※これはエドウィン乙女兄さんシリーズです。EW54の続き。





























……………………」

「……………………」



ウィンリィを背中から抱き締めて、所謂『今夜のお誘いの言葉』を耳元で囁いて。

ガラじゃね───────!!と叫びたくなるのを必死に堪え、そのままの姿勢で暫し呼吸を整える。

元々俺から言うつもりだったしばっちゃんのお墨付きもある。

何より正式なプロポーズも成功した訳だからある意味遠慮もいらないのかもしれないが、

情けないくらい顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。

ウィンリィにも伝わってしまってるだろう心臓の音がやたら煩い。

焦るながっつくな怖がらせるな。

今日でなくてもいいんだ本当に。

いくら周りにお膳立てされても、俺達がその筋書き通りに行動しなきゃならない謂れもない。

青少年の葛藤を全部ぶちまけた16歳のあの日。

こいつも「あたしをプレゼントしてあげるね」とは言ってくれたけど、冗談みたいな素振りだったし何事にも例外や予期せぬ事態は存在する。

例えば体調不良とか……ってあれだけ晩飯食べられるならそれはないか?

世の中にはやたら小食だったり飯を残すのを美徳だと勘違いしている女もいるらしいが、ウィンリィは昔からそういう事もない。

職業柄もあってか並の男の一人前くらいはぺろりと美味しそうに平らげる。

大食いという程ではないものの菓子デザート類も合わせればもしかしたら俺より食べるかもしれない。

この細い身体のどこにそれらが納まるのか長年の謎ではあったが、

全然食べないよりは嬉しそうに幸せそうに食べて貰える方が見ているこっちも気持ちいいというものだ。

余談だが。

修行を終えて久しぶりに帰宅するウィンリィを労いたい、喜んで貰いたいという気持ちも嘘ではなかったが

今日に限ってはこの家でじっと待ってるのも落ち着かなくて手持ち無沙汰を台所で適当に紛らわしてるうちに

予想外に豪勢なディナーになってしまったというのが大きかったりする。

明日ばっちゃんが帰ってきたら食材を使い過ぎだと怒られるかもしれないが、

一応ばっちゃんの分も別に残してあるし近いうちに自分で買い出しに行って補充するつもりなのでそこは勘弁して貰おう。

……話は戻って。

食欲の有無だけが体調不良じゃないよな、と頭の中で訂正する。

この状況で断られる理由として最も可能性が高く納得せざるを得ないのは………生理中、か。

男という生き物はまぁ、よほど疲れているとか腹が痛いとかでもない限り惚れてる女に対しては年中発情期な訳だが

女は例え心がOKでも衛生的その他諸々の理由でダメな期間があるという。

個人差はあるが平均で28〜30日周期、そのうちの7日程度か。

……………オンナを知らないのに無駄に人体構造に詳しくて冷静な分析ができる自分がちょっと悲しい。

物心ついた頃からの幼馴染で一緒に住んでいた時期があっても、ウィンリィの生理周期までは俺も知らない。

というか知ってたら怖い。

もし俺がこいつの立場なら引く。

ウィンリィが具合悪そうな時に心配して理由を訊いたらあっさり生理だと応えられて焦った事は何度かあるものの、

それで周期や次の予定日を計算するほど俺も馬鹿じゃない。

ばっちゃんや妙に鋭いアルなんかはある程度予想つくのかもしれないが、

俺の場合、一緒に住んでも敢えて気付かないよう考えないよう努めていた面もあったんだなぁと今になって思う。

それでなくてもどんどん丸みを帯びて女らしい体型になっていくウィンリィを一人の女として意識しない為に。

