※これはエドウィン36から続く乙女兄さんシリーズの続編です。
単品でも読めますが、先にそちらを読んだ方が分かり易いかと。
●R−15くらいの微えろあり。苦手な方は回れ右!●




























「あー幸せ……やっぱりばっちゃんの味は落ち着くわー…」

「大袈裟だねぇ」



お風呂を済ませ、ばっちゃんの作ってくれたココアをまったり飲みつつ過ごす至福の夜。

向こうでの仕事が早く片付いたので予定より1日早く……つい数時間前に1ヶ月半振りでリゼンブールに戻ってきたばかりなのだが、

こんな些細な事でも早く帰ってきて良かったと思う。

仕事の休憩時間にガーフィールさんの淹れてくれる紅茶も凄く美味しいけれど(茶葉に拘りがあるらしい)、

小さい頃から飲んできた味は忘れられないものなのだ。

リゼンブールとラッシュバレーを往復する生活を始めて久しいが、家庭の味ほど故郷を思い出させるものはない。



(……エドもそうだったのかな)



ふと、そんな事を思う。

長い長い旅の間、機械鎧を壊した時くらいしかリゼンブールに戻る事のなかった幼馴染。

ロックベル家であれが食べたいこれが食べたいとリクエストするような事はなかったが、

昔から好物だったシチューを夕飯に出すと心なしか嬉しそうな顔をしていた気がする。

妙に偉そうにおかわりをしていたっけ。

おそらく、鎧の身体故に物を食べる事の出来ない弟を気遣って食べ物に対する言及を敢えて避けていたのだろう。

アルはそれくらいで怒るような子じゃないってのはエドも分かっていただろうが、

それでも無意識にそう行動するのがエドのエドたる所以なのかもしれない。

だからあの時、『アップルパイでも焼いて待ってろ』の言葉は色んな意味で嬉しかった。



(……明日は早起きして朝からアップルパイ焼こうかな)



今日もう少し早い時間にこっちに着いていたならエドの家に行って夕飯を作るなり逆にこっちに呼ぶなりできたのだが、

着いたのが21時過ぎだったのでそれも叶わなかった。

きっとエドは明日の夕方に到着すると思っているから、

朝一で押し掛けて驚かせてやるのもいいかもしれない。

ああでも材料全部あるかな……仕込みの前に確認しないと。



「さてと、あたしゃそろそろ寝るよ。ウィンリィ、おまえもあまり夜更かしするんじゃないよ」

「あ、はーい。おやすみなさーい」



寝室に向かうばっちゃんに慌てて返事をし、ひらひらと手を振る。

もしかしてばっちゃん、あたしが視線を台所にやったのに気付いた? 読まれてる?

……ばっちゃんなら有り得るかも。

ドミニクさんにちょっとだけばっちゃんの若い頃の話を聞いた事があるけど、

あたしは一生ばっちゃんに勝てない気がする。



ワンワンワン!

ドンドンドン。



その時、廊下にいたデンが吠える声と激しく玄関の扉を叩く音がしてあたしは思わずビクッと肩を震わせた。



「夜遅くすみません! ピナコばっちゃん、起きてる!?」



同時に聞こえたのは聞き覚えのない若い男性の声。

そして……何か重い物を引き摺るような音?

