※これはエドウィン乙女兄さんシリーズです。EW52の続き。





























「………うー………」



約1ヶ月半振りの我が家の扉前で、あたしは大きな荷物を両手に提げたまま一人唸った。

冬の空はすっかり日が落ち、頭上には星が瞬いている。

お腹が小さく鳴ったのは健康な証拠。

誰も聞いてないのが分かっていても、思わず頬が赤くなった。

バタバタと汽車を乗り継いだせいでお昼は小さなカップケーキ1つしか食べられなかったのだから仕方ないとはいえ、

こんな時でも色気より食い気なのかと我ながら呆れるやら感心するやら。

そして咄嗟に脳内に浮かんだ「色気」という単語にまたしても顔が熱くなる。



「何やってんだろ、あたし…」



以前電話で話した予定通りなら、エドはもうこっちに帰ってる筈だ。

おそらく夕飯はばっちゃんも一緒にうちで食べる事になるだろう。

今頃、ばっちゃんの手伝いでお皿を食卓に並べながらあたしの帰りが遅いとぶつぶつ文句言ってるかもしれない。

エドがうちでご飯を食べる事自体はいつもの事だし何の問題もないのだけど、今日は少し勝手が違う。

──どんな顔をしてエドに会えばいいのか分からないのだ。

明日にはエドは18歳の誕生日を迎える。



(あの時の約束が有効なら、あたしはその時……)