ただの幼馴染からどんどん膨れ上がる自分の気持ちを押し殺す為に。

思えば、今日この日まで本当に本当に長い道のりではあった。



「……え、エド、あのね…っ」

「おおおおうあ!?」



唐突に腕の中から声が響いて我に返る。

時間にするとほんの1分足らずの思考だった筈だが、反射的にパッと身体を離してしまったのは

気恥ずかしさと女のプライバシーを考えてしまった後ろめたさの混ざった結果か。



「あたし、…」

「へ、返事は今でなくていいから! いやマジで!」



機械鎧と生身の掌をぶんぶんと振り、こちらに背中を向けたままのウィンリィの声に被せるようにして慌てて言葉を遮る。

我ながら余裕がないと思うが、今すぐOKか否かの答えを貰うのは俺も心の準備が…というか色々マズイ。

もっと正確に言うと。断られるならまだしも、もしうっかり今OKを貰ってしまったら舞い上がって

ここがリビングだろうと硬い木の床の上だろうとこのままウィンリィを押し倒して滅茶苦茶にしてしまいそうな自分がいるのだ。


───さっきチェーンを留めた柔らかいうなじに吸い寄せられるようにキスした時、これはヤバイと直感が告げた。


普段あまり飲まない酒のせいもあるだろうが、頭の中が真っ白になってこいつの合意とか体調とか一瞬何も考えられなくなった。

そこで止まる事が出来たのはちょっとした奇跡に近い。

あの時たまたま時計の鐘の音が鳴らなかったら、冗談抜きで危なかったかもしれない。

2時間後の0時ちょうどを指定したのは糞真面目に18歳の誕生日になるまで待ちたかったというよりは

こいつに考え、断る時間を与えると同時に自分を落ち着かせる意味もあった。



「だからっ、その前に!」



俺の葛藤を知ってか知らずか。

いきなりくるっと振り返ったウィンリィが間髪を置かず、俺の後ろ側に走るようにして周り込む。

そのままリビングの出口に向かってぐいぐいと背中を押された。



「へ!? お、おい、ウィンリィ…」

「これからここ片付けてお皿洗うから! ご飯作って貰ったんだから台所の片付けくらいあたしにさせて!」

 「なん……」



脈略のない話に目を瞬く。

確かにテーブルの上にはまだ二人分のコーヒーカップが残ってるし台所にも夕飯の食器があるが、話が唐突過ぎる。



「いいから、エドはお風呂先に入って! もう夜も遅いし! その後、片付け終わったらあたしも入る、から…っ」

「ウィン……」

「おねが、い……」



消え入りそうな声に首だけ振り返ると、俯いて俺の背中を押すウィンリィのつむじの横からちらりと見える耳が赤いのが分かる。

それで漸く理解した。


───ああ。こいつも同じなんだ。


俺と同じように緊張して、時間を欲している。

ロックベル家の台所の片付けも俺よりウィンリィの方が手際がいいのは当たり前で。

風呂もこいつの方が長風呂だし、その提案は互いに気持ちを落ち着かせる上でもベストと言えるだろう。

こんな時でも妙にしっかり者で合理的なところが実にウィンリィらしくて俺は思わず口元を緩めた。

手料理を振舞えなかったと落ち込んだかと思えば、俺の出生のあれこれや不安を俺ごとあっさり受け入れて。

本人が自覚している以上にウィンリィは女らしくもあり下手な男より漢らしくもあるが、

全部含めて器が大きいというのが一番近いのかもしれない。



「……分かった。悪いけど、台所頼むな。風呂出たら声掛けるから」

「…ん」



ここで反論する意味はない。

去り際にぽんとウィンリィの頭に左手を乗せ、そのまま軽く手を振ってリビングを出る。

言葉にできない想いをこうやってウィンリィの頭を撫でる事によって伝えるようになったのはいつからだろうとふと思った。