壁の時計を見やれば日付が変わる10分前。

いくらここが田舎で皆が親戚のような付き合いをしてるとはいえ、余所の家を訪れるような時間ではない。

ただ、この家の職業柄、急患がやって来る可能性も全くない訳ではなかった。

それでも機械鎧整備師はあくまで整備師であって、

本職の内科医や外科医に比べると緊急性はずっと下がるのだが。

扉に向かって吠えるデンに緊張してる様子はないから、怪しい人ではなさそうだけど………

階段の上から顔を出すばっちゃんとデンを手で制し、あたしは手早く玄関の鍵を開けた。

まだパジャマに着替えてなかったのは小さな幸運と言えるかもしれない。



「どちらさま────」

「良かった、起きてた!……ってウィンリィ!?」

「え、何………エド!?」



玄関先に現れたのは、あたしと同世代の少年と──彼の肩にぐったりと寄り掛かっているエド。

扉から飛び出したデンが2人の様子を窺うように周りをぐるぐる回る。



「ちょ、どうしたのよ!? エド、何が────」



あたしは慌てて少年の反対側に回って肩を差し入れ、一緒にエドを支えた。

そのまま説明を求め掛けて、漂ってきた強烈な匂いに眉を顰める。



「……………お酒?」



ここに来てやっと、エドの肩越しにその少年と目が合う。

記憶の底に微かに重なるその面影は。



「………えーと。もしかして……………ピット?」

「………本気で俺の事見えてないのかと思ったよ。

久しぶり、ウィンリィ。明日の夕方ってこいつに聞いてたけど帰ってたんだな」

「あ、うん、予定より早く着いて…ってごごごごめんなさい、ピットったら凄く背も伸びてカッコよくなってるし!」

「その台詞、素面の状態でエドに聞かせてやりたいよ」



少年───ピットは、少しウェーブの掛かった茶色の髪を揺らして小さく笑った。

随分雰囲気は大人っぽくなったが、こげ茶色の瞳が細められると子供の頃の面影が確かにある。

最後に彼を見たのはもう5年以上前になるだろうか。

声変わりもしていたから、聞き覚えがなかったのも無理はない。

うんと幼い頃、あたしと同い年の彼はエドと並ぶ悪ガキとしてリゼンブールに名を馳せていた。

年下のアルを子分に従え彼らが手を組んでやらかした悪戯は数知れず、

あたしも被害者の女の子達と共に闘った覚えがある。

そして国家錬金術師になったエドとアルがリゼンブールから旅立ったのと時を同じくらいにして、

彼もまた医者になる為の修行に出たと聞いた。

彼らだけでなく幼い日々を共に過ごした友人達が次々と田舎を出て行くのを寂しく思ったものだけど、

今ではあたしもラッシュバレーとここを往復している身だから人の事は言えないかもしれない。



「おまえ達、ひとまずこっちのソファーに寝かしてやっておくれ」

「あ、はーい!」



ばっちゃんに促され、死人のようにぐったりしてるエドを玄関からリビングのソファーに運ぶ。

デンが心配そうに後ろをついてきてるのが分かった。



「エド、大丈夫? 歩ける?」

「……あー……へーき………」



2人で肩を支えて歩きながら声を掛ければ、足元は覚束ないものの一応意識はあるようだ。

尤も、そうでなければピット一人でここまで運ぶ事もできなかっただろう。

見た感じピットの方がエドより僅かに背が高そうだが、

鍛えてがっちりした体格に加えて右腕の機械鎧の分、エドの方が体重はいくらか重そうだ。

あたし一人ではリビングまでもエドを支えて歩くのに苦労しただろうが、ピットがいてくれて助かった。

やっと辿り着いたソファーにエドを寝かせると、あたしは改めてピットに向き直った。



「ほんとごめんねピット、この馬鹿が迷惑掛けて」

「いや、こっちこそこんな遅くに悪かったな。直接こいつの家に連れてっても良かったんだけどここの方が近かったし、

誰も居ない家に放置して脱水症状でも起こされたら寝覚め悪いんで連れてきちまった」

「そうね正解だわ。ったくお酒強くないくせに何考えてるのかしらこいつ」

「……余計な……お世話…だ……」

「こんなになっといて偉そうな事言ってんじゃないわよっ」



まともに目も開けていられないくせに減らず口の叩く馬鹿の額をぺしっと指で弾くと、微かな唸り声がした。