考えれば考えるほど顔が熱くなってしまい、玄関の扉を開ける事ができない。

当初の予定通りエドよりあたしの方が先にリゼンブールに帰っていたらまだほんの少しは心の準備ができていたかもしれないが、

過ぎた事はどうしようもなかった。

旅行鞄の奥底に隠すように詰められた「ガーフィールさんからのプレゼント」を必死に考えないようにしても、

それは何の解決にもならない。

余計な考えを振り払うべく、ぶんぶんと頭を左右に振ったところで。



「………何やってんだ、おまえ」

「ひゃ!?」



呆れたような声と同時に、ガチャリと扉が内側から開けられた。

頭上からあたしを見下ろすのはあたしをここに足止めしていた当の本人。

袖を捲くったワイシャツにスラックスという旅帰りの定番スタイルの上に何故かエプロンまで着けている。



「え、あ、な…!?」



動揺のあまり「なんで」という言葉さえ出ずに目を瞬くあたしを余所に、

エドはひょいとあたしの両手から旅行鞄と工具箱を奪い取った。

その横からするりと出てきたデンが激しく尻尾を振りながらあたしの周りをぐるぐる回る。



「デンが廊下でうろうろしてたからもしかしてと思ってさ。つーか両手塞がってたなら一旦下に置くなり呼ぶなりしろよ」

「え、あ…ありが、と…」

「いいから、さっさと入れ。寒かっただろ」

「う、うん…」



重い荷物を軽々と運ぶエドの背中に今更ながらこいつは男なんだと感心しつつ、

実はアナタにどんな顔したらいいのか分からなくて立ち尽くしてましたとも言えず。

デンの頭を撫でながら慌てて中に入って玄関の扉を閉め、エドに続いて廊下を歩く。

奥の台所の方からはふんわりと温かい空気と美味しそうな匂いが漂ってきていた。



「あー…そだ」

「?」



ふと、前を歩くエドが振り向いた。

一瞬の間を置いて金色の瞳があたしを捕らえる。



「おかえり」

「あ………うん、ただいま!」



照れたように僅かに戸惑って。

それでも柔らかな笑みと共に掛けられた言葉に、さっきまで悩んでたのが嘘のように自然とこちらも笑顔になった。

すぐにまた背中を向けてしまったのがエドらしいけど、昔は「おかえり」と「ただいま」を言うにも逆の方が圧倒的に多かったから

エドからそんな風に言われるのがなんだかくすぐったい。

ラッシュバレーでの修行生活を終えた今、本当にリゼンブールに帰ってきたんだなぁと改めて思う。

生身の身体を取り戻したアルと一緒にここに帰ってきた時のエドもこんな気持ちだったんだろうか。



「とりあえず手ぇ洗って来いよ、皿並べとくから」

「ばっちゃんは? ご近所に回覧板でも持って行ってるの?」



荷物を部屋の隅に下ろして台所の方に向かおうとするエドに、コートを脱ぎながら問い掛ける。

玄関まで出て来ないのは鍋から手が離せないからというのも考えられるが、

さっきから物音も声もしないところを見るとばっちゃんがこの家に居ないのは明らかだ。

もしばっちゃんが外科医として急患で出掛けたのなら、

場合によってはあたしも手伝いに行かなければならない可能性があるからエドがすぐにそう伝える筈。

何の気もなしに発した軽い質問だったが、ぎこちなく振り返ったエドは困ったように首筋を掻いた。



「あー……その説明も後な。長くなるかもしれないから先に食おう」

「そう? じゃ、手洗ってくるわね。デンのご飯は終わった?」

「ああ、さっき食い終わって皿も片付けた。ばっちゃんに頼まれてたしな」

「あんたが用意したの? デン、お腹壊さないといいけど」

「失礼な! 俺の料理の腕は犬にも通用するぞ!?」

「はいはいお腹が丈夫で良かったわね、デン」

「ワン!」

「おまえらなぁ!」



勿論、長年この家に出入りしているエドがデンのご飯を用意するのはこれが初めてという訳じゃない。

だから安心して言える冗談なのだが、律儀に反応するエドがおかしくてくすくす笑いながら洗面所に向かう。

食事と出迎えを済ませて満足したのか、あたしと一緒に部屋を出たデンはそのまま廊下の隅に向かい、

毛布が敷かれたお気に入りの場所に腰を下ろして早くも寝る体勢に入っていた。

すっかりおばあちゃんになったデンはまだまだ元気で現役そのものだが、睡眠時間は昔よりずっと延びたように思う。

兄弟のいないあたしにとってデンは姉妹みたいなものだから、できる限り長生きして欲しいものだ。

先日老舗メーカーから出た機械鎧の新素材をデンの機械鎧にも応用できるかもしれないと頭の中で図面を描きながらリビングに戻ると、

エドがテーブルにばたばたと皿を置いているところだった。

大きなサラダボウルにはマッシュポテト、トマト、ブロッコリー、オニオンスライス。

その隣に手作りらしいドレッシングが2種類。

薄切りバケットを使ったサンドイッチはレタスとハム、卵がたっぷり。

大皿にもこんもりとチキンが盛られていた。



「なんか…やけに豪勢ね。ピクニックみたい」

「暇だったんで時間潰しにな。材料はあったし」

「ってこれエドが全部作ったの!?」



デンのご飯だけでなく、今日の夕飯までエドが作ったとは予想外だ。

思わずまじまじとテーブルの上の料理を見つめ直してしまう。



「まぁな。あと、ばっちゃんが作っといてくれたラム肉と野菜のスープ、

そろそろ帰ってくる頃だと思って温めてたんだ。すぐ器に移すから待ってろ」

「何か手伝える事ある?」

「そうだな……ワインあるけど、飲むか?」
,
「エドはどうするの?」

「んー……ばっちゃんがせっかく用意してくれたし、少し飲むか」

「じゃ、あたしも。棚にあるのを出してグラス用意したらいい?」

「おう」



ワインの飲酒可能年齢はクリアしてるが、あたしもエドも普段は殆どお酒を飲まない。

たまに飲むのは美味しいとも思うけど、翌日の仕事に差し支えないように飲まないようにしていると言った方が近いか。

数ヶ月前にエドが酷く酔っ払って別の意味で危険な状態になってしまったのも多少は関係あるかもしれない。

だけど今日のあたしは少しだけ飲みたい気分だった。飲まなきゃ落ち着けないだろうという予感もあった。

口には出さないけど、それはエドも同じなんだろう。

ばっちゃんが秘蔵のお酒を仕舞ってる台所の棚の手前に分かり易く置いてあったワインのボトルを取り出し、

グラスと栓抜きと一緒にテーブルに置く。

ついでに重ねてあった取り皿やスプーンを椅子の前に並べるがそのどれもが2セットしかなく、

やはりばっちゃんはこの夕餉に参加しないようだった。

回覧板くらいでそんなに時間が掛かる筈もないし、何処か遠出でもしてるのだろうか。



「ほれ。熱いから気をつけろよ」

「ありがと」



エドが持ってきてくれたスープがテーブルに並び、向かい合わせに席に座る。

エプロンを外してワインの栓を抜いたエドが注いでくれたグラスを受け取ると、どちらからともなくグラスを掲げた。



「えーと……まずは改めてラッシュバレーでの修行お疲れ様、な」

「あはは。あんたもお仕事とお料理お疲れ様!」

「おう」



なんだか、これだけの会話がくすぐったい。

口に含んだワインは程好い辛味が絶妙で、食欲をそそった。



「いただきます」



目線で促され、卵のサンドイッチを頬張るとスパイスと卵の甘さが口の中に広がる。

バケットの方にも下味を付けてあるようだ。



「美味しい!」

「そりゃ良かった。デザートにプリンもあるぜ。おまえ、好きだろ」

「それもエドが作ったの!?」

「悪いかよ、暇だったんだ。旅の荷物整理するのとエプロン取りに一旦あっちの家に戻ったけど時間はたっぷりあったしな。

……この前まで下宿していたアエルゴの研究員のおっさん家に8歳の娘さんがいてさ。

仕事の合間にせがまれて何度もおやつを作るうちに分量まで覚えちまった」

「全然悪くない、凄いじゃないの! あんた、いいお父さんになれるわねぇ」

「そ、そうか……」



何故だか頬を赤くして目を泳がせるエド。

一呼吸置いて、あたしもさっきの発言が妙に意味深だった事に気付いて顔が火照った。



「別に深い意味はないわよ!? 一般論として言っただけで!」

「分かってるよ!」



お互い墓穴を掘ってる気がしないでもないが、ここは敢えて気付かない振りをして食事に専念する。

スープは慣れ親しんだばっちゃんの味で勿論美味しいけど、手作りドレッシングのサラダもチキンも文句なしに美味しかった。

もしかしたらあたしが作るよりも美味しいかもしれない。



(……そうだった。実はエドって料理上手なのよね……)