覚えている限り随分昔から……おそらく5、6歳くらい。ウィンリィが自分にとって特別だと気付いた頃からだ。

あれから何回こうやっただろうか。

本当なら口で言ってやるべき言葉も言えない不器用な俺をウィンリィは嫌がるでもなく、いつもただ大人しく撫でられていたっけ。

時にはくすぐったそうに。時には微笑んで。時には涙を堪えて。

俺達は幼馴染から恋人へ…本日晴れて正式に婚約者へと変わった訳だが、昔から何も変わらない事もある。

そして。

ほっと小さく息を吐いたウィンリィを背に、俺は着替えを取りに客室へと足を向けたのだった。





****







───俺達の約束の日。約束の時間まで、あと2時間。








****





午前0時の時計の鐘が鳴って、そろそろ5分が過ぎるだろうか。

いや、もっとか? それともまだ3分くらい? いいかげん時間の感覚が分からなくなってきた。

寝る時はいつも洗いざらしで肩に垂らしたまま放置している髪も、

嘗て俺がロックベル家で利用していた客室でじりじりと時間が過ぎるのを待っている間にいくらか乾いてきたので

また頭の後ろで1つに束ねてあるが、がしがしと髪ごと頭を掻き毟りたい衝動にかられる。

持参した寝巻き代わりのシャツにスウェットパンツ、右手だけ手袋を嵌めた姿でウィンリィの部屋の扉の前で立ち尽くしたまま、

俺はぴくりとも動けないでいた。

………………。


……………ああそうだよ、ヘタレで悪かったな!!!


誰に言い訳するでもなく心の中で叫ぶ。

心底呆れたような弟の顔やスカして鼻で笑う元上司の顔が脳裏に浮かぶも、こればかりは対抗心や反抗心で動けるもんじゃない。

俺とウィンリィの意思が全てだ。

そう。俺はとっくに決まってて。だからここに居て。後はウィンリィだけで。

……いや、違う。ウィンリィだけに最後の選択を押し付けるのは卑怯だ。

そもそも最初に18歳なんて区切りを作ったのは俺だ。

ウィンリィは俺の我侭に付き合ってくれたに過ぎない。

今まで待ったのだから、待たせたのだから、体調とか関係なく今日その気になれなかったとしてもウィンリィは全然悪くない。

いっその事、ここで俺の方から「今日はやめよう」と言う事だってできる。

18になっただのプロポーズ成功だの言ってもきちんと結婚式を挙げる前に手を出すのも……と思わないでもない。

ここで俺がウィンリィに一声掛けて客室に引き返せば、お互い心安らかに眠れるだろう。


ってだから何を今更言ってんだ!! 馬鹿だろ俺!!!


本気で情けねぇ。

ここに来てまだウィンリィに拒絶されるのを怖がってる。

同時に、本当の意味でウィンリィの全てを手に入れてしまうのも怖がってる。

こんな俺がウィンリィを汚してもいいのかという自問自答は尽きない。


────それでもやっぱり。俺は、ウィンリィが欲しい。


目を瞑り、大きく深呼吸して。




───コンコン。




やっとの思いで扉をノックする。

軽く叩いただけなのに、無意識のそれが右手の機械鎧だったせいか夜中のひんやりした空気の中でやけに大きく重く響いた。

もしウィンリィの返事がNOならばここで引き返すつもりで頭の中でゆっくり10を数える。

こいつの性格ならば断る時は曖昧にせず、ちゃんとはっきり口で言うだろう。

だが、ノックに対しての反応はない。

部屋の中は静まり返っていてかさりとも動く気配がなかった。



「……ウィンリィ? 入る、ぞ」



まさか、もう寝てしまったのか? 爆睡中?

ウィンリィが風呂に向かったのは客室にいた俺にも足音で分かったが、まだ風呂から出てない…って事はないよな?

