※これはエドウィン乙女兄さんシリーズです。EW49の続き。




























約2ヶ月振りのリゼンブールの昼下がり。

使い込んだトランクを提げたまま、新築した自宅にも寄らず駅から真っ直ぐ向かったロックベル家。

そんなのはこの生活を始めてから慣れっこだけど。

いつも通り、なんだけど。



(……着いちまった……)



ロックベル家の玄関の扉前で立ち止まり、俺は大きく深呼吸した。

自然体。自然体。平常心。平常心。

……必死に唱えてる時点で全然平常心じゃないって事くらい俺も承知している。

コートのポケットに乱暴に突っ込まれた物体がやけに重く感じられた。



(いやそもそも誕生日は明日だし、すぐにどうこうって約束した訳でもねーし、あいつにも都合があるだろうし……)



自分自身に言い聞かせるように脳内で呟く。

ただ、ここで延々立ち止まっていても何の解決にもならないのだけは間違いなくて。

俺は覚悟を決めると木製の扉に手を掛けた。



「ただいまー」



この家に入るのに「お邪魔します」という言葉はいらない。

それは初めてリゼンブールを旅立った時からの習慣だ。

今でこそ昔の家の跡地に新しい家を建てたが、それまではここが唯一の帰る場所だった。

他人行儀にお邪魔しますなんて言った日には、この家の住人に揃って怒鳴られちまう。

生まれ育った家を焼いた俺とアルにとって、それがどれだけ救いになっていただろう。

そして今日も扉を開けた途端、この家の頼れる番犬がワンワンと嬉しそうに吠えながら廊下を駆け寄ってきた。



「おうデン、元気そうだな」



尻尾を激しく振りながら俺の周りをぐるぐると走るデンに声を掛け、わしわしと頭を撫でてやる。

犬にしてみればもう結構な年の筈だが、まだまだ現役といった貫禄だ。

この家の女主人と同様、彼女にも是非とも長生きして貰いたい。



「おや、おかえり。早かったじゃないか」

「ただいま、ばっちゃん」



デンを後ろに従えてリビングに入ったところで、台所の方からばっちゃんがパタパタとサンダルを鳴らして顔を出した。

ちょうど夕飯の支度の最中だったのか──それにはまだ少し時間が早いと思ったが──、手には丸いお玉の柄が握られたままだ。

その後ろに人影は………ない。物音も声もしない。

確か前の電話では、昨日のうちにはラッシュバレーからこっちに帰ると言っていた筈だが。



「ウィンリィなら、急なメンテナンスのお客さんが入ったとかで帰りが延びたんだよ。

これから汽車に乗るって連絡が朝早くにあったから、夕飯頃には間に合うんじゃないかねぇ」

「へ、へぇ……そうなのか」

「ま、ウィンリィが戻るまで退屈だろうが少しの辛抱だ」

「そ、そういう訳じゃ!」



顔に疑問が出ていたのか。俺の顔を見て楽しげに笑うばっちゃんに思わずどもってしまう。

そしてこの場にウィンリィがいない事に内心ホッとしている自分の情けなさに苦笑いが出た。

ウィンリィに会いたくない訳では断じてないが、

今日に限ってはどういう顔であいつに会えばいいのか本当に分からないのだ。

物心ついた時からの幼馴染で、家族同様の付き合いをしてきて、その後曲がりなりにも恋人同士という立場にもなって。

正直、あいつに対して「どんな顔をしたらいいか分からない」なんて気持ちを味わう事になるなんて思いもしなかった。



だけど。

ウィンリィ不在のこれは別の意味で最大のチャンスでもあった。

どんなに情けなくてもここで怯む訳にはいかない。