器用でなんでも無難にこなすアルはともかくエドの性格を知る人は大抵驚くが、彼の家事能力は意外にも高い。

幼い頃に母を亡くし、最初の数年こそロックベル家から全面的に生活の支援を受けていたエルリック兄弟だが

どうやら錬金術の修行先で「これからの世は男も子供も家事くらいできて当たり前。働かざる者食うべからず!」と

一から徹底的に仕込まれたらしい。

もともと頭が良くて錬金術の実験もよくやっていたから、彼らにとっては料理や掃除もその延長なのかもしれない。

その後は状況によってうちでご飯を食べたり、兄弟二人で家事を分担したりといった生活だったが

修行時代の経験は今でも有効活用されているようだった。

エドの右腕の機械鎧も防水加工されているしデリケートな食材を扱う時はゴム手袋をすれば何の問題もない。

ただエドの場合、必要とあれば一通りの家事はこなせるのだが根がおおざっぱで無頓着なので

自分一人分だと食事も適当な残り物で済ませてしまったり研究に没頭しすぎて寝食を忘れてしまう事も多い。

監視役のアルがいないと、部屋もすぐに本の山で埋まってしまう。

よってあたしかばっちゃんに余裕がある時は栄養面を考えて強制的にロックベル家の食事に召喚したり

おかずのお裾分けを持参したり掃除洗濯の手伝いをしたりするのがここ2年ほどの慣例となっていた。

因みに食事の材料費についてはじゃがいも1箱、リンゴ1箱、牛肉ひと塊.…のように

兄弟が頻繁に差し入れしてくれるのでそれで少しお釣りが出るくらいになっている。

そんな訳でエドが料理できる事を知っていても、

あたしが彼のエプロン姿を見たり彼のちゃんとした手料理を食べたりといった経験は殆どないのだけど。



「なんていうか……複雑」

「あ? プリン甘過ぎたか?」



軽く右腕の調子の確認や互いの仕事の近況報告や共通の知人の話を交えて食事を終え、

デザートのプリンとコーヒーを堪能しながらも思わず出てしまった呟きにエドが反応して眉を寄せる。



「そうじゃない! カラメルの甘さとカスタードの相性も抜群で腹立つくらい美味しいわよ!」

「だったらなんで怒ってるんだよ」

「怒ってないわよ! 悔しいだけ!」

「はあ? 意味分からねぇぞオイ」



心底分からないといった様子のエド。

ほんとダメだあたし。エドを責めたい訳じゃないのに変に突っかかってしまう。

もしかしたら少し酔ってるのかもしれない。

あたしはゆっくりと頭を振ると、力なく笑った。



「……ごめん、八つ当たり。プリンも夕食も凄く美味しかった。エドが愛情込めて作ってくれたのも分かってる」

「お、おう」



愛情込めて、という言葉にエドが僅かにうろたえるが否定はない。

一昔前のエドならムキになって否定しただろうが、そういうところも成長したって事なんだろう。

もしかしたらエドはあたしが思ってるよりもずっと大人なのかもしれない。



「ただ、久しぶりにエドに会って。……もうあと数時間でエドの誕生日で。

できればあたしがご馳走作って、アップルパイも用意して、思いっきりお祝いしてあげたかったなぁって。単なるあたしの我侭。

……ごめんね。帰るの遅くなったのもあたしの都合だしせっかく作ってくれたのに、エドに嫌な思いさせちゃって」



あたしは機械鎧整備師だ。いつも機械に囲まれ油にまみれて仕事をしている。

指や爪は傷だらけだし重い鋼鉄を扱うせいで腕力も人並み以上にある。

好きで選んだ職業だけど、世間一般の女の子と比べて自分が全然女らしくないという自覚くらいはあるのだ。

そんなあたしが唯一エドにしてあげられる「女の子らしい事」はせいぜい家事くらいで。

だけどお互い仕事だ出張だと忙しくて故郷を離れている事が多くて、今回だって2ヶ月振りに会うのに

恋人の誕生日に逆に料理してご馳走して貰うって……曲がりなりにも彼女としてちょっと、いやかなり、情けない。



「……それ、違うくね?」

「……え?」



あたしの言葉に驚いたように目を瞬いていたエドが、ややあって口を開く。

その表情は至極真面目だ。

飲み終わったコーヒーカップを脇に避け、姿勢を正すエドに釣られてあたしの背筋も伸びる。



「おまえ、なんか勘違いしてるだろ。俺はおまえにご馳走作ってくれなんて頼んでねぇよ」

「それはそうだけど! 気持ちの問題というか女の子としての意地というか…」

「だからそれが違うって。誕生日だからとか、女だからとか、そういうのじゃなくてさ。

料理なんて作れる奴が作れる時にやればいいし、今日はたまたま俺の方が早く帰れたからやっただけだろ。

おまえが俺の誕生日を祝おうと思ってくれたように、俺も時間潰しだけじゃなくおまえが喜んで食べてくれたらいいなって気持ちはあった。

だからおまえが美味い美味いって食べてくれたのはすげぇ嬉しかったし、作って良かったって思ってる。

そりゃいつもはウィンリィやばっちゃんに作って貰ってばかりだけどさ。

だからって毎回作って貰って当然なんて俺はこれっぽっちも思ってねぇよ」

「それは分かってる! でも…」

「料理でも家事でもなんでも、できる事を協力してやるのが家族ってもんだろ。

……これから先もずっと、家族でいるつもりなら尚更な」

「………っ」



真っ直ぐに向けられた金色の瞳と、心持ち強調された家族という単語に息を呑む。

エドはそこで大きく息を吐くと、固まってしまったあたしに言い含めるように言葉を続けた。



「このタイミングで言うのもナンだけどさ。今夜、ばっちゃんは家に帰って来ねぇ。隣町の友達の家に泊まりなんだと。

帰りは明日の昼過ぎになるらしい。………で、ばっちゃんにはこれからもウィンリィをよろしく頼むって言われた」

「なっ…!? ちょっと待って、それって……」



この時間になっても戻らないばっちゃんにもしや今夜は帰らないのではと薄々予感はあったけど、

その言い方って明らかに別の意味を含んでない!?