第三の可能性に気付いて内心途方に暮れつつ、ノックした右手でそのままドアノブを握る。


───軽く軋んだ音を立てて鍵の掛かっていなかった扉はあっけなく俺の侵入を許し、再びガチャリと閉じた。


……ウィンリィが常日頃、自室の鍵をまず掛けないのは知っていた。

「自分の家なんだから必要ないでしょ、面倒だし」というのが彼女の持論で。

旅から帰った直後、俺やアルが一緒に住んでいた頃も全くお構いなしで着替え中でも夜でも鍵全開だったから

少しは警戒しろと何度叫びそうになったか分からない。

……よくよく思い起こせばウィンリィが部屋の鍵を掛けるのは年に1回…俺とアルが旅に出た頃からは2年に1回あるかないか。

俺の知る限り、俺と大喧嘩して部屋に引き篭もる時くらいだった気がする。

昔は錬金術でムリヤリ開けようと思えば開ける事も可能だった訳だが、

それを分かっていて敢えて鍵を掛けるウィンリィに対して強硬手段に出る事はできなかった。

その頃の俺はウィンリィに対して何もしてやれないのを自覚していたから。


───だが、今の俺はあの頃と違う。

こうしてウィンリィの部屋に夜中に入る事が出来る。

ほんの少し前までは考えられなかった事だ。



が。



「…………………………何やってんだ、おまえは」



女の寝室に足を踏み入れて早々にムードの欠片もないマヌケな質問を発した俺は多分、間違ってはいない。



「だ、だって─────!!」



部屋の奥の鏡台に置かれたランプの淡い光だけが光源の、薄暗い部屋で。

後ろの壁に背中をくっつけた状態でベッドの上に座り、

巨大なミノムシかクロワッサンのように毛布で何重にもぐるぐる巻きになっている『物体』が情けない声を上げる。

どうやら自分で自分の身体に毛布を2枚3枚と厚く巻き付けたようだが、

顔から上しか出てない状態でこちらを見上げるその姿はガキの悪ふざけ…というよりジョークにしか見えない。

これだけ絡まってるともう自力では立つのも解くのも難しいだろう。



「何かの仮装か? それとも俺、遠回しに拒否られてる? そこまでしなくても嫌ならそう言ってくれれば引き下がるぞ」



あまりに意表を突かれたせいか、一気に緊張が解けてしまった。

脱力して苦笑するしかない俺に、慌てたように辛うじて動く首をぶんぶんと振るウィンリィ。



「ち、違うのそうじゃなくて! 嫌じゃない、嫌じゃないけど、は、恥ずかしくて……っ」

「………え」

「ガーフィールさんが買ってくれたランジェリー、初めて着たけどやっぱり似合わないというかガラじゃないというかっ」

「…………………」

「絶対、エド笑うもの────!!」



薄明かりの中でも分かるくらい顔を真っ赤にしたウィンリィが叫ぶ。

ベッドに座って男なら簡単にノックアウトされるだろう上目遣いでこちらを見上げるものの、顔から下はミノムシのままで。



「だからあたし……ってきゃああ!?」



おまけに叫んだせいかバランスを崩してボテッとベッドに頭から突っ伏して。

「ぷぎゅっ」と潰れたような小さな悲鳴が上がって。



「ぶっ……ぶわははははははは!!」



これで笑うなと言う方が無理な注文だろう。



「や、やっぱり笑った────────────!!」

「そんな事、言ったって、おま……っ」



浜に打ち上げられた魚みたいにバタバタしながらこっちを睨まれても、迫力も何もあったもんじゃない。

ったく、どれだけ俺を笑わせるつもりなんだこいつは。

2時間と少し前にも大笑いした覚えがあるが、こいつは俺を笑わせる天才なのかもしれない。

いつだって俺の予想の遥か上を行ってくれる。


