(………こいつ、こんなに………)


セントラルの駅のホームで。

オレとアルの前を歩く幼馴染の背中の小ささに、思わず呟きそうになった言葉をオレは慌てて呑み込んだ。



いや───オレだって分かってた筈だ。



あの時。

あまりにか弱く、頼りなさげに見えた幼馴染。

子供のように泣きじゃくるウィンリィをオレはどうしてやる事もできなかった。

オレのせいで、知らなくてもいい事を知ってしまったこいつを。

憎しみという感情を与え、命の危険にまで晒してしまったこいつを。

思いっきり抱き締めてやる事もできなかった。

───そんな資格も、オレにはなかった。



分かってた。

いつも気丈で、スパナを振り回してばかりな幼馴染が本当はただの少女でしかない事を。

泣き虫で、怖がりで、心配性で。

触れれば壊れてしまいそうなくらい繊細で。

誰かが護ってやらなければならない、小さな小さな存在。




「────父さんと母さんの事は、まだ心の整理がつかないけど。

皆待ってるから……皆のおかげで耐えられる」



───だけど、それ以上に強くあろうとするのがウィンリィで。

またそれだけの強さを持つのが、オレの自慢の幼馴染だった。




※※※




「機械鎧の手入れ忘れないでね」

「おう」

「今度いい磨き油送るね、アル」

「うん」

「………………死なないでね」

「おう!」

「うん!」



汽車の発車ベルが鳴る。

これから暫く、ウィンリィと会う事はないだろう。

ウィンリィにはウィンリィを待つ奴らがいて、オレにはオレの目的がある。



「………………」


反射的に汽車の窓に伸ばし掛けた右手をぎしりと握り締めた。



(───今…何をしようとした?)


一瞬浮かんだそれに、心の中で首を振る。

代わりに、ひとつの決意を固めた。

「聞こえない」と叫ぶ幼馴染に背を向けて一旦距離を取り、振り返りざまに指をビシッと突きつける。




「今度お前を泣かせる時は嬉し泣きだ!!」


これは、オレ自身への誓い。




 「絶対アルと二人で元に戻って嬉し泣きさせてやっからな!」


もう、こいつに悲しみの涙なんか流させない。あんな表情はさせない。




「覚えてろ!!」




今のオレは、ウィンリィの傍で常に護ってやる事はできない。

今度会う時は元の身体に戻った時だ、と言い切れない自分の狡さも承知している。

だけど。

お前を必要としているのはラッシュバレーで待っている奴らだけじゃない。

お前を想っているのは、亡くなったお前の両親やばっちゃんだけじゃない。

この「約束」がお前とオレを、繋ぐ。

この「約束」があれば、頑張れる。




─────だから、待っていろ。




少し苦笑するような…「あんたらしいわね」とでも言いたそうな。

それでもあの時から初めて満面の笑みを見せて手を上げる幼馴染の姿が、

徐々にスピードを増す汽車と一緒に離れていく。

それを最後まで見送らずに、ホームまで来た道を再び戻った。



「青春!? 兄さん青春くさっ!!」

「うっせーバーカ!!」


楽しげに冷やかしてくる弟に蹴りを入れながらも、顔が熱くなるのは止められない。



「……うん。兄さんにしては上出来だよ」

「………にしては、ってのは余計だ」

「あはは。でも良かった、ウィンリィ笑ったね」

「……おう」


なんて事はない。アルも同じ気持ちだったらしい。

やっぱり、あいつには笑顔が似合う。

その為ならオレは何だってやってやる。

そう、心から思った。






───が。



「でもさ。あれってある意味、愛の告白だよね」


直後、弟に言われた台詞に今度こそオレが絶叫したのは言うまでもない─────。





このシーンのウィンリィ一度描いてみたくてコミックス見ながら描いたけど、やっぱり疲れるわ…模写(もどき)って。だから兄さんは適当っす★





はいー。やっと出せた思春期12巻ネタでしたー。
絵はあんまり本文と絡んでないですが、弟にからかわれる前の兄とその頃のウィンリィって事で(笑)。
あんまりコミックス見て描く事ないから妙に新鮮だったよ…。
いや、この辺りは本誌出た時点で萌えまくってGIFアニとフラッシュも作ってるんですが。
あっちはホラ、台詞も原作そのまんまだからね。
それはそれでOKなんですが、ちょ〜っとだけ自分解釈でも補完したかったのですよ。
エド視点で。

…というか、12巻122頁の最後のコマ。
最初読んだ時、「うわ、エドやっちゃうの!?」と本気で興奮したのは私だけですか。
だってあの間! 兄さんの表情!
走り出そうとする汽車の窓に身体乗り出して、ウィンリィをぎゅーっくらいしそうじゃなかったですか!?
ぶっちゃけキスくらい仕掛けそうな雰囲気じゃなかったですかー!?(主張)
あ、でもこの場合のそれは「お前が好きだー!」という性的衝動じゃなくて
「オレがいるから頑張れ」という親愛の情多めでプリーズ。(細かいよ)

結局、原作シーンを極力変えたくなかったのでそこまではできませんでしたが。
少年の心の葛藤(笑)がほんの少しでも補完できたので自分的には満足ですv

そして散々兄をからかった翌日に、あっさり他の娘との仲を疑って「責任とんなよ!!」とのたまう弟が大好きだー!

(06.01.24.UP)