ばっちゃんってばエドに何をどうよろしく頼んでるのよ!?



「ああ。ばっちゃんに『ウィンリィを俺に下さい』って言った。で、どうにかOK貰った。ひ孫ができても構わないってさ」

「─────!!!」



ガタタッとあたしの座っていた椅子が大きく鳴る。

辛うじて椅子から転げ落ちるのだけは防げたが、あまりの事に声が出ない。

いや本当に全くこれっぽっちも予想できなかった事態じゃないし結果としてそのつもりがない訳でもないけど、

それにしたって色々順番飛ばしまくってるよねあたしの意志が抜けてるよね!?

顔を真っ赤にして魚のように口をパクパクさせるあたしは傍から見ればさぞ滑稽だろう。

そんなあたしとは逆に、エドはやけに落ち着いた様子で苦笑を浮かべた。



「いいから落ち着け、ウィンリィ。この家の留守を頼まれたのは確かだから昔俺が使ってた客室に泊まる用意はしてるけど

保護者の許可が出たからって何も今すぐ強引におまえをとって喰おうなんて考えてねぇよ」

「喰っ……あ、あんたねぇ!! ていうかなんでそんなに落ち着いてるのよ、ヘタレエドのくせにらしくない!!」

「ヘタレ言うな!! 俺だって緊張しまくってたけど散々皆に弄ばれていいかげん吹っ切れただけだ!!」

「皆って…何それあたしのいないとこで一体どんな話してるのよ!?」

「だからそれをこれから説明するから一度落ち着け!!」



実際、互いにテーブルに乗り出さんばかりに声を張り上げても埒が明かない。

いっぱい訊きたいのをぐっと堪えて椅子に座り直すと、向かい側のエドもほっとしたように肩を下ろした。

すーはー…と互いに息を整える。



「……で。どういう事?」

「その前にウィンリィに言っておかなきゃならない事がある。

黙ってるつもりだったけど、ばっちゃんに話して踏ん切りがついた。やっぱりおまえにも知っておいて貰いたい。

その上で、俺でいいのかもう一度おまえに判断して貰いたい」

「……分かった。言ってちょうだい」



抑揚を抑えたエドの真剣な声に、こちらまで緊張する。

一体どんな重大な秘密を打ち明けられるというのか。

膝の上で握り締めた拳に知らず力が入る。



「───まず俺は、純粋なアメストリス人じゃねぇ。

親父は400年前に滅んだクセルクセス人の末裔で、賢者の石と融合していた。

だからその血を半分引く俺は普通の人間と同じように死ねないかもしれない。馬鹿みたいに長生きするかもしれない」

「うん」

「同時に俺は、自分の命を賢者の石に二度ほど変換した事がある。

その時はそれしか生き延びる方法がなかった訳だけど、それによって寿命が削られている筈だ。

だから俺は普通の人間よりも長生きするか、逆に短命になるか分からない。

どっちもあくまで可能性であって仮説の域を出ないけど、俺が普通じゃないって事だけは確かだ。

もし俺がどうもなかったとしても、俺の子供に影響が全く出ないとも言い切れない」

「うん」

「…………………」

「…………………」

「……………………うん、って。それだけかよ?」

「だって知ってたもの。クセルクセス人のお父さんの事も、賢者の石の事も」

「な─────────!!!!?????」



そういう返事が来るとは想像だにしていなかったのか、さっきのあたしの倍くらい目を丸くして大声で叫ぶエド。

ここが田舎で良かった。近所迷惑の心配しなくて済むもの……と

のんびり考える余裕があるのはあたしも漸く自分のペースを掴めてきたって事かもしれない。

いつの間にかエドと立場が逆転しているが、自分以外の人が焦ってると案外こっちは冷静になれるものらしい。



「な、な、な、なんでおまえが知ってんだよ!? ってか、俺じゃなかったらアルしかいねぇし!!」

「うん。アルが教えてくれた」

「………っ、いつ!?」

「えーと……あんた達が旅から帰ってきて、半月くらい経った頃かな」

「アルはなんて!? つーか、あいつも俺が命を賢者の石に変換した事は知らねぇ筈だぞ!?」

「アルはお父さんの事とあんた達がそのクセルクセスの血を引いてるって事を教えてくれただけよ。フェアじゃないからって。

命の変換って言うの? 賢者の石と寿命の事はあくまでアルの推測としてだけど、流石はアル、間違ってはいなかったみたいね」

「す、推測にしても! プライドと戦った時のはともかくバズクールでの事はアルも知らな……」

「あんたの左脇腹の大きな傷。あたしもアルも気付いてないとでも?