最大のチャンスは最大の難関でもあり、決して避けては通れない道でもある。

───そう考えると緊張でごくり、と咽が鳴った。

あの決戦の日当日でさえ、ここまで緊張しなかったかもしれない。

俺は未だ手に提げていたトランクを一旦床に置き、コートを脱いで椅子の背に引っ掛けた。

大きく息を吸って呼吸を整えたところで改めてばっちゃんに向き直る。

知らず握った左の掌に汗が滲んだ。

何かを感じ取ったのか、デンがきょとんとした顔でこちらを見上げているのが視界の端に映った。



「ばっちゃん」

「ん? なんだい、改まって」

「話がある」



台所に戻ろうとしていた背中が振り返り、眼鏡の奥の小さな目が俺を見上げる。

それは優しさと厳しさを兼ね備えた、俺を本当の孫のように可愛がってくれたばっちゃんの目だ。

その目を真正面から見た瞬間、さっきまでの緊張が嘘のように解けていくのを感じて。

俺はごく自然に───深く深く頭を下げた。







「───ウィンリィを、俺に下さい」



初めて口にした言葉。

アルに言わせれば俺がウィンリィをどう思ってたかなんて遥か昔からばっちゃんにもバレバレだったらしいし、

俺とウィンリィがただの幼馴染じゃなくなったという事も2年前の庭先での宣言の流れから知っている筈だけど

この人には絶対に俺の口から言わなければならなかった。



「嫌だね」

「って即答かよ!!」



反射的に顔を上げると、お玉を持ったまま難しい顔で腕を組むばっちゃんが目に入る。

今までウィンリィとの「交際」を特に反対されていなかっただけに、こんなにあっさり切られるとは予想外だった。



「そりゃ俺はまだまだガキでばっちゃんから見れば全然頼りねぇだろうけど、少しは話をだなぁ!!」

「ウィンリィは物じゃないからね。可愛い孫をあたしの判断で軽々しく『やる』なんて言えるもんかい」



反論しようとしたところでピシャリと声を被せられ、口を噤む。

話が長くなると踏んでリビングの椅子に腰掛け直し、俺をじっと見据えるばっちゃんの顔は真剣だ。

ばっちゃんだって冗談で言ってる訳じゃない。

小さい身体に似合わないくらい強い眼差しに知らず俺の背中がぴんと伸びるのを感じた。



「──で。それはウィンリィと結婚したいという意味で間違いはないかい?」

「……ああ。何も今すぐって訳じゃねぇ。明日には俺も結婚できる年になるが、それぞれの生活があるからな。

ウィンリィもこっち戻って暫くは引継ぎが大変だろうし、俺もまたすぐ仕事でここを出る事になると思う。

多分、ちゃんとした結婚生活…みたいなのができるのはもう少し先の話だ」

「その事はウィンリィも承知してるのかい?」

「……いや。あいつにはまだちゃんと、プロポーズ……もしてない。OKも……貰ってない」

「あの子に断られるって考えはないのかい、おまえさんは。普通はあたしに言うより先にそっちだろうさね」

「うっ…」



人生の大先輩に溜息交じりに言われて冷や汗が出た。至極ごもっともな意見だ。

どさくさに紛れてプロポーズもどきの告白……みたいになったのが俺が16歳の時。

その後、「18になったら全部貰う」という約束はしたけどそれだって正式なプロポーズとは違う。

まさかあれからあいつが心変わりして……なんて事はないとは思うが、最後にウィンリィと会ったのは2ヶ月も前で。

近いうちにばっちゃんとサシで話をしたいと思っていたからあいつのいないこのチャンスを狙った訳だが、

やっぱりばっちゃんより先にウィンリィに確認するべきだった……か……?

