持ち良さそうに昼寝をしていた。

あたしは昨夜も徹夜でこいつの機械鎧を修理していたのに、だ。

そりゃリゼンブールみたいな田舎には図書館もないし、

話し相手のアルもいなければ暇でしょうがないのも分かるけど。

エドのサポートをするのがあたしの仕事とはいえ、

こいつが壊した腕をあたしが必死で修理している時に真っ昼間からこうも呑気に眠られては

少しばかり殺意を覚えても仕方ないと思いませんか天国のお父さんお母さん。

呆れと同時になんだかどっと疲れを覚えてしまう。


「エド! 右手いらないの!?」

「……………………」


このヤロ。無視か。


「こら、起きろ! いつまでも寝てんな!」

「………………………」


あーダメだ。完全に熟睡してる。ぴくりともしない。

エドの脇にしゃがんで顔を覗き込んでも何の変化もなし。

…こいつ、そんなに疲れていた訳?

………それだけ、いつもは気を張ってるという事?

だけどここは安心して眠れる、という事なのだろうか。


「………この、意地っ張り」


ぽつりと呟くあたしの声は、風に吹かれてすぐに消えていった。

…ホント、いつもいつもこの幼馴染みは無理ばかりしてるんだから。

分かってはいても、中身のないスカスカのコートの右袖が痛々しかった。

この家が、少しの間でも安らげる場所になっているのなら嬉しい。

できればもっと休ませてあげたい。

でも。

「もう夕方なんだから、こんなトコで寝てたら風邪ひくじゃない。ほら、起きなさい!」

ここは心を鬼にして声を掛け、肩を軽く揺する。

折角右手が直っても、風邪をひいて寝込んだりしたら洒落にならない。


「………………………」


反応なし。目蓋は閉ざされたまま。

よく見れば意外に整っているエドの顔の上を、さらさらと金の髪が揺れている。

ふと、あたしの中に悪戯心が芽生えた。

地面に掌をつき、髪が落ちないようにもう片方の手で抑えながらそろそろと顔を近づける。

互いの唇が重なるまで、10センチ。


「………起きないとキスするわよ?」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」


ぎゅ。


「…ってぇ!! 何すんだてめ!?」

「うっさい、狸寝入りすんな豆!」

「誰が豆だゴルァ────────!!!」


鼻を思いっきり抓まれて涙目になってるエドが喚くのを無視し、

あたしはさっさと立ち上がって玄関へと足を向けた。

スパナでなかっただけ感謝して欲しいところだ。

そのまま背中越しに声を投げ掛ける。


「ほら、右手できてんだから早く来る!」

「お、おう」


後ろで答えるエドの声が僅かに焦ってるように聞こえたのは気のせいじゃない、と思う。

さっき、鼻を左手で押さえながらもちらりと見えたエドの顔は確かに赤かったから。

きっと、今のあたしの顔も同じくらい赤いだろう。

絶対にあいつには見せないけど。




…単なる冗談のつもりだった。

深い意味なんか全然なかった。

………エドは、本当に起きてたんだろうか。

本当にあたしがキスしていたら、どうなったんだろうか。

分からない。

あたし達は単なる幼馴染みで。機械鎧整備師と患者で。

ただ、あたしの心臓はさっきと比べ物にならないくらい早鐘を打っていた────。










プチSSなのに長い〜どんどん長くなる〜。
幼馴染みならではのお約束ネタ。そして豆ムッツリスケベ説浮上。
ここでふいをついて自分から引き寄せる度胸はまだないらしい。
既に両想い確認済みで付き合ってたらやるだろうけどね奴は(笑)。
…って昔似たようなのを魔人の京小で書いたような…!(汗)

(04.01.02.UP)