ばっちゃんの持ってきた毛布を掛けてやれば、ダンゴ虫のように縮まるエド。

その様子は図体ばかり大きな子供のようだ。

それを証明するかのように、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。

変な汗もかいてないし、急性アルコール中毒の心配はなさそうだと内心胸を撫で下ろす。

多分エドと今まで飲んでいたのであろうピットも、微かにお酒の匂いはするものの特に酔っ払っている様子はなかった。



因みに。アメストリスで外での飲酒が法的に認められるのは18歳からだが、

ワインや果実酒を家庭で飲む分にはきちんとした制約がない。

一般的には15、16歳で初めてワインを口にする事が多いだろうか。

田舎では自家製のお酒を作る事も多いので、都会より十代の飲酒量は多いかもしれない。

仲間内での飲み会で羽目を外す若者が後を絶たないのは問題だが、

自制心の強いエドがここまで酔うほど飲むのを見たのはあたしも初めてだった。

あたしやエドの場合、お祭や宴会などで飲もうと思えばそこそこ飲める、

だけど夜遅くまで仕事する事も多いので普段はあまり好き好んで飲まないといった方が近い。

そして数少ない飲酒経験から判断するに、どうやらあたしよりエドの方がお酒に弱いようだった。

ばっちゃん曰く、あたしがお酒に強い(らしい)のは家系らしい。



「──やれやれ。どうやら心配する必要もなさそうだね」

「うん。ばっちゃん、先に寝ていいよ。あたしは念の為もう少しだけ様子見とくから」

「そうかい頼むよ。ピット、ご苦労さんだったね。また近いうちに家に遊びにおいでよ」

「はは……もう俺も子供じゃないんだけどな」

「いくら酒を飲もうと、まだまだおまえ達は子供さね。ウィンリィがいる時でも、ご飯食べに来な」

「そうよ、お礼しなきゃ! ご馳走するわよ」

「……それじゃ、そのうち。俺、明日の朝一の汽車で出発するんだよ。今度はいつ戻るか分からない」

「そっか…残念だわ。久しぶりにもっと話せるかと思ったのに。そういえばピットはお父さんと同じ仕事をしているの?」



ピットのお父さんは医者のいない辺境を回る巡回医をしていた筈だ。

医者の父がいつも家に居ないと何かのついでに聞いて、あたしとよく似た境遇だと思った記憶がある。

悪ガキではあったが父を尊敬し、医者を目指した彼にはエドとは別の意味で親近感があった。



「ああ。まだ見習いみたいなものだけどな。──そろそろ、俺も帰るよ」

「そうかい。じゃあ、元気でやっておいで。おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみ、ばっちゃん」



2階の寝室に上がったばっちゃんをピットと2人で見送り、そのまま玄関までピットを送る。



「……立派なナイトだなぁ、おまえ。エドに頼まれてんのか?」

「ん? 何か言った?」



ふりふりと尻尾を揺らしてあたしとピットの間を歩くデンに、ピットが感心するように呟いたのが微かに聞こえた。

その声は何かを自重するような重さを含んでいて。

目を瞬くあたしに対し、ピットはなんでもないと笑って首を振る。

そしてロックベル家の玄関を出て数歩進んだところで彼はゆっくりと振り返った。

夜中だというのに、辺り一面に聞こえそうな声で叫ぶ。



「おやすみ、ウィンリィ。ちょっとでも会えて良かった。旦那と仲良くな!!」



一瞬、何を言われたのか分からなかった。



「だっ………誰が旦那よ!!!」



咄嗟に言い返した言葉には何の捻りもなかったが、それしか出なかった。

月明かりの下に残ったのは楽しげに笑って手を振り、走り去るピットの長い影。

その影が極小さくなるまで見送って、あたしはやっと扉の中に入って鍵を閉めた。



「うー………」



扉に背を預けたまま、無意識に頬に両手をやる。

案の定凄く熱くなっていた。

足元のデンがきょとんとあたしを見上げる。

………なんだろう、この気恥ずかしさ。

物心ついた頃からエドやアルと一緒に居るのが当たり前だったあたしは、

女友達にからかわれたり疑われたりした事は一度や二度ならず、ある。

パニーニャなんか、初めて会った時からエドの事をしつこく突っ込んできたし。(勿論、その時は全力で否定した)