趣旨を根底から覆す可能性に気付いて怯みかけたところで、再びばっちゃんの溜息が耳に入った。



「それで。あたしが駄目だと言ったら、エドはウィンリィを諦めるのかい?」



真っ直ぐに突き刺さる言葉。

それに対する俺の答えはとっくに決まっている。

もう、腹を括るしかない。



「──諦めねぇ。なんとしても、何年掛かっても、ばっちゃんを説得してみせる」



もしあいつ本人が俺を望んでいなければ、俺のやろうとしている事は犯罪者一歩手前だ。

だけど俺は俺を選んでくれたあいつを信じる。

18になればアメストリスの法律上は保護者の同意がなくても紙切れ1枚で結婚は可能だが、

今まで俺達を育ててくれたばっちゃんの同意なくしては俺達の結婚は有り得ない。

そしてばっちゃんの同意を得る上で、確認しなければならない事が俺にはあった。



「ばっちゃんはホーエンハイム……親父と古くからの酒飲み友達だって前に言ってたよな。

親父が何十年も年をとらない人間……普通じゃない事を知ってたんだろ?」

「………ああ。あいつとの付き合いは50年以上になるからね」



俺の質問に、ばっちゃんが静かに頷く。

俺達兄弟が長い旅からリゼンブールに帰った時。

親父の事。クセルクセスの事。賢者の石の事。全てをばっちゃんとウィンリィに話すか悩んだ。

だけど───北軍や東方軍と協力してホムンクルス達を倒したという必要最低限の事以外は結局話す事ができなかった。

アルの身体も無事戻り、話す必要がなかったというだけじゃない。

多分、怖かったのだ。全てを話すのが。

母さんの墓の前で死んでいた親父を発見したというばっちゃんも疑問点はいっぱいあっただろうに、

敢えて俺達に訊こうとはしなかった。ばっちゃんはそういう人だった。



「親父は東の砂漠にあったクセルクセスの最後の生き残りだ。

ホムンクルスによって魂をクセルクセス国民半数分の賢者の石と同化された。

だからあの姿で400年くらい生きてた事になる。そしてあの日の戦いで最後の魂まで使い尽くして死んだ。

……俺もアルも、あいつの血を引いてるんだ。

アルが親父に直接、俺達は真っ当な人間なのか訊いたらそれは大丈夫だと言われたらしい。

実際、外見上全く年をとらなくなったあいつと違って俺もアルも赤ん坊から今まで普通の人間と同じように成長してる。

おそらく賢者の石となった魂の核と肉体的な生殖器官は別だったんだと思う。

そもそもそうでなきゃ俺達は生まれてねぇ。精子の成長が止まったら受精だって不可能だからな」



淡々と事実を述べる。

かつて人体錬成なんてものをやらかした俺は無駄に人体の仕組みについて詳しい訳だが、

改めて言葉にするとなんて無茶苦茶な話なんだろう。

紛れもなく自分の事なのにまるで何処か遠い国の御伽噺のようだ。

しかし外科医でもあり50年も年をとらない人間を見てきたばっちゃんは冗談だろうと笑い飛ばす事もなく、

黙って俺の次の言葉を待った。その視線に促されて話を続ける。



「だけど、俺が本当に『真っ当な人間』なのかは俺が寿命で死ぬまで分からないんだ。俺の前に例はないんだからな。

親父が大丈夫だと思っていても、この身体に親父の賢者の石の影響が全く残ってないという保証はどこにもない。

……それに加えて、俺は錬金術で自分の魂を賢者の石にするって荒業を2度ばかりやっちまってるんだ。

その時はそうするしか方法がなかった訳だけど、理論上は……これによって寿命が削られてる。

だから俺は普通の人間には有り得ないくらい物凄く長生きするか、逆に短命になるか。

どれも可能性の1つであって仮説を出ないけど、絶対有り得ないとは言えない」



───この事は、あの戦いが終わった日からずっと俺の中でぐずぐずと燻っていた。

自分の魂を2度も賢者の石にした事についてはアルにすら話していない。

アルにもウィンリィにも、この先も詳しい話をする事はないだろう。

限りなくナシに近い仮説なんてアヤフヤなもので余計な心配をさせたくはない。

アルもホーエンハイムの息子として自分の身体への影響には気付いているだろうが、

敢えて俺にその話を振って来るような事はなかった。

5年も真理に肉体を取られていて生還したアルにしてみればこれくらい些細な事だと考えているのかもしれない。

それでもホーエンハイムが普通でないのを知っているばっちゃんにだけは、俺の口から言っておかなければならないと思った。

その上で、ウィンリィとの結婚を認めさせなければならなかった。



「真っ当な人間じゃないかもしれない男に大切な孫をやるなんて、普通なら許せる事じゃないと思う。