本当に────ウィンリィと居ると退屈しない。


ひとしきり笑ってやっと落ち着いて。

次に俺は、むくれてぷいと顔を背けたウィンリィの転がるベッドに足を向けた。



「……だから見せたくなかったのよ……って、エド!? 何を」

「ん? まだ実物見てねーし。これ解かないとおまえも動けないだろ」

「そうだけど! え、えええ!?」



決して広いとは言えないシングルベッドに膝立ちで這い寄り、ウィンリィの身体を覆う毛布に遠慮なく手を掛ける俺にウィンリィがうろたえる。

二人分の体重を受けてベッドがぎしりと鳴った。



「ほれ。ちょっと足浮かせろ。こっちの端をそっちに回して……お、これはこっちか」

「だからあの、恥ずかし…」

「でも嫌じゃないんだろ? 鍵開けといてくれたし」

「うっ」



さっきの馬鹿笑いとは違う顔でにっかりと笑ってみせると、ガチガチに身体を強張らせていたウィンリィが真っ赤な顔で言葉を詰まらせる。

羞恥心からか俺から目を逸らすも、反論はない。抵抗も、ない。

己の身体を隠すように手足を縮こまらせてはいるが、されるがまま大人しく俺に毛布を剥かれていく。

……ああ俺ってば単純過ぎる。

ついさっきまで自分の方こそ緊張と不安でガチガチだったくせに、今は何もかも嬉しくて仕方ない。

ここ最近は多少気をつけるようになってくれたものの、昔から無頓着というか無防備というか男に対して警戒なさ過ぎるというか

下着とそう変わらない目のやり場に困るような薄着で家中うろうろするのが日常茶飯事だったのに

こんな可愛い面も持ち合わせていた婚約者が愛しくて仕方ない。



「よし、終了」

「うう…」



分厚い障害をどうにか取り払ってベッド脇に追いやると、ランプのオレンジ色の淡い光が露になったウィンリィの白い肌を艶かしく映す。

目を逸らしたままシーツの上に膝を立てて座り、両腕で胸元を隠すように肩を抱く姿はいつものウィンリィからは想像もつかない。

そのままでも充分そそられる光景ではあったのだけど。



「……ウィンリィさん。それじゃよく見えないんですが」

「……見えなくていい」

「それじゃ勿体無いだろうが」

「勿体無くない」

「どうせすぐそれも脱ぐし?」

「そ、そういう事を真顔で言うな─────!」



ここまで珍しい反応をしてくれると、苛めたくなるというのが男の性で。



「往生際が悪い」

「ひあ!?」











一瞬の隙を逃さず、ウィンリィの両手首を掴んで胸の前から引きはがす。

そのまま後ろの壁に手を縫い止めるように固定すると、本人曰く「似合わない」その姿は呆気なく俺の目の前に晒された。



「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………だ、黙ってるくらいならいっそ笑ってよ馬鹿ぁ────!!」



間近で見ると予想以上にキた姿に固まってしまった俺に、ウィンリィが半泣きのような声を上げる。

見られるのを散々嫌がっていたうえ、じっと凝視したまま石化されたらそりゃ堪ったものじゃないだろう。



「…あー……、その、ごめん、腕痛かったか?」

「……謝られるともっと居た堪れない……あたしが往生際悪かったんだし、痛くはなかったからもういいわよ……」



慌ててウィンリィの手を解放しつつも、その肢体から目が離せない。

こいつが同年代の女の中でもスタイルがいい方だというのはなんとなく分かる。

作業着を腰で縛って上はチューブトップ一枚なんていう無防備な格好を見慣れていたから、大抵の事では驚かない。

それでも、僅かに透ける真っ白でフリフリなその下着…寝巻きか?