それが致命傷だったかそうでないかくらいは傷跡を見れば分かるわよ。あんたが言おうとしないなら尚更ね。

アルがハインケルさんに連絡とって裏は取れてるわ」

「……………………」



ばたり、と力尽きたようにエドがテーブルに突っ伏す。

どうやらこれがエドが隠していた全てだったようだ。

エドと「ただの幼馴染以上のお付き合い」をするようになって半年ばかり過ぎた頃にも

こんな風にエドと話し合った事があったけど

今度はどんな恐ろしい真実が飛び出すのかと内心びくびくしていただけにあたしはそっと胸を撫で下ろした。

少しの間を置いて、テーブルに突っ伏したまま顔を上げないエドのアンテナが小さく揺れる。



「………半月って言ったよな。こっち戻ってから」

「ん?」

「アルに聞いたの」

「あ、うん。それくらいだったと思う。エドがばっちゃんのお遣いで外に出てた時、アルが教えてくれたの。

『どうせ兄さんは自分から言おうとしないだろうから』って」

「……最初から全部知ってて、俺の…受け入れてくれてたのか。あれから、ずっと……」

「だって、エドはエドじゃない。何を今更構える必要があるってのよ。

寿命だってあたしもいつ病気や事故で死ぬか分からないわ。条件は同じでしょ」



そりゃあ、今では伝説の御伽噺のように思われているクセルクセスの末裔だとか賢者の石とかいきなり言われて

全く驚かなかったと言えば嘘になるけど。

エドもアルもあたしも同じ、ただ一人の人間だ。それはずっと一緒に育ってきたあたしが一番よく知っている。

ハーフだからってあたし達の関係の何が変わるってのよ。

寿命? 子供? そんなのその時になってみないと分からないでしょ。考えるだけ無駄だわ。

そう断言したら、『ウィンリィならそう言うと思ってたよ』とふわりと笑ったアル。

その表情に、あたしはリオールの街で偶然会った二人のお父さんを思い出した。

うんと小さい頃にも何度か会った事がある筈だけど、それもほんの数回で10年以上も昔の事で、

うちの居間のボードに隠すように貼られていた写真でしか顔も覚えていなかった二人のお父さん。ホーエンハイムのおじ様。

久しぶりに再会した時、おじ様はとても優しそうな顔で笑って『ウィンリィちゃんか、綺麗になったね』と言ってくれた。

『息子達を今まで有難う』と微笑んでくれた。

『ピナコに聞いたよ、エドワードの整備師なんだってね。

あいつは意地っ張りだからなかなか本音を言わないだろうが、あいつの分も有難うと言わせて貰うよ』

そう言って、ほんの小娘でしかないあたしに丁寧に頭を下げたおじ様。

あの時あたしはおじ様の出生もホムンクルスとやらを倒す計画の全容も知らなかったけど、

それでもおじ様がエドとアルを、トリシャおば様を、本当に愛しているのはよく分かった。

ふわりと笑ったアルの表情は微笑んだおじ様にそっくりで、濃い蜂蜜色の金髪に金色の瞳が凄く綺麗で、

ああやっぱり親子なんだなぁと妙に感心したものだ。

それをアルに言うと、『兄さんの方が色々父さんにそっくりだけどね』って二人してまた笑ったっけ。

そのエドにどさくさ紛れみたいな勢いで告白されたのはそれからまた半月ほど経った夏の始めの頃だった。




「……ぷっ…くっ……くくく……っ」

「……エド?」



押し殺したようなくぐもった声に我に返ると、突っ伏したままのエドの背中が小刻みに震えている。

やがてその声は我慢できないといった様子で大きくなり、ぶはっとテーブルから顔を上げたエドはそのまま大声で笑い出した。



「え、あたしなんか変な事言った!?」



エドのあまりの変化に今度はあたしの方が慌ててしまう。

だけどエドは笑い転げたままぶんぶんと首を振った。



「ちっ…ちげー…よ…っ、ぶく…っ、あんまり予想外っつーか予想通りっつーか、くく…っ、ほんと、俺の周りの女って…っ」

「……それ馬鹿にしてんの?」

「だからちげーって、馬鹿は俺……っ」



お腹を押さえてひーひー呻きながら、エドが椅子からゆっくりと立ち上がる。

何処へ?と思う間もなくテーブルをぐるっと廻り込んできた彼はあたしの座る椅子の後ろに立つと、

椅子の背もたれごとあたしの肩を抱き締めるようにがしっと背後から腕を回してきた。



「え、エド!?」

「…………有難う、な。おまえに惚れて良かった」

「………………………」



はっきりと噛み締めるように紡がれた言葉。

な、なんだか物凄く珍しい台詞を久しぶりに聞いた気がするんですが。

改めて言われると照れてしまってなんて返せばいいのか分からない。

気付けばもう笑い声はしなかった。

顔は見えなくても、静かにあたしの肩を抱き締めるエドの体温が温かい。



「………つまり、そういう事なんだよな」

「……え?」

「俺は俺でしかなくて。それ以上でも以下でもなくて。ウィンリィも同じだ。

女だからとか、そんなの関係なしに自然体でいて欲しい。そのままのウィンリィでいて欲しい。

気を張らずに、頼れる時は俺に頼って欲しい」

「あ…………」



やっと、エドの言葉がすとんと胸に落ちる。

────エドは気付いていたんだ。

あたしが女の子らしくない自分にコンプレックスを持っていた事を。

だからムキになって「彼氏の記念日に女の子らしくご馳走を作ってあげる」事に拘ってしまった事を。

一応恋人なのに彼女らしい事を殆どできない自分が情けなくて苛立っていた事を。

こんなあたしがエドの彼女でいいのかと不安に思ってしまった事を。

そんなの単なる先入観でしかないのに。世間一般の考え方なんてあたし達には関係ないのに。

あたしはあたしでしかないし、機械鎧整備師としての自分に誇りを持ってるし、

エドは最初からありのままのあたしを受け止めてくれていたのに。

