海外に直アドレスで転載されたので、こそっとファイル名変更(爆)

それは本当に、たまたまだった。

ウィンリィはいつものようにオレの右腕の整備をしていて。

やっと接続も終わり、はい終了とばかりに椅子から立ち上がりかけたところで

ふいに幼馴染みが足元をふらつかせた。



「ぅわっ…と!」


別にそれがウィンリィだったからじゃない。

誰だって目の前で人が倒れそうになって、それで自分がなんとかできそうだったら手を貸すだろう。

…相手がむさいオッサンだったりしたら避けるかもしれないけど。

とにかくオレは何か考える間もなく殆ど反射的に手を伸ばし、

そのまま床に倒れ込みそうになったウィンリィの身体を寸前で支えた。

幸い、メンテナンスを終えたばかりの右腕の調子も良好で、

二人揃って倒れる事なく踏ん張る事に成功して内心ほっとする。


「おいおい、何ふらふらしてんだよ。あぶねーなぁ」

「ご、ごめん……ちょっと、立ち眩み。大丈夫、もう何ともないから」


少し寝不足なだけだし、とオレの腕の中でバツが悪そうに苦笑するウィンリィ。


「寝不足…」


それってやっぱオレのせい…だよな。

機械鎧の整備を急がせたせいでウィンリィが夜遅くまで頑張ってたのは知ってたけど。

いつだってウィンリィは文句を言いながらも笑顔で完璧に仕上げてくれてたから、

こいつの体調とか都合とかあんまり気にしてなかった自分に今更ながら気が付いた。


「………悪ぃ」

「もう、何珍しい事言ってんのよ。あんたのサポートするのがあたしの役目なんだって言ったでしょ」


あっけらかんと言ってのけるウィンリィはいつものウィンリィで。


「それより、少しでも悪いと思うなら日々のメンテナンスをもっと真面目にしてよね…って、エド?」

「………………」


だけど。

ウィンリィの身体は、オレが予想したよりもずっと軽く、柔らかかった。

見た目よりも重量のある機械鎧を扱う機械鎧整備師とは思えないくらいに。

腕や腰なんかも折れそうなくらい細くて。

さらさらの髪からいい匂いがして。

ガキの頃から10年以上も顔をつき合わせてきたのに、

記憶にある限りこんな間近で見た事がなかった蒼い瞳に吸い込まれそうになった。


「…ちょっとエド、どうしたの? 手、離して…」


………オレ、変だ。

今、こいつを離したくないと思ってる。

このまま、腕の中に閉じ込めたいと思ってる。

だから。

オレは本能の赴くままに一度離れかけたウィンリィの身体を抱き寄せた。


「なっ…エド!? 何やって…!」

「オレも判んねぇ」


焦ったような声を上げるウィンリィの首筋に顔を埋め、背中に回した腕にぎゅっと力を込める。

ウィンリィが硬直したように息を呑んだ気配がした。

本当に自分でもなんでこんな事をしているのか判らない。

胸の奥がちりりと痛む。

でも、凄く温かい何かが湧き上がるような感じがする。

これは、何だ。

オレは───────



「兄さーん、ウィンリィー、ばっちゃんがお昼ゴハンだってー!」



その時。

階下でアルの呑気な声が響き、オレはようやく我に返った。

そして自分がやらかした行動(しかも現在進行形)に思い至り、一気に顔に血が昇る。


「うあぁあぁっ、わ、悪ぃ…いや、その、オレ…っ」


慌ててウィンリィから手を離し、飛び退るようにしてその場から離れた。

どきどきと鐘のように煩い心臓を必死で宥めながらおそるおそる顔を上げれば、

硬直したままのウィンリィの顔もトマトのように真っ赤で。

こんな時、なんて言えばいいのかなんてオレに判る筈もなくて。

結局オレは半ば逃げるようにして、無我夢中で部屋を飛び出した────。








あり得ないというかなんというか…セクハラ且つヘタレ豆の巻(笑)。

(03.12.18.UP)