だけど昔の自分を知る同じ年頃の男の子に改めて言われるのって……結構、クる。



(………そんなに分かり易いのかなぁ、あたしって)



自分ですら気付かなかった頃ならともかく。

今となってはこの気持ちを否定する事もできないし、実際嘘をついてまで否定する気はないけれど。

それにしたって旦那って………仲良くって………



「………ふ、深い意味はないよねっ!」



自ら言い聞かせるように呟く。

もう今日の仕事は終わったとばかりに寝床である廊下の端の定位置に向かったデンと別れ、

とりあえずあたしは台所に向かって大きめの水差しに冷たい水を注いだ。

水差しとコップを持ってリビングに戻り、エドの眠るソファー近くのテーブルの上にそれらを置く。

こうしておけば咽が渇いてもすぐに飲めるだろう。

あと、洗面器とお絞りも用意しといた方がいいかもしれない。

今度は風呂場に向かうべくソファーの前を横切ろうとして。



───つい、とあたしは後ろに引っ張られた。



見下ろせば毛布の端から左腕だけ出して、エドがあたしのスカートの裾を掴んでいる。

部屋の灯りは点いているが、無意識なのか機械鎧の掌で顔の上半分を覆っているのでその表情までは分からない。



「………寝てたんじゃないの?」

「……………目が覚めたんだよ。さっきので」

「…………………」



もしかしなくても。さっきのって………ピットのあれ?

咄嗟になんて応えればいいのか分からなくて、あたしは硬直してしまった。

ていうかこの手は何?

なんで離してくれないの?



「……ゆ、め………」

「………は?」

「そう…だよな………」



独り言のような小さな声は、あたしの聞き間違いなのだろうか。

会話が全く繋がらない。



「………………」

「………………」

「………………」

「えっと……………エド?」

「…………水」

「え?」

「水、飲みてぇ………咽乾いた」

「あ、うん。ちょうど持ってきたのがあるわよ」



やっと会話が成立した事にホッとする。

さり気なくスカートの端をエドの手から取り戻し、テーブル側に走り寄った。

さっき置いたばかりの水差しからコップに水を注いで手に取り、ソファーに寝たままのエドの横に膝をつく。



「寝たままじゃ零れる、から。少しだけ起き上がれる?」



───今思えば、この時点で予感はあったのかもしれない。

心臓がとくん、とくんと自己主張し始める。



「飲ませて、くれ」



そしてエドの言葉は、あたしの予想を違えなかった。

顔を覆っていた機械鎧の右手が外され、酔いのせいか熱で潤んだ金色の瞳があたしをじっと見つめる。

乱れた明るい色の金髪が火照った頬に気だるげに掛かっていて。

第一ボタンを外したシャツから見える鎖骨と咽仏が艶めかしくて。



(………うわぁ。男のくせになんでこんなに無駄に色っぽいのよこいつ!)



エドの裸(上半身)は整備で見慣れている筈なのに、酔うとこんなになるなんて反則だ。

なんだか、女として負けたような気さえする………って問題はそこじゃなくて!



「の、飲ませるってどうやって……っ」

「そりゃ口移し……決まってんだろ……」

「あ、あんたねぇ!! あんまり調子に乗るのも……」

「……ダメ、か?」

「うっ……ダメ、じゃない、けど……っ」



何なのよ、その捨てられた仔犬みたいな目は───!!

いつもは素直じゃない幼馴染兼コイビトのおねだりに、思わずOKしてしまった己がニクイ。

そんなに嬉しそうに微笑まれたら『恥ずかしいから嫌』なんて言えないじゃないの!!