───そしてエドも、あたしと同じように自分の生い立ちと寿命に不安を抱えていたのだろう。

あたしやばっちゃん、アルにさえ余計な心配をさせまいと、ずっと一人で抱え込むつもりだった。



「……あたし、馬鹿みたい」

「おう。俺もだ。おまえ相手に気張っても仕方ないのにな」

「お互い様、ね」



くすくすと笑いが止まらない。

もうすぐ18年になる、生まれた時からの付き合いは生半可な事じゃ覆せない。

あたし達は恋人である以前に幼馴染で、ずっと一緒に育った家族も同然なんだから。



「………ウィンリィ」



背後からあたしの身体に廻されていたエドの腕がするりと外される。

見下ろすエドの真剣な瞳に引き寄せられるように、あたしも自然と椅子から立ち上がった。

あたしとエドの距離は一歩分。

頭ひとつ分の身長差。

遠過ぎる事もなく近過ぎる事もない、今のあたし達の距離。



「───明日にはまだ少し、早いけど。これ……貰ってくれるか?」



エドがスラックスのポケットからごそごそと取り出したのは掌に乗るくらいの小さな皮製の箱。

おそるおそる手を伸ばして受け取ると、ずっとポケットに入ってたらしく微かな温もりがあたしに移った。



「……開けていい?」

「ああ」



何故だか震えそうになる手を宥めて蓋を開けたそこにあったのは、細いチェーンネックレス。

そのチェーンの先にペンダントトップとして通されているのは…………可愛らしいベビーリング。



「……これって……」

「予約っつーか、それなら仕事の邪魔にならずに気軽に使えるだろ。サイズも関係ねぇしな」

「……あんたにアクセサリー貰うのなんて何年振りかしら。ピアス以来じゃないの」

「あ、あれは! ただの土産っつーか機械鎧壊したの誤魔化す為っつーか!」

「……やっぱり誤魔化すつもりだったんだあれ。おかしいとは思ったのよね」

「いやそうだけどそうじゃなくて! おまえが見境なくぽんぽんピアス穴開けるから!」

「見境なくないもん、エドとアルがくれたから全部つけたかっただけだもの」

「ああくそ、だからこれは土産とかそういうのじゃなくて!!」



顔を赤くしたままがりがりと頭を掻くエド。

その様子がおかしくて、あたしは思わず吹き出した。



「うん。分かってる。有難う……エド。嬉しい」



言わなくてもちゃんと意味は通じてるよ。

ただ、あんまり幸せ過ぎて怖いだけ。



あたしは機械鎧整備師という仕事の関係上、金属製の指輪を常に身に着けている事は難しい。

マニキュアも含め、指先のお洒落なんてものにはほぼ無縁だ。

それは医者であったあたしの両親も同じで、母さん達はいつも結婚指輪を失くさないよう皮紐に通して首から提げていた。

幼い頃からうちに出入りしていたエドもその様子を見て覚えていたのだろう。

アルと一緒にならともかくジュエリーショップなんてものに最も遠い存在のエドが

どんな顔でこれを買ったのか、どれだけ悩んだのか、想像に難くない。

出産祝いや記念日など初めて贈られる宝石としても知られ、その人の幸せを願うというベビーリング。

指輪としてよりお守りペンダントとして使われる事の多い小さなリングはおそらくかなりの腕の職人によるものだろう細かい細工が施されていて、

その先についた石はあたしの瞳の色とそっくり同じ空色だ。

青や水色の宝石はいくつもあるし個体によって色味や透明度も全然違うけど、

よくこんなに近い色を見つけたものだとそれだけでもエドの気持ちが伝わってくる。



「…………………」

「エド?」



途切れた会話にふと顔を上げれば、あたしを見下ろすエドとばっちり目が合った。

その顔は今まで見た事ないくらい真剣で、金色の瞳から目が放せなくて。



「───俺と結婚してくれ。ウィンリィ」

「……………………」



まさかの直球に、声が出ない。

小箱を両手で握り締めたまま時が止まる。



「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………………………なんとか言えよ」

「なんとか………」

「オイ!!!!!!!!」

「だってまさかそんなストレートに言われるとは思わなかったんだもの、頭ん中が真っ白になっちゃったわよ!」

「だったらOKでいいんだな!? 勝手にそう解釈するぞ!?」

「今更他にどんな選択肢があるってのよ、何年あたしと付き合ってんのよ!!」

「生まれてから18年だよ!!」

「お生憎様、これからもずっとよ!!」



互いに肩で息をしながら声を張り上げる。

ああもうなんでこうなっちゃうんだろうあたし達。色気も雰囲気もあったもんじゃない。

だけどこれがあたし達。

きっとこれからもずっと、エドとあたしはこんな感じなのだろう。

言いたい事を言った後は顔を見合わせ、笑うしかない。



1回目のプロポーズは5歳の時。

2回目のプロポーズ……もどきは16歳の時。

同じ男の人に3度もプロポーズされるなんて、あたしってば凄い幸せ者かもしれない。



「あーちくしょー……俺の緊張って何だったんだ」

「緊張したんだ?」

「当たり前だっつの。これで断られたら流石の俺でも立ち直れないかもしれねぇ」

「3回目なのに」

「3回目だからだろ! やっと仕事も軌道に乗って、大手を振って結婚できる年になるってのに」

「あんたってそういうとこ律儀よねぇ。いざとなったらあたしが養ってあげるのに」

「うっせ。男とか女とか以前にそんなカッコ悪い事できるか。

……それより、生活落ち着いてからでいいから今度買い物に付き合えよ」

「ん?」

「『本番』買うにもサイズ分からねぇし。もう二度とあんな落ち着かねぇ店に一人で入るのはごめんだ」