どっちに分類されるか分からないヒラヒラの短い上着と隙間からちらちら見える健康的な肌は俺の理性を直撃した。

洗濯物が干してあるのは何度も見た事あるが、確かにウィンリィが普段好んで身に着けている物とは次元が違う気がする。

いかにも上質そうな光沢のある薄い布地にレースに大きなリボン。

女の寝巻きの種類なんて俺にはさっぱりだが、セクシーさと可愛らしさ、どちらが勝るとも劣らない。

布から溢れんばかりの胸元に控えめに輝く、贈ったばかりのベビーリングのネックレスが余計に俺を興奮させた。

諦めたようにがくりと肩を落としたウィンリィの髪がさらりと流れる様子にすら、ごくりと咽が鳴る。

もう酒もだいぶ抜けた頃合だろうに、全身の血液が沸騰するような感覚にくらくらした。


……いやまだダメだ。怖がらせるながっつくな落ち着け。

まずは冷静に冷静に。平常心平常心。



「えー……と。それは………もしかして、俺の為…に?」

「べ、別にそういう訳じゃ! ガーフィールさんが修行頑張ったご褒美にってプレゼントしてくれたから、使わないと悪いなって!」

「そういやさっきも言ってたな。……ってちょっと待て。それ一緒に買いに行ったのか? あの人が選んだ?」



言いながら思わず眉を顰めた俺に、ウィンリィがきょとんとした顔を向ける。

一度見られたら吹っ切れたのか、もう敢えて身体を隠そうとはしない。

そういうところは相変わらず漢前だ。

……ベッドの上でお見合いのように二人膝を突き合わせて座る様子は傍から見れば相当オカシイかもしれないが。



「? なんで? 違うわよ。お遣い頼まれてお店に行ったら店員さんに好きなの選んで下さい、ガーフィールさんからですよって言われたの。

10枚くらい候補も挙げてくれたけど、決めたのは店員さんとあたし…かな。勿論後でガーフィールさんにお礼は言ったけど。どうして?」

「あーいや………流石はガーフィールさんだな、と」

「ほんとガーフィールさんって凄いわよねぇ。あたし、絶対敵わないって思うもの。あ、でも、機械鎧はいつか必ず追いついてみせるんだから!」



腕を組んでうんうんと一人納得するウィンリィは気付いてないようだが、俺は彼女の師匠に心の中でもうひとつ感謝した。

───色恋に疎い俺だって話に聞いた事くらいはある。

男が女に服…とりわけ下着類をプレゼントするのは、脱がせる為だと。その為に選ぶんだと。

「可愛い男の子が好き」と自他共に認めるガーフィールさんに限ってはその意図は皆無だろうが、

別の男が選んだ服を惚れた女が身に着けているって状況は……多分、女が想像する以上に男にはキツイ。

よってこれは自分がいない方がウィンリィが選び易いだろうという配慮以上に、俺への配慮も含まれているのだろう。

男心と女心の両方を備えたあの人にはウィンリィだけでなく俺も絶対勝てないような気がした。

………今度会う時にはあの巨体に迫られて根堀り葉掘り訊かれたり脅されたりしそうだが、それは今は考えない事にする。



「…っくちゅん! ご、ごめんっ」



その時。

ウィンリィのクシャミが冷えた室内に小さく響いた。

リゼンブールは北や中央に比べると比較的暖かい地方とはいえ、季節は冬。

さっきまで毛布ぐるぐる巻きだったウィンリィにしてみればその薄着姿はさぞ寒いに違いない。

夜中にこのまま二人で向かい合ってお喋りしていても風邪をひくだけだろう。



───何より、俺も限界だった。



「…っ、エド!?」



両腕を伸ばし、正面から膝の間に抱えるようにしてウィンリィを引き寄せる。

呆気なく腕の中に納まった柔らかな身体は僅かに震えていた。

薄い布地を通して伝わる鼓動が速い。

洗い立てのシャンプーの香りのする長い髪を掻き分けるように顔を埋めると、ウィンリィがビクッと緊張したのが分かる。

今はこいつの顔が見えず、俺の顔も見られないのが幸いだった。

そのままふう……と大きく息を吐く。



「…ごめんな。機械鎧、当たるとこ硬くて冷たいだろ。やっぱ完全に触れないようにするのは無理みたいだ」

「…あたしの作った腕よ、これくらい平気。すぐに馴染むわ」

「…そっか」

「もしかしてずっと気にしてた? だから長袖シャツで右手だけ手袋してたんだ。ご飯の時は手袋もしてなかったのに珍しいとは思ったのよね」

「そりゃ…な。手袋しない方がいいのかとも考えたけど、どっちにしてもおまえにとっちゃ色々ツライだろうし」

「馬鹿ね、それも含めてエドでしょ。ツライと思うくらいなら最初からプロポーズも受けないわよ」

「…ごもっともです」

「分かれば宜しい」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「………エド?」

「…すげぇ、似合ってる」

「え?」