「〜〜〜〜〜っ!! やるわよ、口移しでも何でもやるからちゃんと飲みなさいよね!!」



曲がりなりにも、あたし達はコイビト同士。

別にエドと唇を合わせる…キスするのが初めてって訳じゃない。

ここで引いたら女が廃るってものよ。

………あたしってかなり乗せられ易いタイプなのかもしれない。

覚悟を決めると、ぐっとコップの水を口に含む。

そしてソファーの上のエドに覆い被さるようにして顔を寄せた。

お風呂で髪を洗ってから下ろしたままになっていた髪が邪魔だが、手元にゴムがないので仕方ない。

背中側に手で軽く払い、極力エドの顔に髪が落ちないようにする。

種類は分からないがお酒の匂いがつんと鼻についた。





「………っ」



お、思ったより難しい………。

熱いエドの唇を塞ぐように合わせてみたものの、口移しなんてそんな簡単に成功するものではないらしい。

下にいるエドの方から塞いでくれればまだ少しはマシだったかもしれないが、

当のエドは酔いのせいか何処かぼんやりしていて非協力的というか。

角度が悪かったのか結局半分くらいは零れてエドの頬を伝い、シャツを濡らしてしまった。



「ご、ごめん、冷たかった!?」



……って謝ってる場合じゃない。タオルタオル!!

慌てて立ち上がりかけたところで、今度は腕をエドに捕まれる。



「……いい。平気だから。……もっと、くれ」

「………………」



重症だわ、これ。

こんな表情のエド、見た事ない。

熱い眼差しといつもより低い掠れた声があたしを縛り付ける。

さっきよりも煩くなった心臓が爆発してしまいそう。

拒絶する事もできないまま、あたしは黙って二口目の水を含んだ。

吸い寄せられるように再び顔を近づけると、

エドの左手があたしの頭の後ろに回ってきて今度はエドの方から唇を塞いでくる。









「……んん……っ」



こくんと、エドの咽が鳴った。

唇の端から溢れた水を気にする様子もなく、エドはそのままあたしの口の中を貪る。



「…ん……んんん〜〜!」



ちょっ、ちょっと待って! それ違うから! 口移しじゃなくなってるから!!

お酒の匂いと味があたしにまでダイレクトに伝わってくる。

だけど身体の奥から湧き出てくるような熱はお酒のせいだけじゃ、ない。

全身から力が抜けてしまいそうな、初めての感覚。



───色々あって互いの想いが伝わってから1年と数ヶ月。

エドとキスを交わした事は何度かある。

数は少ないけどあたしからねだった事も、ある。

だけどその殆どは子供のキスというか……一瞬軽く唇を重ねるだけのものだった。

もう少しだけ踏み込んだキスもなかった訳じゃないけど、それだってこんなに激しくはなかった筈だ。



───エドは18歳になるまで、あたしに手を出さないと言っていたから。

あまり踏み込むと我慢できなくなるからとキスすら自制していたのだエドは。

セントラルのホテルで一晩一緒に過ごした時でさえ、彼はあたしに指一本触れようとはしなかった。

「約束を破りたくないから」と苦笑して、同じベッドで寝るのを拒んだ。




その楔が、酔った勢いで外れかけている………?




早鐘のように煩い心臓とは逆に妙に冷静に頭をフル回転させる自分を、まるで他人事のようだと思った。

ってそれより息! 息ができないんですけど!!

恋愛初心者のあたしが、いきなりそんな上手に深いキスなんてできる訳もない。

息継ぎできなくて苦し紛れにエドの胸を弱く叩いたところで、やっと唇を解放された。



「…はぁ……はぁ……」



いつの間にか抱き寄せられ、エドの上に半分乗っかるような体勢になっていたあたしだが、

姿勢を変える気力もなく大きく息を吸って酸素を確保する。

キスがこんなに苦しいものとは知らなかった。

なんというか…………かなりマヌケよね、あたし。

ひょっとしたら貞操の危機かもしれないのに。

……そんな事を呑気に思ってる時点で、現実逃避してる証拠なのかもしれない。




───あ、と思う間もなく世界が回転した。




気付いた時には、あたしはエドと場所を入れ替わるようにソファーに横たえられていた。

相変わらず熱の篭った瞳であたしを見下ろすエドの顔と、見慣れた天井が目に映る。



「…………エドワードさん」

「………はい」

「………酔ってたんじゃないんですか」

「………まだ、酔ってます」

「………でしょうね」

「…………………」

「…………………」



ホントにもう、どうしてくれようかしらこの馬鹿豆。

こんな所でなんて、あたしが叫び声を上げたらばっちゃんもデンもすぐに飛んでくるわよ? 