「あはは。エドがどんな顔して買ったのか見たかったなぁ」

「勘弁して下さい」



一通り笑って、落ち着いて。

いつもの調子が戻ってきたところで、気が抜けたようにどっかりと椅子に腰を下ろしたエドにあたしは小箱を差し出した。



「ね、エド。ネックレス着けてくれる?」

「お、おう。ほら貸せ」

「お願い」



貰ったばかりのネックレスをケースごとエドに渡し、くるりと後ろを向く。

リビングの椅子に座ったエドは立ったままのあたしより少し低い位置に頭が来るので、ネックレスを着けて貰うにもちょうどいい高さだ。

下ろした髪を手前に掻き分けるように首を出すと、少し戸惑うような微かな吐息がすぐそこで聞こえた。

やがてエドの無骨な左手と機械鎧の右手とネックレスのチェーンがカチャカチャ…と首の後ろで小さな音を立てて。

もどかしいくらいの時間が過ぎた頃、素肌を滑るように鎖骨の下に落ちたチェーンの先で指輪がきらりと光った。



「……ありがと。明日はあたしがご馳走作るわね。シチューと、アップルパイと、それから……」



───多分、あたしは自分でも次に何があるのか分かってる。

だからエドの顔を見れなくて後ろを向いた。声が震えてしまってる。

だけど。

それはあたしが望んだ事でもあるから。

全然嫌じゃ、ないから。





───残すは、もうひとつの約束。先に言い出すのはどっち?





「あ、あのねエド、……、っ!?」



なんとか言葉を紡ごうとしたところで息が詰まった。

うなじに、チェーンに添うようにしてそっと押し付けられたのは熱くて柔らかい感触。

それが何だったのか理解すると同時に背後から再び腕を廻され、強く強く抱き締められた。

今度は椅子の背もたれも挟んでいない分、よりはっきりとエドの熱と心臓の音が伝わってくる。

おそらくあたしの鼓動も気持ちも全部エドに伝わってしまってるだろう。

視界の片隅に入った壁時計が狙ったようにぼーん……と夜10時の時を告げた。



「……エ、ド……」

「……アルやばっちゃんや将軍に何もかも見透かされちまって。それに乗るのも情けねぇし、悔しいけどさ。

それでも、悔しいと思う以上にこうしたいって気持ちに嘘はつけねぇ」

「…………………」

「あと、2時間」

「……………………」

「12時になって、正真正銘俺が18になったら………今度こそおまえの全部を貰いに行く。

無理は言わねぇ。無茶もさせたくねぇ。

先は長いんだ、今断られたって怒らねぇよ。おまえにも都合があるだろうしな。

だけど2時間考えて、もし俺を受け入れてくれるなら………………部屋の鍵、開けといてくれ」

「…………っ」



───押し殺すような掠れた声で囁かれた言葉は、ある意味予想していた通りで。

これから始まる長い夜の幕開け……なのかもしれなかった。
















お待たせしました。中途半端なトコで鬼のように切りつつ、とりあえずぷち伏線回収。
前回兄さんがコートのポケットに入れてたのは増田に貰ったブツではなくコレでした。
そんなすぐ出せるようなポケットに入れとくほどがっついてない…というより勇気ありませんて(大笑)。
兄さんが実は料理上手&ウィンがクセルクセスの事知ってたってのも一応伏線っつーか
双方最後のコンプレックスを解決させる為に数話前からちらほら小さな種をばら撒いておりました。
ここまで引っ張るの長かった……原作最終回との折り合いつけながらの伏線回収は楽しいけど難しい〜。
このエドウィンは今更「俺の人生〜」もできないので、微妙にシチュを被らせるのが限度なのです。
大昔に書いた別エドウィンのプロポーズとあんまり変わらないやりとりになったのが悔やまれる。
まぁ私の書くエドウィンは基本どれも同じ性格なので同じ雰囲気になるのは仕方ないっちゃ仕方ないんですが。(ソレ言ったらお終い)



以下、本文には入れられなかった更にどうでもいい補足小ネタ。これも長いよ!



乙女兄が18歳プロポーズ時にウィンに何かプレゼントするってのはシリーズ化した時から決めておりました。
が。「何に」するか、最後の最後まで悩みましたよ!!!
そもそもこの世界に「婚約指輪」があるの?ってのがピンと来なかったんだよなぁ。

……いや私もさっき述べた別エドウィンのプロポーズで指輪贈りましたが、
冷静に考えると普通にプレゼントとして恋人や妻に指輪を贈るのはともかく
リゼンブールみたいな素朴な田舎で婚約指輪と結婚指輪の2つ持ってる人っているの?みたいな。
指輪=結婚指輪くらいしかないんじゃないの?というか。
金持ちエドウィンには問題ないだろうけど、2度貴金属を買う事によって金銭的負担もあるしねぇ。
最近の結婚でも結婚指輪は味気ないデザインが多いから
婚約指輪と纏めて一緒にしちゃって普段も使えるようなデザインを二人で選ぶってパターンも多いそうな。

因みに婚約指輪自体はヨーロッパに古くからあったらしいです。(byグーグル先生)
寧ろ結婚式で夫婦で交換するような結婚指輪よりも婚約指輪の方がずっとずっと先だった。
大昔は嫁も金で買うものだったからね。本人の気持ちより家柄第一だったからね。
なので「その娘を買う予約した!」という意味で新郎が新婦の父に渡すのが婚約指輪の始まりだったらしい。

……とまぁ話は逸れましたが、そんなダークな意味があったのもあって
この乙女兄からウィンに素直に婚約指輪を渡すって事に「うーん?」と躓いてしまったのですよ。
プロポーズとはいえまだ18歳で、今すぐ式を挙げるって訳でもないしね。
結婚後はともかく、現時点でいかにも「婚約しましたー★」ってのをやっちゃうのも照れまくってごっつ抵抗ありそうだしね。
ウィンが普段の仕事で指輪つけられないのも知ってるしね。