俺にはあいつを幸せにする資格なんて最初からないのかもしれない。

それでも俺は……ウィンリィと一緒になりたい。

俺の寿命が何年だろうと、この命ある限りあいつの隣にいたい。あいつをこの手で守っていきたい。

だから……俺があいつの隣にいる事を許して下さい。お願いします」



もう一度、ばっちゃんに向けて頭を下げる。

───親父と俺は違う。

ホーエンハイムは母さんと俺達子供と共に老いて死ぬ方法を探す為に旅に出たのだと後で知った。

結果的にそれがホムンクルスの陰謀に気付く事になり、アメストリスを救う事になった。

だけどふと思うのだ。

もし親父があの時家を出ていなかったらと。

一緒に年をとる事はできなくても、母さんは本当は親父にずっと隣にいて欲しかったんじゃないかと。

母さんが流行り病で亡くなった時も、親父がいれば俺とアルは母さんを生き返らそうなどと考えなかったかもしれないと。

今となっては想像の域を出ないし、母さんは決して親父を恨むような人じゃないけど。

結果として親父が旅に出ていなければ国自体が大変な事になっていたのだから、俺も今更親父を憎んだりしないけど。

…………いや、今でも少しは憎いけど。

家を出てから電話も手紙も何一つ寄越さなかったあのクソ馬鹿親父には今でも腹が立つし、

あんな形で死んでしまう前にもう2、3発機械鎧で殴っとけば良かったとも思うけど。

ともかく。俺はあいつと同じ道を選んだりはしない。

例えこの身が普通じゃなくても、大切なものはこの手で最期まで守ってみせる。



「ほんっとに…………そっくりだよ、おまえ達父子は」

「でっ!?」



長い沈黙を破ったのは呆れたような声と共に振り下ろされたお玉による、パコーンという気持ちのいい音だった。

じんじん痛む頭頂部を手でさすりながら顔を上げると、椅子に座ったままお玉を構えるばっちゃんと目が合って。

流石は血縁というかなんというか、スパナを構えるウィンリィの姿が重なったような気がした。



「資格も何もあるかい。お前はエドであって、それ以上でも以下でもないだろう」

「……それと親父と何の関係が……」

「同じ事をホーエンハイムにも言ったんだよ、あたしは」

「へ?」



ふー…と大きく息を吐いてお玉を下ろすと、ばっちゃんは昔を思い出すように目を細めた。



「ホーエンハイムにトリシャを紹介したのはあたしだ。やがて二人は本気の恋に落ちた。

だけどホーエンハイムはずっと悩んでいたよ。俺は化物だ、あいつを幸せにする資格なんてないってね」

「…………………」

「本気になればなるほど、ホーエンハイムはトリシャと距離を置こうとしてたように見えたね。

それでもトリシャは頑として引き下がらなかった。

ホーエンハイムの身体の事を知っても、籍を入れられなくても、あいつと一緒になりたいと願った。

ホーエンハイムも自分の気持ちを偽れなくなったんだろう。とうとうあたしに相談しに来た。

その時、あたしはあいつに言ったんだよ。

資格も何もない、おまえはおまえだろうって。他でもないおまえを選んだトリシャを信じろって」



初めて聞いた両親の馴れ初めに俺は息を呑んだ。

だけど今なら容易に納得できる。

母さんは儚いように見えて芯の強い人だった。


母さんなら自分を化物だと言うクソ親父を一蹴しそうな気がする。

その場面を想像しようとして、母さんよりも先に別の人物が脳裏に浮かんだ。



「……なんか、同じ事をウィンリィにも言われそうな気がする」

「当たり前さね。あの子はあたしの自慢の孫だよ」



ぽつりと呟いた俺の言葉にばっちゃんがふふんと鼻を鳴らす。

俺の周りにはどうにも強い女ばかり揃っているように思えるのは絶対に気のせいじゃないだろう。

強い女の一員でもあるデンが「何を今更」とでも言いたげにこちらを見上げて尻尾を振った。



「だけどまぁ、自らウィンリィの隣に居る事を選んだだけエドの方がほんの少しはあいつよりマシかね」

「ほんの少しかよ……」

「あんまり馬鹿な事を言うからさ。いいかい、人間なんて元々いつ死ぬか分かったもんじゃないんだよ。

若かろうと年寄りだろうと死ぬ時には公平に死ぬし、事故や病気なんて誰にも予想できない。

寿命? そんなのは結果論さ。80歳で長生きと言う人もいるし、100歳まで生きる人もいる。

寿命が削られるったって10年や20年じゃ大した差はないだろう。可能性も今考えるだけ無駄ってもんさ」

「あー………」



同じような台詞を何処かで聞いた覚えがあった。