そこんとこ分かってる? その判断すらできないほど酔ってるの?

………それでもすぐに強引に手を出そうとしないのは。

あたしに逃げる時間を与え、手足を強く拘束しないのは18歳までやらないという約束だから?

まだそれは有効なの?



「ウィンリィ………」



ゆっくりと…まるでスローモーションのように伸ばされたエドの左手が、服の上からあたしの胸の上に乗せられる。

熱いエドの息が首筋にふわりと掛かって、ぞくりと肌が震えた。



「ぁ……っ」



耳朶をぺろりと舐められ、思わず声が出る。

ひどく優しく、壊れ物を扱うかのようにエドの掌が乳房を柔らかく弄んだ。

キモチイイとか悪いよりも衣擦れの音がやけに耳に響いて、それだけで恥ずかしくて死んでしまいそう。

───そしてその掌が、カットソーの下に潜り込んだ。


















ハイ、またも鬼のようなとこでぶった切ってすみません★
ホテル話並に長い。長過ぎる。って事で後編エド視点に続きます。
まぁ…ね。例によって表に置いてる時点で結末は見えてるようなもんですが。
細かく書かなくてもやる事はやれるし本番だけが18禁えろって訳じゃなry


※補足1:ピットは原作漫画には出てきませんが、スクエニ公式小説「遠い空の下で」に登場します。
13歳バージョンを参考にしていますが容姿や生い立ち、幼馴染達との関係は大体そのまんま。
成長したピットが巡回医やってたり身長がエドより高い(笑)ってのは私の憶測ですが、
ピットが昔ウィンリィに惚れてた&ウィンのエドへの気持ちを知って(当事ウィン本人は自覚なかった筈だけどね)
人知れず身を引いたのは公式設定ですよー。
公式同人誌鋼小説の中では比較的面白い方だと思うので、興味のある方は読んでみるのもありかと。
現在本誌公式HPで冒頭の試し読みもできます。
その他の公式鋼小説はね…自分的に微妙なんだよね…。
公式だけど牛さんの鋼じゃないというか。ぶっちゃけエドアル・アルエド・ロイエド的サービス過多じゃね?
何よりアルの可愛さが異常。アルはあんなに可愛い子じゃないよもっと黒いよ!!(酷)
まぁ時期的に1期アニメに合わせたってのもあるだろうけどさ……。



…いや別にピットでなくて完全オリジナルキャラでも良かったんだけどね。
ちょうどいいキャラがたまたま居たので拝借しちゃえと。
てか、リゼンブールに友達少な過ぎじゃ幼馴染ーズ!!(禁句)


※補足2:アメストリスの飲酒年齢はイギリスを参考にしています。
家で酒飲む分には年齢制限がないってのもイギリスではマジです。親が許せば5歳児でもOKらしい。
バーなど外で飲む場合ワイン、ビールは18歳からOKでそれ以外は20歳から…というアバウトっぷりも凄いぜ英国。
4コマで未成年の飲酒・喫煙〜ってのがあったから実際のところアメストリスは20歳からOKなのかもしれないけどね。
そもそもアメストリスの成人が何歳からかもはっきりしてないけどね。昔は日本も15で成人だったしね。
そこは同人的ご都合主義って事で。兄さんも身長さえ伸びたら(笑)そんなに気にせず飲みそうだしな。
本当に未成年の酒が絶対ダメだったら一応軍人(≒警察)であるハボ・ブレダが勧めてこないかなーとも思ったり。

当然ながらウィンの方がエドより酒が強いってのも創作ですが、
無駄に漢前なウチのウィンリィ的には充分あり得るかと(笑)。
よって同人的お約束な「酔っ払ったウィンに迫られて手を出しそうになるエド」の図はウチでは無理っぽい……ちっ。


(10.01.20.UP)