「俺の為でなくても、今日、着てくれたのが嬉しい。……リボン、覚えてたんだな」

「っ!! あんたって………時々、すっごいズルイわよね」

「それでも俺に惚れてるんだろ?」

「そうよ。あんたもね」

「おう。ベタ惚れだ」



今度こそ強く、強く、互いの存在を確かめるように抱き締める。

冷えた体温が混じり、徐々に熱を帯びていく。緊張が解けていく。

やがてどちらからともなく目を合わせて笑った。



初めてで緊張しているのも不安なのも同じ。

だったら一緒に少しずつ慣れればいい。

一緒に少しずつ覚えていけばいい。

俺達にはこれから先も長い長い時間がある。



「───18歳の誕生日おめでとう、エド。あたしを全部、貰ってくれますか?」

「喜んで頂きます」



久しぶりに会ってからまだまともにキスもしていなかったのに、今頃になって気付く。

約2ヶ月振りのウィンリィの唇はとてつもなく甘く感じた。

こんなに俺はこいつに飢えていたんだと実感する。

何度も何度も、啄ばむようなキスはやがて今まで経験した事がないくらい深いキスへと変化して。







────俺は愛しい女をそっとベッドに押し倒したのだった。




























やっとここまで来たぜイェア─────────!!!(エドよりも管理人の叫び)
大変長らくお待たせしました。宣言通りこれより先は裏行きになります。
18歳未満高校生も立ち入り禁止。問い合わせ不可。自力で見つけられない方は大人とみなしません。
とはいえ、所詮は管理人の書く物なので大したエロはないですきっと。
今までも未来エドウィンで色んなプレイ(…)書いて来て、大体は網羅したしなー。
あーでも右手機械鎧、左脚生身ってパターンは初なので敢えて言うならそこが焦点になるかも。

ちょっと本文でもフラグ立てましたが、右手機械鎧のままって厳しいと思うのよね。足が機械鎧よりも。いや真面目な話。
私が思春期エドウィンでエロやらないのはエドの性格的にアルの身体取り戻すまでは手を出せないだろうってのが一番だけど、
「機械鎧でヤるのはエドはいいけどウィンリィが大変。可哀想じゃんか!!」というのも大きな理由だったりします。
前に裏でも少し語った事あるけどね。
服着たまま、手袋したままってのもできない事はないしそういう薄い本も巷に溢れていますが、
どっちにせよ衛生的にどうだろうなぁ…って無駄に考えちゃうんだよなぁ。
初めてで着たままってのも夢がないっつーかオイオイっつーか。冬なら尚の事、脱いだら脱いだで金属の冷たさで死ねるでしょ。
糞真面目で現実主義でウィンリィ大切で仕方ない兄さんならそれに気付かない訳がない。
何より、機械鎧=罪の証でもあるしね。それでウィンリィに触れていいのかっていう。
だから直前でもウダウダ葛藤してるのですよ乙女兄。この話以外でも地味に伏線というか無意識の表れもあったりなかったり。
16歳の最初の宣言の時は兄さん無我夢中だったので夏場の薄着でぎゅーしちゃってますが(※回想で匂わすのみ)、
その次の半年後は冬場でコート着用だったからね。その後は素面で正面からはぎゅーらしきぎゅーもしてない…筈。多分。
正直、エドの誕生日が夏だったらまだ良かったのにー!…ってこのシリーズの終着点を決めた時から何度思ったか。
けどまぁ冬生まれ設定は覆らないのでそこはもう兄さんに頑張って貰うしかないんだけどさ。頑張れ兄さん。頑張れウィンリィ。

他にも豪華ディナーの理由入れたりガーフィールさんやらリボンやらプレゼントやらちょこちょこ伏線回収してますが、
昔過ぎて内容忘れている方も多いと思うのでお暇な時でもまた読み返してさると嬉しいです。
後付けじゃないよーちゃんと回収するつもりだったんだよー。
ew52とew54の挿絵でエドのシャツの色違うのは単に塗り間違えただけだけどな!(大アホ)
エドがウィンリィの頭ぽんは原作でも凄い好きな動作なのでここに来てやっと入れられて良かった。

…んで。次回は裏になる訳ですが、それが1本で終わるか2、3本に続くか……それはまだ分かりません。
エド視点ウィン視点入り乱れたり漫画とSS混合になる可能性も無きにしもあらず。
元々、ここに到るまでの話が書きたかったシリーズなので本番自体はあんまり詳しくするつもりはないんだけどね。
ただ、表がコレで終わりってのも尻切れトンボっぽいので最後に最低でも1本は表に戻って来る予定です。
朝チュンその後、みたいな感じになるかな。裏読まなくてもちゃんと話は繋がるようにしますよ。
先の長い話ですが、のんびりお待ち下さいませ〜。


おまけ設定集。→
今回、これ描いてた時が一番楽しかったのは秘密。
パンツの両端もリボンにするかぎりぎりまで悩んだけど、ウィンリィさんにそこまでの勇気はなかったようです(笑)。




(12.06.12.UP)