蒼白い月の光が、眩しい。 物音を立てないよう細心の注意を払ってズボンだけを身につけると、俺は寝台を降りて裸足のまま窓際に歩み寄った。 硝子越しに見上げる月は、真上よりもいくらか西の空に傾いている。 物言わぬ月は、だが確かに何かを俺に問いかけているようで。 根拠もなくそんな風に思う自分に、苦笑いが出る。 後悔はない。 やっと、欲しいものを手に入れたのだから。 いや───俺なんかが、手に入れられるような容易い「もの」ではない。 俺は、ほんの僅かな時間を共に過ごす事を許された……ただ、それだけの存在だ。 月から視線を外し、背後の寝台をゆっくりと振り返る。 そこにあるのは、先刻までの艶やかな姿とは打って変わってあどけない表情で眠る女の姿。 薄い毛布から覗く肌理細やかな美しい肌とシーツに広がる銀の髪が、月明かりに照らされて暗闇にぼんやりと浮かんでいる。 俺は……あと、何年生きられるのだろうか。 ふと、そう思った。 もともと堅気な商売ではないから、いつ死んでもおかしくないような生活だった。 望む望まないに関わらず、随分無茶もしてきた。 …寧ろ、俺はそこに死に場所を求めていたのかもしれない。 でも、今は。 1年でも1ヶ月でも。 例え1日でも長生きしたいと、切に思う。 今のこの姿のまま、永遠の命を約束された彼女を───残して逝くのが、辛い。 俺は別にいい。 死ねばそれまでだ。 だけど、彼女は。 自らが全く年を取らないまま、俺が老いていくのを否応なく見せつけられる事になる。 それは───どんなに精神的苦痛を伴うだろう。 生物としてのあるべき秩序から、自分だけが取り残される。 それは真の紋章を継承した時点で彼女にも分かっていた事だ。 誰かを側に置けば、それだけ失う哀しみも大きくなる。 分かっていて、彼女は俺を受け入れてくれた。 だが俺は。 俺は彼女にそんな苦痛を目の前で味わわせたくはない。 俺だけが老いていく様を───死に近付いてゆく姿を見せるつもりもない。 おそらく、俺はその前に彼女の元から姿を消す事になるだろう。 それは何年後、何十年後の話になるかは分からないが。 それでも。 彼女と遠く離れた空の下でも、1日でも長く生きたいと思う。 少しでも長く彼女と同じ時間(とき)を過ごしたいと思う。 せめてこの心だけでも、ずっと彼女と共にありたいと思うのは俺の我侭…なのだろうか。 「ん……」 ふいに女が小さく寝言を呟き、寝返りをうった。 ───普段の毅然とした態度は何処へやら。 俺は微かに笑みを浮かべた。 シーツを握って子猫のように身体を丸める女の傍らまで歩み寄ると、その額に唇を落とす。 「…ずっと、愛してるよ…」 自然と零れた言葉は、夜の闇に溶けて消えた─────。 |
短くてすみません!!
あまりに短いので急遽描いたラクガキで誤魔化し…げふげふ。←殴
でもゲームではできなかった分、少しオトナな雰囲気で
クリスEDでもシエラEDでも使えるようにとネタを捻り出したはいいが、
本当にどっちとも受け取れるように書けちゃうのもなんだかなぁ…と思ったり。
…キャラが被ってるというよりもナッシュの趣味が偏っているのか?(禁句)
ま、まぁ、こんな「その後」もEDの1つとしてアリかもという事で軽く流してやって下さい。
実際はシエラならナッシュが吸血鬼になる手があるし、
クリスなら炎の英雄みたく紋章を封印という手もあるかもしれない…。
ていうか、個人的にはそっちを希望(笑)。