そうだ、あれはアルがまだ鎧の身体だった時。セントラルのホテルの階段でアルが言ったんだ。

タイムリミットのある鎧でも人間でも条件は同じだと。それでも元の身体に戻りたいと。

アルが親父の血を引いてる事について何も言わなかったのは、あの時点でそう悟っていたからか。



「ほんとカッコ悪ぃな、俺……」



どうやら俺は自分で思っていたよりもいっぱいいっぱいだったらしい。

自覚すると一気に肩の力が抜けてしまった。

そんな俺を一瞥すると、ばっちゃんは座っていた椅子からひょいと飛び降りてこちらに歩み寄ってきた。



「ほれ」

「え、な…?」



手渡されたのはさっきからばっちゃんが持っていた鈍器……ではなくスチール製のお玉。

反射的に受け取ったはいいが、意味が分からない。

うろたえる俺を残し、ばっちゃんはエプロンを外しながらすたすたと台所ではなく廊下の方へと足を向けた。



「ちょっ、ばっちゃん!?」



いつの間にか話をすり替えられてしまったが、さっきの「お願いします」に対する返事はまだ聞いていないのだ。

慌ててその背中に声を描けると、ばっちゃんは顔だけ振り返って台所を指差した。



「煮込みは終わって鍋の火は消えてるから、ウィンリィが帰ってきたら食べる前に温めておやり。

たっぷり作っておいたが、付け合わせが足りなかったらその辺にある材料を適当に使うがいいさ。

パンはいつもの棚に新しいのがあるし、貯蔵庫にワインもある。あと、デンの餌も忘れないようにしておくれ」

「あ、ああ、分かった……ってそうじゃなくて!」

「うっかり時間をくっちまったが、あたしゃ元々これから出掛ける予定があったんだよ。

ウィンリィかおまえのどっちか先に帰ってきたら言うか、間に合わなければ置き手紙でも残していくつもりだったが

隣村に嫁いだマーガレットの家で先月初孫が生まれたから御祝いに皆で朝まで飲もうって事になっててね。

往復の馬車はトムが手配してくれるから心配いらない。

帰りは明日の昼過ぎになると思うから、ウィンリィにもそう伝えといておくれ。留守番は頼んだよ」

「っ……!!」



ばっちゃんが矢継ぎ早に告げる言葉に目が点になる。

それはつまり、最初から………



「何年おまえ達を見てきたと思ってるんだい。

1日早いが誕生日おめでとう、エド。これからもウィンリィをよろしく頼むよ」

「………ハイ………」



なんかもう、それしか言葉が出ない。

どっと疲れを覚えて椅子にへたり込んでしまった俺を誰が責められようか。

ばっちゃんは俺なんかより一枚も二枚も上手だった。



「そうそう、お前達はもう大人だ。結婚より先にひ孫ができたとしてもあたしゃ構わないからね」

「─────!!!!」



かかかと笑いながら部屋を出て行くばっちゃんの背中に、どっかの将軍に向けてやったように怒鳴る事もできず。

耳まで真っ赤にして口をぱくぱく魚のように動かす俺は傍から見ればさぞ滑稽だっただろう。

つーか将軍といいアルといい、どんだけ外堀り埋められてんだよ俺!? 

一体どこまで話が広まっているのか考えるのも恐ろしい。



結局俺は、上機嫌で余所行きの服に着替えたばっちゃんが小さな鞄片手に家を出てからも

暫くの間そこで呆けている事しかできなかったのだった────。























そんな訳で乙女兄さん最終章第2部でした。
ごめん、せめてエドウィン再会までは入れるつもりだったのに最後までウィンリィの出番なかった……。
でもどうしてもヤ…結婚前に兄さんとばっちゃんを会話させたかったんです。
前に地下の子作り漫画の後書きでダラダラと考察した「賢者の石と兄さんの寿命」ネタを本編に入れたくてねー。
なんで原作設定話の方で使わずに乙女兄さんの方で使ったかというと
1:原作設定でマジにやると話が重い
2:原作兄さんは唐突に駅でプロポーズしちゃったので事前にばっちゃんに言うタイミングがない
3:地下漫画でウィンに直接言う(匂わす程度だけど)バージョンはやった
…という諸々の理由があったり。
あと、ばっちゃんがホーエンからトリシャの事で相談受けたってのはガチっぽいです。
PSP約束の日ゲーでそういうイベントがある。会話内容は丸々私の捏造ですが。
まぁどっちにせよ兄さんは88歳まで生きるのが確定してるので杞憂なんだけどね!
乙女兄はここまで我慢の子(ウィンに手を出さない的な意味で)だったので
最後まで真面目な兄さんでやってみたかったのさー。

次回こそウィンリィ出ます。(当たり前)
おそらくウィン視点………まだ表です。


(11.04.06.UP)