何よりこの男がウィンの指の正確なサイズを知っている筈がない。

アルじゃあるまいし、さり気なくサイズ測ったり訊いたりなんざできる男じゃねぇえええ!!
だったらいっそ婚約指輪に代わるようなアクセサリーにしよう!……でネックレスに決定致しました。
ラストのネックレス越しにうなじにちゅーするエドをやりたかったってのもあります(笑)。

んで、ここまではまだ割と早く決まったんですが問題はその先。
ネックレスのヘッドはどうするか?だけで何日も悩んで散々書き直しましたよ。
初期はそのまま婚約指輪をチェーンに通してペンダントトップにしちゃうバージョンでした。
でもそれだとエドは指輪のサイズ知らないだろって原点に戻っちゃうのよね。
案の定サイズを間違ってて後で直しに行こうってパターンもギリギリまで書いてたけど、
それも結局のところ「普段指輪をしないウィンに指輪をプレゼントしちゃう」「いかにも婚約指輪ハズカシイ!」に引っ掛かるという。
指輪をネックレスから外してサイズチェック云々やるのもしつこい。何よりエドのうなじちゅーチャンスがなくなるのが悲しい。
でも単なる石だけとか平凡なクロス型より指輪型が絶対いい。どうすればいいんだー!とめちゃくちゃ悩んで通販サイトを探し捲くった数日間。
そんな時辿り着いたのが小指にするピンキーリングでした。その延長で出てきたのがベビーリング。
そうか指輪は薬指だけじゃない、ならばいっそ完全にネックレスの「飾り」にしちゃえばいいんだ!!と閃いた訳です。
これなら指輪のサイズも関係ない。ヨーロッパでは割と一般的で、贈る相手の幸せを願う初めての宝石ってニュアンスもいい。
エドの事だから最初からベビーリングのネックレスにしようなんてこれっぽっちも考えてなかったに違いありませんが、
ショップで何時間もうろうろ悩んでるのを見かねた店員さんにアドバイス貰ったという事でOK。よし決定!!

だが問題は石だ。


婚約指輪バージョンの時も同じ事で悩んだんですが、ベビーリングの石は普通は誕生石を選ぶんですよね。
誕生石でこそお守りとしての本領発揮というか。
だけどウィンリィの誕生月っていつよーーーーーーーー!?(涙)
こればっかりは公式発表がないからどうしようもない。捏造もしたくない。だったら別の視点から考えるしかない。
寧ろエドの性格なら、誕生石みたいな一般的な決まり事よりも「ウィンリィに似合うかどうか」で決めるってのもありじゃね?

「プレゼントでしょうか? その方のお誕生日はいつでしょう?」
「……○月×日だけど」
「でしたら誕生石は○○○ですね。こちらなど…」
「あー……なんか違うっつーか……もっとこう、空色っぽいのねぇ?」

……みたいな会話がショップであったんじゃないかと脳内補完お願いします。店員さん大迷惑。
具体的な石としてはアクアマリンは水色が薄い、サファイアやラピスラズリは青が濃過ぎる、トルコ石やアマゾナイトは透明度がない、
単純な色味ではトルマリンのインディゴライトやアパタイト、ブルートパーズが近いかなーとは思うんですが
他の宝石でも結構ブルー○○○って青系の変種があったりするんだよね。全く同じ種類の石でも個体で色味が違うし。
アクアマリンも熱処理で色を調整する事が多いようですが、天然で水色が濃いほど高価なそうな。
エドの必死の捜索及び店員さんの努力により、ウィンの誕生石で綺麗な空青バージョンがあればベストやね。
金はあるんだ。エドならやれる。←嫌な18歳
まぁ誕生月の石でも大抵2、3種類あるし他に星座石、曜日石、ついでに九星占術によるラッキーカラー…と合わせれば
1個人に対して10種類くらいは守護石ってあるので(笑)、そのどれかならまず確実に青系があるでしょ。
大丈夫さ。店員さんならやってくれる。
あとオーダーメイドなら誕生石・空色宝石・誕生石の3つをベビーリングに嵌め込む手もあるけど、
もしウィンのメイン誕生石が赤系だとちょっとセンス的にアレなのでそこは最終手段にして頂きたい。
誕生石+ダイヤってのもよくあるパターンだけど、あんまりダイヤで派手にはして欲しくないんだよなぁ。
リザさんにはダイヤが似合いそうだけどウィンリィはちょっとイメージ違うというか。
でもプロポーズとしてあげるからには給料3ヵ月分とは言わずともそこそこのグレードは欲しいので、
石以外はプラチナか18K以上でお願いしますよ兄さん。
クラウン型やダブルリングも可愛いけど、
空色にピンクゴールドは合わないしホワイトゴールドは弱いから駄目よー。(どんだけ細かいの…)

この話のおかげでなんだか無駄に指輪やネックレスや天然石に詳しくなってしまいましたが、
調べる気にならないとこういうのって永遠に知らないままなのでちょっと新鮮で楽しかったです。
自分の守護石のアクセサリーがすげー欲しくなるという弊害はあるがな!
あれ?……これSSの後書き?



次回はおそらくエド視点からスタートになりますが、いきなり裏には行かず一旦表に顔は出す予定です。
どうなる2時間後!(強引に〆る)


(11.09.13.UP)